不動産トピックス

【今週号の最終面特集】ビル管理業界 環境革新の一手

2024.02.05 10:38

人材不足が叫ばれる管理業界に潜む根本課題を解決
清掃ロボット導入で募集コスト76%削減事例も
 昨今、不動産管理業界では「人手不足」が叫ばれている。そこに潜む根底の問題を正しく理解することが、解決の鍵につながると言える。今回はこれまでに無かった角度からのアプローチを通し、ビル管理業界の課題に向き合う企業を追った。

管理業界に慣習のメス 今こそ運用見直しを
 ビルポ(東京都中央区)は、ビルメンテナンス業界向けポータルサイト「ビルポ」を運営している。  2022年3月、中部地方を中心にビルメンテナンスを展開するコニックス(名古屋市中村区)に13年間従事していた稲垣太一氏により創業。ポータルサイトのほか、ビルメン情報メディアや求人サイトの運営、ビルメン会社の総合DXコンサルティングを通して不動産管理業界に潜む課題解決を目指している。
 その課題の背景には、オーナー側がビルメン会社に仕事を依頼する際の発注方法にある。主な2つの形式のうち、一つが「仕様発注」。トイレ清掃が一日何回か、床を何回掃除機掛けを行うなど記載がある。仕様発注は金額のみで業者選定を行うことができるので業者選定は楽である。しかしながらその仕様発注では清掃頻度は明記しても品質は保障されずまた建物の経年や使用用途、人流にも柔軟に対応することが困難である。そのため「安かろう悪かろう」の会社が選ばれがちである。また金額を安くする=仕様減となるので発注側には不都合な発注方法である。昨今のスマートビルディングにおいては、今年の6月に政府によるアナログ規制の条項見直しが完了する。法律面からも遠隔管理を推奨する中、こうした事情を踏まえて稲垣氏は、センサーやロボットを活用したメンテナンスにおいて最も効果的な「性能発注」に切り替えることをビルオーナーに勧めている。「例えば、大学の食堂やトイレ。長期休みに入ると学生はほぼ来ませんし、授業日も時間帯によって利用頻度は変わります。性能発注ではあらかじめ把握した利用頻度、汚れの状況をもとにSLA(サービスレベルアグリーメント)を決めて清掃を発注するため、発注者の求めるクオリティと実際の成果のギャップが生まれにくいのが大きなメリットです」とするのが稲垣氏の考え方だ。
 ビルメン業界の課題に寄り添うべく、ビルポが注力している事業の一つがビルメン会社専門の求人サービス「ビルポパートナーズ」。昨今のビルメン業界では、技術者の高齢化や少子化などを背景に人手不足が叫ばれる。そのカバーをするためには、若手人材の採用・育成、DX化が急務とされている。
 が一方で稲垣氏は、「本当に不動産管理業界は、人手不足であるのか?」との疑問を提している。少子化は緩やかな一途をたどっているものの、急激な人口減少は少なくとも都心部では見られない。今は外国人労働者の受け入れも進んでいること、シニア世代も働きやすい業種であることなどで、多様な人材を受け入れられる環境が整っていると捉えることもできるからだ。
 求人サービスは、現在の管理業界への疑問を実証することも目的とした。実際に、サービスを通じて各企業の求人分析を通して得られた成果は大きい。
 「『人がいない』というのは言葉遊びで、実際には『求めている人材の応募が来ない』状況です。そこで必要なのは、募集の仕方を工夫すること。例えば勤務時間。『9-15時』よりも、出勤時間に余裕がある『9時30分-15時』の方が、人が集まりやすい。つまり、応募単価が安くすみます。当社が集めたデータによると、いくら時給が高くても、開始時間が早いと集まりづらいことが判明しています。『求職者が集まりやすい環境づくりを分析する』は盲点で、実行していないビルメン会社は意外と多いです」(稲垣氏)
 とはいえ、分析結果から時給が高いと人が集まりやすくなるのは事実。給与をあげるための努力は必要と考えられる。

