不動産トピックス

【今週号の最終面特集】来年大変動の物流業界 キーマン語る対策とは

2023.12.11 10:26

効率化・自動化が迫られる「2024年問題」拘束時間の規制で収益減少、中小企業に影響か
 物流不動産協同組合(東京都港区)は5日、セミナー「2024年物流危機 最新の政府見解と打開策」を開催した。「札の辻スクエア」11階の港区立産業振興センター大ホールで行われ、当日は約180名の聴講者が参加。現状の物流業界に対する関心の高さ、今後の同業界への危機感もあって満員での開催となった。物流業界で今どの様な課題に直面しているのか、それでも増えていく新規参入事例も交えて、近況を追った。

物流不動産協同組合 直近課題のセミナー開催
 セミナー最大のテーマは、来年4月1日から適用される働き方改革関連法案の時間外労働の上限規制。拘束時間の規制が現在よりも厳しく・短くなることで、企業の収益に影響が発生する見込みだ。大企業以上に中小企業は現業務の効率化や自動化等が迫られている。その開始年を取って同業界では通称「2024年問題」と呼ばれている。時間外労働の上限規制適応は一般企業では既に始まっており、大企業は2019年4月から。中小企業は翌年4月から順次施行された。一方自動車運転業務については、働き方改革が目指す時間外労働の上限規制と実態に乖離があった。19年の改正法施行後、5年の猶予が設けられ整備・検討が開始。いよいよ来年4月からは、自動車運転者にも時間外労働時間の上限、原則960時間以内の規制が適用されることとなった。しかし、未だ実際の時間外労働及び拘束時間は年960時間以上で、年々人手不足も深刻化している。ちなみに全職業平均より平均年齢は高く、50歳以上の高齢者従業員も多いのが実情だ。
 この現状を踏まえて物流不動産協同組合ではセミナーの講師に、同業界の課題や現状に詳しい東京海洋大学の黒川久幸教授、また衆議院議員で自民党物流調査会の今村雅弘会長を招いた。黒川氏のセミナーでは、中小の物流会社が今後も同じサービス提供を続けるには、現状の生産性から2倍向上させる必要があると指摘。そうでなければ、今後生き残りは厳しいと予想する。
 黒川氏は「今後同業界ではより効率化や人手不足等の改善が必須です。そのためには自動化・ロボット化・IT化などで改善に繋げることが重要となります。各社の取り組みでは『一度に沢山運ぶ』、『車両の大型化と積載率の向上』、『物流の共同化』、また『短時間で運ぶ』や『平準化して運ぶ』ことが行われています。例えば、輸送効率向上を考えた車種の大型化や間引き運行の実施で積載率を向上させたケースがあります。出荷台数の約70%が4トン車以下であった企業が、全て10トン車に変えたことで積載率が向上しました。また炭酸飲料の容器を仕様変更したことで、パレット当たりの積載効率が1・5倍向上。出荷に使用するトラック台数を年間で約2割削減出来たケースもあります」と事例について語った。これら事例に加えて物流業界では大手企業を中心に、自動化・ロボット化・IT化等へ投資する動きが増加傾向である。

