不動産トピックス

第19回不動産ソリューションフェア セミナー・パネルディスカッション再現

2017.12.25 10:04

 2020年オリンピックが日に日に迫るなかで、街づくりも進んでいる。その主要な役割を果たしているのは不動産デベロッパー。外国人の利用も増えるなかで、彼らはエリアマネジメントをどのように考えているか。今回は東京都住宅供給公社理事長の安井順一氏をコーディネーターに3社のデベロッパーが登壇した。

安井 まずは、登壇者の方々が東京をどう変えていきたいのか、お聞きしたいと思います。
井上 三菱地所が大手町、丸の内にビルを所有しているということは皆様ご存知かと思います。すべてのビルを三菱地所で保有しているわけではなく、このエリア内にある約100棟のうち当社が保有しているのは30棟ほどで、当社は他のビルをお持ちの方々、地権者の方々とともに街をどうしていこうかということを考えています。そのための協議会など様々な組織をつくり皆さんの意見を集めていますが、地権者だけではなく、行政や学識者と連携しながら、丸の内だけではなく東京、そして日本の価値を向上させることにつなげていけないかと考えています。
 当社が掲げているのは「人が主役の街づくり」という言葉です。ビルが主役ではなく、そのなかで人がどういうことをするかということが大切なのではないかと思います。大事なのは「新しい発想」、「刺激」、「リアルな体験」そして「フェイストゥフェイス」です。最近はコミュニケーションツールが発達して離れていてもその場にいるかのようにコミュニケーションできるのも事実です。ただ、最後の重要な場面ではフェイストゥフェイスがカギを握っていると、我々は実感していますし、この先まだしばらくは続くと思っています。単に顔を合わせるのではない、いかに深いコミュケーションがはかれるか。そういう空間を念頭に置いているということです。
 少し具体的な話をしますと、「東京」駅から伸びる行幸通りは、舗装がアスファルトから石畳になりました。ここは小池都知事や環境大臣も出席した打ち水イベントなど、さまざまな催しができる場所になっています。整備は今も進んでおります。行幸通りの日比谷通りより西側でも、整備済みの箇所と同じような意匠への改修が進んでいます。これが完了しますと、「東京」駅から皇居までの景観が非常に優れたものになります。
 もう一つが丸の内を南北に通る丸の内仲通りです。1960年と比較して、ビルとビルの間の距離は変わっていないのですが、車道を狭くして歩道を広くすることで通りやすい空間。歩いて楽しい、ベンチで休める。平日の午前11時から午後3時までは車を通さず、車道も歩けるような空間になりました。人通りも増え、平日もですが特に休日は2倍から3倍に増えました。昔はこの通り沿いには銀行の店舗しかなく、午後3時にはシャッターが閉まって夜間や休日はほとんど人通りがありませんでした。それがこのように大きく変わりました。同時に考えているのが道路の活用です。当社もビルの中ばかり考えがちですが、隣のビルとの間の道路をもっとうまく使うとエリアとしての価値があがるのではないかと考えました。丸の内エリアは国家戦略特区に指定されており、道路空間を普段とは異なる用途に使えるところがあります。そこはイベントを開催するなどしています。今年3月は「道路空間活用のご案内」というパンフレットをつくり、道路活用について周知を図りました。イベントも年に数回だったのが、このパンフレットを配るようになってからは問い合わせや依頼を月に数十件受けるようになりました。道路ですから単純な宣伝などには使用できないのですが、街の価値向上や東京、日本のアピールに使えるようになっています。実際の例を挙げますと、文化的なイベントやスポーツ、それからアーバンテラスとして夜遅くまで開放したり、クリスマスにもイルミネーションと夜間の開放を行っています。
角田 森ビルはこれまで100近くの開発プロジェクトを展開してきましたが、ほとんど全てが他の地権者との共同事業です。これは森ビルのレゾンデートルであり、戦災復興から企業としての歴史が始まったということもあるのですが、東京をもう一度変えていきたいという思いを持っています。ひとつのプロジェクトは短くても10年、長いものでは30年程を擁します。開発エリアはドミナント戦略をとっており、「六本木ヒルズ」があるエリア、「アークヒルズ」があるエリア、それと「虎ノ門エリア」です。これらのエリアを全部足しても200ha程度の面積です。港区の面積が2000haですので、10分の1の中のさらに限られた場所で、地権者と一緒に街をつくっています。丸の内とはちがった形で、国際都市東京の新都心をつくっていきたいという強い思いで経営資源を戦略的に選択・集中して投下しているということです。
 街づくりのしかたですが、社内ではいつも「バーティカルガーデンシティ」という言葉を使っています。とにかく建物を高度にしていく。高く積み上げて、そこにオフィスだけではなく住宅や商業、文化施設など、様々な要素を盛り込んでいく。そして空いたスペースを緑で埋め尽くしていく。それから人工地盤を張ることによって歩者分離をはかる。これが設計思想です。また「都市を創り、都市を育む」という標語をよく使いますが、これは「創る」だけではなく街を「育てていく」ということです。例えば「六本木ヒルズ」では田んぼでお米を作っています。写真をお見せすると合成ではないかと思われるようなのですが、実際に森タワーのすぐそばで田植えをしています。近くには小学校や幼稚園もありますし、みんなで楽しんで参加されています。地域内で地権者の信頼を勝ち取りながら次のプロジェクトを進めていくため、当社は人のつながりを非常に大切にしています。秋のお祭りなどでは御神輿を社員総出で担いだり、東京の街づくりに寄与していきたいという思いを持って社員一丸で取り組んでいます。