清掃ロボットが選べる時代 導入で月728時間削減も
 勤務時間を従来から変えるのであれば、もちろん清掃方法の在り様も見直す必要がある。有効な手だての一つが「清掃ロボット」の導入だ。人がいない時間、いない場所をカバーするために清掃ロボットを導入することで、実働人数・時間の削減を達成できる。
 ビルポがコンサルティングした例を挙げる。関東圏を中心にビルメン事業を展開する新日本ビルサービス(さいたま市見沼区)。1600名規模の同社では、昨年の10月から23の管理現場に107台のロボットを導入。結果、11現場で時給アップ、募集コストを76%削減、月728時間の労働時間の削減に成功している。
 「ただロボットを使えばいいわけではありません。ビルの規模やレイアウト、使用頻度などによって、導入するロボットを変えていく必要があります。トイレ一つを取っても、個室によって一日の使用頻度が違います。弊社が全国のビルメンテナンス会社にコンサルティングを行っているのはその実証でもあり、今後はデジタルファシリティマネジメントに至るまで、ビルメン会社を全面的にサポートしていきたいと考えています」(稲垣氏)
 現在全国のビルに導入されている清掃ロボットのうち、稼働をしているのは約5割と言われている。残りの5割は、「使い方がわからない」という理由で放置されている。またロボットを本来の目的に活用せず清掃会社へのダンピングに利用されたりしている。昨年からは、中国の清掃ロボットの日本市場への参入が本格化。安くて上質な個体が出回りつつある一方、サイバーセキュリティの不透明性などクリアすべき課題もある。今は国内メーカーも参入が増えて、それぞれ得意分野の違うロボットを選べる時代となった。まずはビルオーナー自身がビルの特性を把握し、メンテナンス上の課題と手段があることを正確に捉えておくことが必要といえよう。

在職者の生の声を掲載 新機軸の企業口コミサイト
 Zenken(東京都新宿区)は、企業に在籍する現役社員の声をもとに求職者にとって働きがいのある企業選びを支援する情報メディア「VOiCE」の運営を行っている。
 企業にとって優秀な人材の確保は大きな課題となっている。一方求職者にとっては、その企業での勤務経験のある者の声は、自分にとって働きがいのある会社かどうかを判断する上で参考となる要素となる。「VOiCE」の開発に携わったZenkenのeマーケティング事業本部長、本村丹努琉氏は「求職者のおよそ9割が、求人情報を見つけた後にその企業の評判を口コミサイト等で検索するというデータがあります。現場の声を参考にしたいというニーズは確かに存在しているものの、口コミサイトに掲載されている情報は退職者視点の企業に対する不満点が多くを占めており、働き手が不足している現代において企業の採用活動を阻害しかねません」と話す。
 eマーケティング事業本部の福田祐太郎氏は「VOiCE」で掲載される企業の情報について、「登録企業に対して社内サーベイ用のアンケートを実施し、その結果を公表します。ポジティブな質問事項はもちろんのこと、ネガティブな点についても公平にヒアリングを行います。しかし、口コミサイトにあるように不満点を述べるのではなく、企業の成長や魅力アップに向けて改善した方が良いと思う点と、その改善に向け何をすべきか、あるいは経営陣はどのように対応しているかを回答して頂きます」と話す。「VOiCE」は企業の評価について、現場で働く社員と経営陣の間に意識の差を縮めることにも貢献する。
 「求人の応募から、面接、採用に至る過程で、一定数の求職者は企業の口コミサイトに掲載された評判をもとに採用を辞退するとされています。『VOiCE』を活用することで、今まさに企業で活躍する社員の声を求職者は知ることができ、結果的に歩留まり率のアップを実現できます。また社員の忌憚のない意見から経営陣は企業が改善すべき点に正面から向き合うことができ、企業の強みを伸ばすことにもつながります」(本村氏)
 積極的な採用活動を行う企業ほど活用のメリットが高まるという「VOiCE」。不動産業界でもハウスメーカーや管理会社、コンサルティング会社などで登録企業が増えつつある。現在は全国154社が登録、情報を公開しており、同社によれば5年後に5万社の登録を目指しているとのことだ。

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