不動産トピックス

【今週号の最終面特集】ニーズを捉えるビル活性化の取り組み事例

2023.10.16 10:31

人や環境にやさしいオフィスづくりに注目 フレキシブルな働き方を実現する空間提供
予約アプリを完全自社開発 運営コストのスリム化を実現
 コロナ禍は働き方の多様性を生み出す契機となり、オフィス市場は多様化するニーズに応え、これまでにない発想でワークスペースを創出することで対応してきた。機能性や効率性はもちろんのこと、プラスアルファの価値を見出すことでビルの付加価値向上や差別化につなげることもできる。企業のニーズを的確に捉え、ビルの価値を高める取り組みを紹介していく。

少人数向け貸会議室 個室オフィスで利用も可
 47都道府県に約900拠点のワークスペースを展開しているいいオフィス(東京都港区)は、ビジネス利用に特化した少人数向け貸会議室「いい会議室原宿 ナポレビル2F」を9月2日にオープンした。
 いいオフィスは「どこでもいい世界」をつくることを理念に、コワーキングスペース・シェアオフィス・ウェブ会議専用ボックスなどのテレワークに適した「いいオフィス」を首都圏はじめ全国各地で展開。同社の運営施設は専用アプリ「いいアプリ」から簡単に利用予約が可能となっており、ライフスタイルの多様化や新しい働き方の普及に対応したワークスペースの提供を行っている。
 今回オープンした「いい会議室原宿 ナポレビル2F」は、JR「原宿」駅徒歩1分の好立地に位置する貸会議室。「原宿」駅周辺は竹下通りや明治神宮といった観光資源に恵まれているものの、ビジネス利用に特化した少人数向けの貸会議室が少ないのが現状で、いいオフィスの龍崎宏社長は「駅周辺は飲食店が多いため、カフェなどの飲食店で打ち合わせをする姿が多く見受けられます」と話す。しかし店舗内での打ち合わせや商談は、周囲に会話が漏れ聞こえるなどのリスクがある。また数十名単位の会議やセミナーなどに用いられる大型の貸会議室は大手運営事業者を中心に数を増やしているものの、少人数向けの貸会議室は収益性の面で見劣りすることから供給数は少ない傾向にある。龍崎氏は「当社は利用者向けのアプリを完全自社開発していること、完全無人で運営できる仕組みとしていることから、運営管理コストを最小限に留め、少人数の貸会議室でも収益を上げられるビジネスモデルを構築しています」とする。
 会議室は全4室で、すべて4名利用の完全個室。利用料金は1時間1320円(税込)であり、1人あたりの料金は330円と、カフェを利用するよりも低価格で利用することが可能だ。営業時間は24時間となっており、施設内は完全無人。利用予約は「いいアプリ」で行い、現地に到着後はQRコードを読み取ればスマートロックが解錠され、利用できる仕組みである。室内には32インチの大型モニターとホワイトボードを完備し、オンライン会議にも対応。龍崎社長は「お客様との打ち合わせや商談だけでなく、企業の採用面接の場としてもご活用頂いております」と話す。
 なお「いい会議室原宿 ナポレビル2F」では、会議室としての利用目的に限らず、1名で集中して仕事ができる個室オフィスとしての貸し出しも想定しているとのことで、こちらは利用料金が1時間1100円(税込)。いいオフィスでは今後も主要駅の徒歩3分圏内のエリアを目安に、少人数向けの会議室需要だけでなく個室オフィスニーズにも応える「いい会議室」の出店を加速させる構えだ。 

新コンセプトのセットアップ 企業価値高める17のエレメント
中央日本土地建物(東京都千代田区)は、港区西新橋に保有する「虎ノ門セントラルビル」の一部フロアを改装し、新しいコンセプトのセットアップオフィスとして運用を開始した。
 近年、働き方の多様化が進展するとともに、コロナ禍によって在宅勤務を定着・制度化する企業も増え、「オフィスに求められる価値」が変化している。今年に入り、国内の主要都市ではオフィスの出社率は上昇しているものの、観光地などと比べると回復のスピードが緩やかであるとの調査結果も報告されている。また、コロナ禍以降も多くの企業がテレワークの継続に前向きで、オフィス在籍人数に対する座席数の割合を減らす動きも活発となっている。
 これまで中央日本土地建物グループでは、シェアオフィス「SENQ」や中規模オフィス「REVZO」など、新しいコンセプトのワークプレイスを企画・開発してきた。また近年の多様化するオフィスニーズに対応し、「働き方を提案する企業への転換」をキーワードに、オフィスの在り方や提供価値に関する検討を進めてきた。事業統括部イノベーション開発室の松井哲憲副長は「当社グループの保有ビルに入居しているテナント企業約1100社に実施したアンケートなども踏まえて議論を進めた結果、これからのオフィスにはワークプレイスとしての『機能性や効率性、コミュニケーションの取りやすさ』などに加え、『人』や『環境』が重要な軸になるとの結論に至りました」と話す。立地や機能性に加え、コミュニケーションが誘発され、人(ワーカー)に優しく、環境(サステナビリティ)への貢献度が高いオフィスこそが、テナント企業やワーカーにとっての「オフィスの価値の最大化」につながると分析している。
 現在、同社グループでは「SENQ」や「REVZO」に加え、虎ノ門や内幸町地区での再開発事業、国際的なビジネス交流拠点のトライアル施設「官民共創HUB」など、ハード・ソフト両面から様々な取り組みを推進している。これらと有機的な連携・活用を図るため、虎ノ門エリアで今回のプロジェクトの開設・運用を決定した。
 東京メトロ銀座線「虎ノ門」駅徒歩1分の「虎ノ門セントラルビル」8階に設けられたセットアップオフィスは、入居後すみやかにオフィスを利用するための設備・家具などの基本的な機能に加え、多様なソフトコンテンツ・サービスを提供する。352m2のフロア内は2つのテナント区画と共用スペース、エントランスで構成されている。多彩なコミュニケーションを生み出すことを表す「カラフルコミュニケーション」をコンセプトに、17のエレメント(空間・ツール)の提供を通じて企業・ワーカーのパフォーマンスの最大化を目指す。各エレメントは、「ウェルビーイング」・「ハイパフォーマンス」・「クリエイティブ」・「ボーダレス」・「エンゲージメント」の5つの効果を提供し、例えば共用スペースに設置された階段状のベンチは1人での作業や2人以上の会話にも利用可能。目線の高さや体勢が変わり、会議室での打ち合わせとは異なるコミュニケーションを促し、クリエイティブな発想を与える。
 テナント区画内は、人工芝やクッションを配したコーナー、自由に配置を変えることのできるデスクなど、出社する人数に応じてフレキシブルに働くことができる仕様としている。今後は入居企業の意見などを踏まえながら、提供するサービス・ソフトコンテンツを継続的にブラッシュアップしていくという。

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