田中 本日ご紹介するのは大手町、八重洲、虎ノ門、品川、渋谷など各エリアでの開発事例です。まず大手町ですが、ビルを更新するために別の土地と入れ替えて更新する連鎖開発を行っています。現在はその4つ目のプロジェクトになります。連鎖開発とは別のプロジェクトもありまして、約36万㎡の土地に2棟の建物を建てています。高さが約200mで、NTT都市開発とともに施工しておりまして、またNTTや郵政グループとも一緒に計画を進めています。計画はカンファレンスや駅との接続、避難場所としての機能などを重視しています。
 八重洲では東京建物や三井不動産とともに計画を進めています。大きなテーマとしては敷地内のバスターミナルがあります。バスターミナルは中長距離を想定しています。実は「東京」駅には、丸の内側も八重洲側も、現時点でバスターミナルに資するようなものがなく、路上にはみ出して停めているような状況です。八重洲側にはグランルーフの整備と同時に相当数のバス停留所が設けられましたがまだ相当数が飛び出ており、まだ足りていません。これらを集約するのが目的で、「新宿」駅前に開業した「バスタ新宿」と同様のイメージです。全体としては相当大きなバスターミナルなのですが、3つの再開発が完成して初めて全体が機能するもので、ひとつだけでは片肺飛行で事業的には成り立ちません。そこで私どもが完成までの間、事業を下支えして全体の完成後に路線を整備して民間に運営して頂くという考え方です。
 次が虎ノ門です。このエリアで私どもは、環状2号線の整備と合わせた「虎ノ門ヒルズ」の周辺、なかでも日比谷線の新駅について、事業主体が私どもとなっています。実際の計画推進は鉄道事業者である東京メトロですが、事業主体としては私どもが国から補助金を頂くなどして、周辺の開発が進むにつれて負担金を頂きながら費用を賄い、計画を進めています。それとは別に、ホテルの建替えと病院の建替えもあります。病院は虎の門病院を所有するKKRと共同で進めています。このプロジェクトも建替えを連鎖的に起こして、既存の病院を稼働させながら隣地に新病院を建設し、新病院に移った跡地にオフィスビルをつくるというものです。病院は「オリンピック病院」ということで、多言語対応であるとか国際基準の医療を提供し、オリンピックの選手やスタッフは基本的にこの病院をご利用頂くということです。私どもはオフィス部分と再開発の手続きなどを担当しています。
 次に品川です。リニア建設が動き出し話題の多い品川ですが、JRの操車場が不要になったことから、操車場跡地の活用を現在は推進中です。この場所には新駅が設置される予定で、できれば2020年のオリンピックに間に合わせたいと考えていますが、全体完了は間に合わないものの暫定形で間に合わせようと工事を進めています。また、駅だけではなく環状4号線を延伸して通すことになっており、そのなかで私どもはヤード部分と産業道路沿いのビルの区画整理を担当します。駅は2020年に暫定開業すると聞いております。
 次は渋谷です。「渋谷」駅は東京メトロ、JR、東急と交通インフラが集中しています。ここも権利の組み換えや土地区画整理事業とあわせて鉄道、道路を整備していくことになります。地上の平面図でみると、大きな違いはないように思われるかもしれません。しかし地下では大きな工事が進んでおり、毎日のように導線が変わっています。できあがると「渋谷ヒカリエ」の中にあるような縦移動を可能にするコアがいくつか整備され、「そのコアからどの方向にいけば○○がある」、「○○に行くにはどのコアから出ればいいか」、といった案内もできるようになります。
安井 このあとインフラについてご意見をお聞きするのですが、前回のオリンピックの時にできたインフラとしてまず思い浮かぶのは新幹線。それから首都高です。日本が戦災から復興し、世界に再びデビューするためのオリンピックだったわけです。今回は一部東京以外でも協議は行われますが、全体にコンパクトにということで、競技場は前回の施設を建替え、臨海部に選手村や競技用施設を集中させます。東京と関西の間に新幹線を通すといった規模のインフラ整備はありません。羽田空港の国際線増便など、既に行われている計画をオリンピックに結びつけて加速しようという動きはありますが、実はこれも地上の駐機スポットがまったく足りていません。羽田空港を再々整備しようという声も挙がっており、研究もはじまっています。海側に駐機場と新しい国際線ターミナルをつくらなければという話が出てくるのではないかと思っています。
 この羽田の話と同じように、東京の発展は常に海に向かってきました。先ほど環状4号線の延伸という話題がありましたが、この通りは高輪で止まっています。そこから国道15号まではつながっていません。これをなんとしても国道15号に接続させなければなりません。それから環状2号線。これは臨海部と都心部を結ぶために、オリンピックがあろうがなかろうが完成させなければならない道路です。オリンピックのとき暫定道路として通すと、海側からと都心側から、それぞれ一方通行になるわけです。どんな優秀な選手でも競技に遅れることはできませんので、非常に危機的な状況です。
