不動産トピックス

【今週号の最終面特集】環境・防災・新しい働き方に対応 未来型次世代オフィス

2024.01.29 10:12

入居企業・地域とともに成長するオフィスビル 防災・環境性能に特化した設計
各階にバルコニーを設置 避難経路確保や省エネに効果
 昨年末、次世代型のオフィスビルとして企画・開発された「鈴福ビル」が竣工した。働き方改革の推進によって始まった、オフィスワーカーの働き方の変容。その後はコロナ禍におけるビジネス環境の変化やDXの浸透、SDGsの認知拡大に伴う環境配慮への対応など、働き方をめぐる動きは目まぐるしく変化している。今回竣工した「鈴福ビル」はこの変化に対応するとともに、将来にわたっても変化するビジネス環境に対応するビルとして建築された。

最上階には多目的スペース 災害時の一時避難施設に
 「鈴福ビル」は渋谷区千駄ヶ谷4丁目の、明治通りからJR「千駄ヶ谷」駅方向に進んだイチョウ並木が美しい沿道に立地する。建物は地上7階建てで、敷地面積は958・40㎡、延床面積は3568・10㎡。2021年10月から建築工事がスタートし、昨年末に竣工を迎えた。外観は近隣に位置する国立競技場とのデザイン面における近似性を意識し、イチョウ並木との景観のバランスにも配慮したデザインとなっている。1階は地域に開かれた店舗区画が2区画用意されており、2階から7階は事務所仕様となっている。最上階の7階には多目的室が設けられており、キッチンやシャワー室を完備。入居企業の利用のほか、災害時においては避難場所としての機能も果たすことになる。また5階にはルーフガーデンが設けられており、自然を感じながら業務に打ち込める区画が用意されているほか、空中階の各階の接道面にはバルコニーを設置。バルコニーは避難階段に通じており、建物内での有事の際にはバルコニーからすぐに避難することが可能な設計となっている点も、大きな特徴だ。
 物件の設計監理を担当した翔設計(東京都渋谷区)によれば、今回のプロジェクトは「未来型次世代オフィス」として計画されたという。このコンセプトに合致する取り組みとして、「鈴福ビル」では「防災対応」、「情報地域コミュニティ」、「省エネルギー・環境共生」、「新たな働き方」、「外観デザイン」、「事業性と継承」の6つのテーマを反映されているという。同社代表の貴船美彦氏は「6つのテーマには、『地域に根付いたビルにしたい』というオーナーの思いも込められています」と述べる。
 先日発生した能登半島地震では多くのビルが損傷等の被害を受けた。多くの人が建物内で業務にあたるオフィスビルでは、災害発生時の安全確保はもちろんのこと、企業の事業継続性をサポートする役割が求められる。同ビルでは災害等における電力喪失時、中期的に電源を確保するため「事業継続システム」を採用。屋上に設置された太陽光パネルに加え蓄電池を準備し、電気自動車の接続による電源供給を可能とするシステムだ。これにより共用部へ継続的な電力を供給し、照明の維持や携帯電話等の電源確保を実現。事業再開への可能性を向上させる。また、敷地内には井戸を設置しており、事業継続システムと連動したポンプと手動ポンプの併用によって、長期的な上水の供給停止時への対応としている。確保された電力や水源は、ビルの利用者だけでなく地域への供給もでき、地域の防災拠点としての機能も有し帰宅困難時の「逃げ込めるオフィスビル」の役割を担う。
 前述したバルコニーは非常時の避難経路として役立つほか、日射が室内に直接入ることを抑制する緩衝地帯にもなり、近年の新築ビルで一般的に採用されるガラスカーテンウォールに比べ大きな省エネルギー効果が期待できる。またガラスは断熱性の高いペアガラスを採用しているが、自然通気が可能な掃き出しサッシを設けることで電力に頼ることなく通風や換気を行うことができ、主に中間期の空調負荷低減や省エネルギーに貢献する。
 建物は中央部にエレベーターや共用廊下、トイレを配置し、それらを取り囲むように執務スペースを設けている。オフィスエリアは開口部を多く設けて明るく開放的な空間とするとともに、フリーアドレスや多彩なオフィスレイアウトに対応した区画となっている。オフィス内はWi―Fi環境を整備することによって自由な働き方を実現するだけでなく、OAフロアが不要なことから床材を自由に選択できる点も大きな利点となっており、同ビルでは木質系の床材を採用することで環境共生を図っている。
 ビルを所有する鈴福産業(東京都渋谷区)は、貯炭式ストーブの先駆者として近代日本の発展を支えてきた福禄(東京都渋谷区)を源流とする企業。「鈴福ビル」ではその歴史の継承にも注力するとのことだ。ビルは建築されて終了ではなく、オフィスとしての利用があり、中長期的な維持管理に取り組むことで、その価値が評価される。同ビルは将来的な需要の変化を見越して計画され、「未来型次世代オフィス」として誕生した。地域の防災や活性化にも貢献する同ビルが今後どのような価値を育んでいくのか注目したい。


地域に根付いたビル目指し「コストからバリュー」を具現化
翔設計 代表取締役 貴船美彦氏
 「鈴福ビル」は、地域に根付いた建物にしたいというオーナーの思いを汲み取る形で企画・設計されました。地域共生型の防災、環境など、様々な要素を盛り込んだ建物として開発されています。付加価値を備えた開発計画ですので、イニシャルコストは一般的なビル建築よりも若干割高となっています。しかし、その価値はビルにとって永続的なものであり、その価値によってテナントが集まる「コストからバリュー」の考え方のもと、将来にわたる事業継続を可能としています。

日本一災害に強い街へ デジタルサイネージで情報発信
 東京大学の目黒公郎教授を会長とする防災事業経済協議会は、地域の住民、企業、各団体が街の安全という価値を地域ブランドとしてつくり出す活動の一環で、「千駄ヶ谷を日本一災害に強い街にする会」を2021年6月に発足。千駄ヶ谷1丁目~6丁目を活動エリアとし、防災イベントの開催のほか、防災教育や講演活動、地域で利用できる水やエネルギーの確保、情報発信の整備などを展開している。「鈴福ビル」の1階エントランスではデジタルサイネージによる情報発信を通じて、地域の情報や歴史、避難場所の紹介などを実施。「千駄ヶ谷を日本一災害に強い街にする会」の活動に、地域コミュニティへの情報提供の観点から貢献する。

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