荷主受主のニーズ生かし新規ビジネスのチャンスに
 また今村氏は最新の政府の見解と共に、労働時間規制等による物流への影響も語った。今村氏は「物流は国民生活や経済を支える重要な社会インフラでありますが、この背景にはトラックドライバーの低賃金と長時間労働で支えられている現状があります。これが4月からは1日の拘束時間が原則13時間以内で、最大は15時間以内。従前より最大拘束時間が1時間短縮されます。宿泊を伴う長距離運行は週2回までで、拘束時間も16時間。14時間を超える勤務は1週間に2回以内となります。2024年度の営業用トラックの輸送量は約28・4億トンの想定です。不足すると思われる輸送トン数は約4億トンで、全体の約14・2%に該当します」とのこと。同現状について具体的な施策としては、「即効性のある設備投資の促進」や「物流GX・DXの促進」、「物流拠点の機能強化やネットワークの形成支援」などを検討している。
 セミナーの中盤では今村氏と黒川氏に加えて、同組合代表理事の大谷巌一氏と賛助会会長の鈴木清氏を交えたトークセッションを開催した。今村氏、黒川氏の双方に寄せられたアンケートに対して回答する、またそこから話題が広がるトークセッションであった。黒川氏は自身のセミナー内で「改善効果にはコツコツとした積み上げが大事。加えて機械化・デジタル化に必要な教育にも時間と費用の投資が必要です」と語った。「そうとは言うが難しい」との反対意見もあるかもしれない。しかし、効率化等の改善が進めば今以上の収益も見込めるかもしれない。最後に大谷氏が「物流企業は送り主と受け主の双方のニーズを知っているので、そこから新しい事業やビジネスを作りやすいと思います。『ピンチをチャンスに』の思考で、2024年問題に中小の物流企業は自ら取り組む姿勢が大事と思います」と語った。

物流施設開発第1号いちご芝山物流センターⅠ
 上記の課題があるとは言え、現時点で物流及び倉庫業界が不動産業界において最も活況かつ注目を浴びている分野と思われる。年々投資額も増えているとのこと。そのため、同業界新規参入する企業は多い。その中の1つがいちご(東京都千代田区)だ。同社は先月、同社第1号の物流施設開発プロジェクト「いちご芝山物流センター1.」の竣工を発表。今月からはテナントの入居を開始する。
 いちごおよび子会社のいちご地所(東京都千代田区)では、「心を込めて、現存不動産に新しい価値を創造する」心築(しんちく)事業を展開している。現存する不動産の潜在的価値を引き出し、利便性向上や安全性への対応、用途変更や時代に鑑みた最有効活用などを実施。中長期にわたって収益力を満たす、新たな価値創造を推進する、資源消費の少ない独自の不動産モデルを確立してきた。今回竣工した「いちご芝山物流センター1.」は同社初の物流施設開発。2022年12月に着工し、先月末に竣工を迎えた。施主はいちご地所で、拓洋(埼玉県八潮市)が設計・施工、マスターリースも行う。既に拓洋からウイングエキスプレス(大阪府泉佐野市)への転貸が予定されている。
 同物流センターは鉄骨造・地上1階で、延床面積は5963・63㎡。東関東自動車道「酒々井IC」まで約13・5km、成田空港まで県道106号経由で約13分に位置する。都心部にも車で約70分と、東関東自動車道を利用した関東一円への航空貨物の配送拠点としてのニーズを満たす。今後成田国際空港では、滑走路の新設及び延伸も計画されている。航空貨物の取扱量増加も見込まれると共に、圏央道の延伸計画で新設されるICからも約4kmに立地する。これまで以上に利便性が高まることも見込まれているため、芝山町では更にもう一棟、拓洋と連携しての同規模倉庫の開発を予定している。建物はシステム建築を採用し、最大無柱スパン約45mを実現。自由なレイアウトが可能な仕様となっている。

芝山町で更にもう1棟 同規模倉庫を開発予定
 プロジェクト開始の経緯については、物流施設の需要拡大と、建設コスト高騰への対応可能な点が挙げられる。昨今物流施設の需要は継続的に拡大しており、物流施設の均衡した需給バランスから賃料も安定している。一方開発に際しては、建設コストの高騰が懸念されている。同社では関東圏で物流及び建設事業を営む拓洋と連携することで、コスト高騰のリスクを軽減でき、拓洋がマスターリースを受けることで安定的に物流施設開発事業を進めることが可能である。同社では「いちご芝山物流センター1.」と同様のスキームで、複数の物流センター開発を予定している。引き続き、サステナブルな顧客目線にそった物流施設開発に全国で注力していくとのこと。

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