不動産トピックス

【今週号の最終面特集】次の時代の街をつくる 新不動産戦略への積極投資

2023.11.13 11:42

人・地球に優しい未来の都市づくり 街全体を活用した実証実験を展開
産学連携で学際的な拠点を整備「プラネタリーヘルス」を創出
 不動産開発は単なるハコをつくるだけのスキームから、街をつくる面的開発へと進化。そして現在から未来に向かっては、街で生まれる新しい価値を周辺にも拡大させ、各拠点は相互に連携するハブとして機能する。不動産開発を手掛ける各社が見据える未来の事業戦略を紹介したい。

東大との100年間の協定締結 高輪に新キャンパス開設へ
 2020年に開業したJR「高輪ゲートウェイ」駅。同駅を起点に広がる9・5haの区域は「TAKANAWA GATEWAY CITY」として、オフィスや商業、住宅など、あらゆる機能を集約した街として2024年度末の街開きを目指し開発が進められている。本街区ではAI(人工知能)やロボットといった最先端の技術を活用した実証実験の舞台として様々な取り組みが展開されることでも話題となっている。その一環として、開発を手掛ける東日本旅客鉄道(東京都渋谷区、以下JR東日本)は先月25日、東京大学との間に100年間の産学協創協定を締結。両者が協力し、100年先の豊かな暮らしの実現に向けて「プラネタリーヘルス」の創出に向けたプロジェクトを推進すると発表した。このプロジェクトの拠点として、東京大学は日本初となるプラネタリーヘルスをテーマにしたキャンパス「東京大学 GATEWAY Campus」を街区内に開設する。
 プラネタリーヘルスとは、人の経済活動が健康や都市環境、地球上の生物・自然に与える影響を分析し、「人・街・地球」のすべてがバランスよく良好に保たれるような暮らしづくりを目指す考えを指す言葉である。日本国内においてはまだ馴染みの薄い用語であるが、2015年に世界的に権威のある科学誌によって紹介され、長崎大学をはじめ学術研究が進み始めている分野である。JR東日本と東京大学は「TAKANAWA GATEWAY CITY」でのプラネタリーヘルスの実現に向けて、約300坪の新キャンパスを現在開発中の「複合棟1. South」の9階に開設。コラボレーションエリアとラボエリアを設け、本郷・弥生や駒場といった東京大学の他のキャンパスと連携しながら、多様な研究室が集う学際的な場として、様々な企業・アクセラレーターとの協創を生み出す。
 人や街、地球に優しい未来の暮らしの実現に向けて、情報学・都市設計の分野では、街のデータ基盤(都市OS)を活用した新たなスマートシティのあり方を模索。交通系ICサービスの「Suica」との連携も検討し、人の移動や消費に関するデータを活用した駅および街の混雑解消やフードロスの削減につなげるとしている。また、農学・環境学の領域では約2・7haの在来種を基調としたグリーンを舞台に、学生や地域住民らとともに、世界一豊かで先端的な都市型緑化を目指す。街で栽培した植物を原料として素材を生み出し、商品化までを行うサーキュラーバイオエコノミーにも取り組む。このほか、医学・先端科学の分野では住宅棟の住民向けに最先端の睡眠解析アルゴリズムを取り入れた快眠につながるサービスの提供を行うなど、人や地球環境に優しい実証が展開される予定だ。
 文京区本郷の東京大学大講堂(安田講堂)で行われた締結式にはJR東日本の深澤祐二社長、東京大学の藤井輝夫総長をはじめ関係者が出席。この中で深澤社長は「生活や健康に関わるデータについては、JR東日本グループが展開しているスポーツクラブや食の分野などの関連サービスとも連携させていきたい」と述べている。

中長期ビジョンを改定 賃貸収益1000億円を目指す
 森トラスト(東京都港区)は今月6日、港区東新橋の「コンラッド東京」にて新中長期ビジョンの発表および懇親会を開催した。
 同社は、現代表の伊達美和子氏が社長に就任した2016年より、10年先の未来を見据えて「日本のグローバル化」、「地方創生」に向けて強い財務基盤を維持しながら、安定的な成長を目指す中長期ビジョン「Advance2027」を策定し、2027年度の売上目標に2300億円、営業利益に500億円を掲げ、不動産・ホテル・投資の3事業を推進してきた。同社グループではこの中長期ビジョンの最終目標を既に2019年度より4期連続で達成しており、賃貸関連収益およびホテル関連収益は過去最高の売上高を更新している。
 今回、新中長期目標として「Advance2030」に改定し、2030年度までに1兆2000億円の事業投資を行うことで、賃貸関係事業、ホテル関係事業、不動産販売事業でいずれも1000億円超の営業収益を目指し、最終年度の2030年度には売上高3300億円を達成する目標を設定した。
 不動産事業では、港区虎ノ門で現在開発中の大規模複合開発プロジェクト「東京ワールドゲート赤坂」が2025年のグランドオープンを予定しており、「NEXT DESTINATION」をコンセプトに東京都心の新しいランドマークとして国際都市力向上の一助となる開発を目指している。また、海外投資の事業領域では、ライフサイエンス分野に関わる企業、ベンチャーキャピタル、行政、教育機関の全米屈指の集積地である米国ボストン市にて、ライフサイエンスラボ&オフィス「15 Necco Street」の共同開発事業に参画。ニューヨーク・マンハッタンの中で、経済・文化の中心地であるミッドタウンエリアに位置する「245 Park Avenue」においてリノベーション事業に参画している。
 ホテルおよびリゾート事業では、国内屈指のリゾート地・軽井沢の老舗ホテル「軽井沢万平ホテル」の大規模改修・改築事業や、長崎でのホテル開発を推進。その他にも新たに2030年度までに2000室のホテル客室の供給を目指す。森トラストでは現在日本国内に30施設のホテルを展開しているが、今後は開発中を含めた25件の計画に基づき、観光のゴールデンルートである東京・京都に加え、伊豆箱根エリアや北陸エリアなどにインターナショナルホテルの誘致を推進する。
 伊達社長はこのほか近年注力している事業分野としてDXを挙げており、自社開発したワークスペース管理ツール「Work Agile」や、ロボットの積極的な導入に向けた実証実験の推進やロボットフレンドリーな環境の構築についても触れるとともに、サステナビリティの分野では「『まちづくりから みらいづくりへ』をスローガンに掲げ、持続可能な社会の実現に向け策定したアクションプランの実行を引き続き行っていく」と述べた。

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