不動産トピックス

【今週号の最終面特集】賃料上昇・リーシング強化に成功 ビルオーナーの行うオフィス戦略

2023.11.06 10:16

都内でセットアップオフィス増加 賃料上昇率130~180% 20~50坪が理想
 「セットアップオフィス」。オーナーが什器の設置やレイアウトを担い、テナントを誘致する。什器等のコストは掛かる。がテナントは入居と同時に事業を開始することが可能。手間の削減に繋がり好まれるケースが多い。年々増加傾向のセットアップオフィスの近況と事例に迫った。

「いちご目黒ビル」取得 8~9階セットアップ
 不動産の有効活用とエネルギー創出を軸に展開しているいちご(東京都千代田区)は、昨年8月に「いちご目黒ビル」を取得。8階と9階をセットアップオフィスに改修し、現在リーシングを行っている。
 同社は現存不動産に新しい価値を創造する「心築(しんちく)」、太陽光発電や風力発電等の「クリーンエネルギー」、3つの上場投資法人をはじめとした不動産運用を行う「アセットマネジメント」をコア事業に展開してきた。その中の「心築」に関連する取り組みが、今回のセットアップオフィス。「ICHIGO SET―UP OFFICE」とブランド化し、これまでに「Cocoro Gotanda Bldg」や「Cocoro Kanda Bldg」、「いちご大手町ノースビル」等でも展開してきた。規模はおよそ20~90坪で、理想は20~50坪ほど。賃料上昇率は130~180%。今年は既に5棟で展開している。

移転業務の手間削減や初期コストの圧縮に
 今回改修を行った「いちご目黒ビル」は、JR線・東京メトロ・都営地下鉄「目黒」駅から徒歩6分、下目黒6丁目に立地。1989年9月竣工の地上9階建てで、延床面積は1595・27㎡の中規模オフィスビル。ビルは取得後に一部でリニューアル工事を行い、快適性・利便性を高めた。このリニューアル工事と並行し、8~9階をセットアップオフィスに改修。9階は室内デザインや什器を全て取り揃えたフルセットアップ。一方8階は家具付き会議室のみを整備し、専有部内を自由にレイアウトできるオフィスで提供する。1フロア1テナントでのリーシングで、契約は普通借家契約。別途費用は発生するが、その他に看板や平置き駐車場なども利用できる。
 いちご地所 心築投資部 兼 心築運用部の大下貴史氏は「セットアップオフィスは、テナントの移転業務における手間削減や移転初期コストの圧縮、また移転後の事業開始スピードを高めることにも繋がります。20~50坪の規模が多いことから、ベンチャー企業やスタートアップ等で今後人員を増やし、更なる成長を想定しての移転などに適しています。実際、恵比寿や品川界隈のIT系からの問い合わせもあり、セットアップの事業戦略やリーシング対象は狙い通りではないでしょうか」と語った。ちなみに同オフィスでは日商保(東京都港区)が展開している「敷金フリーオフィス」を適用。テナントは事前に同社へ敷金を預ける必要はなく、初期負担を軽減しての移転が可能だ。
 今後同ビルではセットアップオフィスを順次行い、空中階では6階テナントを除く全フロアでのセットアップを計画する。「目黒」駅周辺ではセットアップオフィスの数が少ないこと、潜在的な需要も垣間見て展開していく。

「VORT麹町Ⅱ」2階をセットアップ
 ボルテックス(東京都千代田区)は昨年6月、共同出資にてSPCを組成し「VORT麹町3.(旧麹町PREX)」を取得。今年9月には同ビル2階でセットアップオフィスを開始した。
 「区分所有オフィスR」を主軸に資産形成コンサルティングを行う同社は、東京都心部や大阪・福岡等の主要オフィスエリア及び商業地を中心に、資産価値の高い中規模ビルを取得してきた。「VORT麹町3.」もその1棟。同ビルは視認性に優れた新宿通り沿いに建つ中規模オフィスビルで、2018年3月竣工の地上12階建て。基準階の2階~12階は224・43㎡(67・89坪)。自由度の高い整形の間取りで、エントランスセキュリティ、駐車場6台、風除室、各フロアに男女別の化粧室等を備え、入居者に快適なオフィス環境を取り揃えている。アクセスは東京メトロ有楽町線「麹町」駅から徒歩1分。ほかにも複数路線が利用可能。他のオフィスエリアにも移動しやすいアクセス性の高さも強みである。
 セットアップを行ったのは2階フロア。内装は明るいホワイト、グレーベージュを基本とし、石目調の壁紙やタイルで「VORTR」らしいラグジュアリーな空間を演出。またエントランス、ラウンジ、ミーティングルーム、執務室など、エリアの役割ごとにファシリティのテイストを変えた。区切りを表現しつつ、オフィス空間全体の統一感を保つことができた。
 リーシングコンサルティング部リーシングマネジメント課の木塚健太郎氏は「エントランスエリアでは、会議室側の壁面の一部を受付として利用できるように加工しています。テーブルセットもあるため、待合スペースや入居テナントの休憩スペースとしても利用可能です。加えて小上がりが特徴的で、適度にゾーニングされたラウンジエリアでは、ソファタイプとテーブルタイプの2つを配置しました。急な来客時のミーティングスペースとしても活用できます。ミーティングルームは6人用と8人用を用意し、他のオープンエリアとは区切られていますが、ガラス張りにすることで開放感もある空間となっています」と語った。

簡易宿泊所からオフィス VORT麹町plus
 麹町・半蔵門は新宿通り沿いを中心に大規模・中規模のオフィスビルが建ち並ぶ。上場企業や一部外資系企業もオフィスを構えており、国会議事堂、最高裁判所のある永田町界隈や各省庁のある霞が関等にも隣接。場所柄、士業関連や財団法人が多く、手堅いオフィスエリアとして認知されている。実は同エリアにボルテックス保有及び「VORT」シリーズの物件は多い。今年5月には世界的建築家が設計した簡易宿泊所(カプセルホテル)をオフィスへ用途変更。保有物件として管理し、ビル名を「VORT麹町plus」として展開を始めた。
 「VORT麹町plus」は2020年6月竣工、地上10階建てのオフィスビル。「VORT麹町3.」からは新宿通りを挟んだ、反対側の内側エリアに立地する。同ビルでは1階にテナント専用の共用部を設けて、来客用の打ち合わせや数名での会議、気分転換も兼ねた休憩やワークスペースとして機能。また5階と9階ではセットアップオフィスを実施し、5階はラグジュアリーなデザインに。一方9階はカジュアルなデザインと、違いや差別化を図った。オフィスの賃貸面積は双方共に約110㎡(32~34坪)と、ベンチャー企業やスタートアップのワンランク上の成長移転に適している。念入りにターゲットを絞ってのセットアップ成功事例と思われる。


窓際の眺望を生かして席配置
いちご地所 心築投資部 兼 心築運用部 大下貴史氏
 「いちご目黒ビル」のセットアップオフィスは、面積が182・55㎡(55・22坪)。フリーアドレスの比率を高めて、自由度の高いデスクレイアウトを意識しました。一方リアルなコミュニケーションも図りやすいように、仕切りのない一体空間としてオフィス環境を統一。ウェブミーティングや会議室、集中ブースなどのコーナーも設けて、多様な働き方にも応えました。オフィスは湾曲した形をしており、窓からは目黒川を臨む眺望も特徴です。この眺望と湾曲したスペースの活かし方として、窓側に席を設けました。これらのスペースでは、リフレッシュや気分転換を兼ねた使い方ができ、数人でのチーム作業にも対応できます。

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