 そして、公共交通機関を使って最も時間がかかるのが六本木エリアです。八重洲の開発に合わせてバスターミナルをつくる話がありましたが、これも羽田と都心をむすぶ重要なインフラになります。とはいえ東京の交通機関で重要な位置を占めているのは地下鉄ですから、六本木、白金近辺から羽田までの地下鉄を通す必要があるのではないかと思います。現実的には南北線の延伸になるかと思いますが、オリンピックまでに将来の東京像を提示して、アピールしておく必要があるのではないかと思います。
 まず井上さん。今日のお話の中で、東京あるいは日本の価値を高めていくというお話がありました。その過程で道路の活用や観光、防災などがでました。では東京の価値というのは何なのか、それをどういう形にしていくお考えでしょうか。
井上 当社も含めて、2040年に向けた将来構想のなか東京では様々な開発が行われています。今までのように都心や副都心といった位置づけではなく、それぞれの場所で行われているそれぞれの開発が魅力になって、東京全体として注目されるようになれば、という考え方に変わってきています。「日本の人口が減るといわれているなか、こんなにオフィスビルをつくってどうするのか」という話もあります。そこはもっと海外に開いて、ビジネスでも観光でも海外の人から注目されるようにならないといけないと考えています。一時期、東京はロンドン、ニューヨークとならんで世界の三大金融拠点だという話もありました。しかし東南アジアの国々がこれだけ発展していくなか、それらの国々が日本を中心としているかというと、やはりシンガポールに拠点を置いている企業が多いのも事実です。やはり東京のみならず、日本そのものが認識されることが必要です。東京だけでは足りない部分、ビジネスや観光も含め、日本全体がマーケットとして認識されなければなりません。
 ではそこで丸の内に何ができるかということになりますが、六本木や虎ノ門と喧嘩して取り合っても良い影響が現れません。東京全体の魅力を海外にアピールする必要があります。例えばオフィスのなかでの新しい動きである、フィンテックの企業が集まり働きやすい環境をつくる日本に進出する企業が身一つで来て頂ければオフィスも会議室も受け付けも提供する。あるいは外国の人が生活しやすいようにサービスアパートメントを整備する。これは八重洲になりますが、インターナショナルスクールを入れる。海外の人が生活しやすい、働きやすいような環境をつくっていく。いわゆるオフィス床だけではない、周辺機能の高まりに対応していかなければならないと考えています。これは丸の内だけの話ではありません。海外から来た方々が選べるように私たちも選択肢を用意しておくことが大事です。
安井 続いて角田さん。「モノクル」というイギリスの雑誌が公表している「世界の住みやすい都市ランキング」では、2年連続で東京が1位でニューヨークやロンドンはあまり出てきません。交通機関の定時制や、住人一人あたりの劇場の数、くつろげる喫茶店があるかどうかなど、そうした要素が東京を1位に押し上げる要因となっています。森ビルでは、東京における外国人の住みやすさについてどうお考えですか。
角田 「モノクル」の編集者とは懇意にしておりまして、来日されるたびお会いしています。その際、「都市の魅力とは何だろうか」という話題がよく上がります。私の答えはひとつしかありません。「そこにどんな人がいるか」です。どんな人が住んで、どんな人が働いて、どんな人が遊びにくるか。森ビルは「アークヒルズ」以来、多くの外国の方と接してきました。そのなかで、彼らにどんな住環境が望まれているかが体感値としてあります。それはトータルパッケージですね。働くところ、住むところ、遊ぶところ、それと自然が歩ける範囲にある。そうした都市を創っていくのが我々の必定の道なのです。
 また、ここ10年で圧倒的に市場が変わってきたと感じています。日本国内での競争ではありません。東京にアジアを統括している企業がどれだけあるでしょうか。ほとんどないというのが現状です。この状況を打破するには官民が総力を結集していく必要があります。 安井 次に田中さん。先程ご紹介頂いたそれぞれの開発について特徴を今一度お願いします。
田中 まず大丸有ですが、インフラが整っています。また、災害が発生した際はおそらく日本でいちばん最初に復旧できるエリアです。そうした場所でないと、グローバルの競争には勝てません。虎ノ門の興味深い点は、六本木と新橋と霞が関の中心という位置です。ハブになる場所なので、交通の強化は必須であると思います。品川は、操車場跡地を超えてどう臨海部に向かっていくか。渋谷は谷底の地下に鉄道があり、それを垂直につないでいかなければなりません。周辺の機能との連携の議論もまだまだで、関係者が一体となって考えなければなりません。
安井 多様な都心をもっているのが東京の強みで、多様な都心をどうつなげていくか。これを意識して、都市計画法を使っていくか。これを使いこなさないと、東京の浮上はないのではないかと思います。そのうえで、エリアをどうマネジメントしていくか。こうした点を意識して東京に磨きをかけていくことが、大事なのではないかと思います。

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