不動産トピックス

【今週号の最終面特集】注目の時間貸しビジネス ロケ地提供のススメ

2023.08.28 11:17

ビルやマンションの一室をロケ地提供 空室・遊休時の収益化や物件のPRに貢献
 コロナ禍で、空室を会議室やシェアオフィス化する動きもみられた。一方、空室の如何にかかわらず不動産を活用できる選択肢の一つにロケ地提供がある。昨今は配信ドラマのニーズも増え、市場拡大に期待がかかる。

ロケ地提供事業を展開 昨年度397件の実績
 東日印刷(東京都江東区)は2018年に、保有不動産をロケ地として活用する「Tロケ事業」を開始した。
 同社は毎日新聞グループホールディングスの主要印刷会社。新聞印刷事業を主軸に、不動産事業やデジタル事業などを展開している。Tロケ事業では、東日印刷が本社を置く江東区越中島の「STビル」をはじめ、グループ会社の新聞印刷工場や首都圏の飲食店やオフィスビルなどの仲介ロケ地を提供。映画やテレビドラマ、テレビCMや企業のPR動画撮影まであらゆるニーズに応えている。
 不動産をロケ地として活用するようになったのは、あるテレビドラマの撮影場所として打診されたことに始まる。T事業本部長の秋野義明氏は「印刷工場を舞台にしたサスペンスを撮りたいと、制作会社の方から相談を受けました。結果的にロケ地には決まりませんでしたが、ビルを活用した新たな収益モデルに可能性を感じました」と話す。
 「STビル」の場合、利用料金は1時間で2万6000円。加えて1件あたりの立ち合い料が1日5万円。日中の貸し出しが基本となるが、早朝や深夜に割増料金で対応することもできる。洗練されたエントランスや、中層階のオフィスや屋上、食堂、会議室、社長室まで貸し出しが可能。多様なニーズに応えることができる。
 開始から5年。提供開始から毎年連続で撮影数の増加に成功。川崎や川口などの首都圏のグループ工場のほか、仲介ロケ地を合わせると昨年の撮影実績は、延べ397件に上る。
 T事業本部次長の高山邦夫氏は「『STビル』は『越中島』駅から徒歩5分と、『東京』駅からすぐに出られるアクセス性が便利だと感じていただいております。新聞運搬用トラックのために駐車場を広く整備しているため、複数のロケバスの駐車に対応できることも強みです」と話す。

3年前からロケ仲介開始 ビルの収益化に貢献
 2020年からは、ロケ地の仲介事業を開始した。ビルオーナーはTロケ専用サイトに保有する不動産を登録することで、撮影場所として貸し出すことができる。登録はビルの一区画だけでも可能。東日印刷はオーナーと借り手である制作会社との間に入って交渉を行う。登録費用は無料で、撮影が実現すると制作会社からビルオーナーに、東日印刷への仲介手数料を差し引いた撮影料が支払われる。
 「ロケ地の提供で最も大変なことは、制作会社との交渉。撮影監督から難しい要望が出て困ってしまうことや、事前の交渉をしっかり詰めていないと撮影当日に揉めることがあります。ノウハウがある当社が仲介役として交渉を行うことで、オーナー様とのトラブルを未然に防いでいます」(秋野氏)。
 コロナ禍、そして2023年はオフィス大量供給の年。選ばれるオフィスになることが、多くのオーナーにとって課題となっている。一方で、建物の経年や立地性など、物件によっては競争力の維持が難しいことも事実。昨今はシェアオフィス化やリニューアル、セットアップオフィスの開設などは有効と考えられている反面、まとまった初期投資や稼働の維持が課題となる。
 ロケ地提供の醍醐味は、スケルトンのオフィスから共用のエントランスまで、ビルの稼働にかかわらず収益化を図ることができること。1日の撮影もあれば、映画の撮影だと1週間~1カ月といった長期間を要する場合があり、大きな収益化につなげることも可能だ。
 無論、中小規模のビルにも引き合いは多い。例えば神保町にある出版社のビル。オフィス区画と会議室などを週5日、朝9時から貸し出しを始めた。同ビルはTロケサイトに登録した3日後に、有名連続ドラマの撮影場所に決まったという。
 「特にオフィスは撮影現場として人気が高いです。最近は配信ドラマの問い合わせも多く、ニーズが多様化しているので、ビルの個性を生かせることもロケ地活用の魅力です」(高山氏)。
 Tロケのサイト登録数は現在首都圏を中心に80社ほど。ビルに限らず、飲食店やビジネスホテル、廃棄物工場など、多様な用途の建物が登録されている。同社では地方創生を目的とした自治体との連携も始めており、ロケ地事業の拡大を進めている。

マンションの一部を活用 物件の認知度向上も
 不動産業を展開するトップワイジャパン(東京都板橋区)は、所有する賃貸マンションの一部をロケ地として提供している。
 物件はつくばエクスプレス「三郷中央」駅から徒歩2分に立地する「Yビル三郷ミッドタワー」。2015年竣工の地上10階建て。単身者を中心に人気が高く、居住区画は満室稼働。
 「北千住」駅まで電車で15分という都内への好アクセス、市街地景観基本計画による電柱のないすっきりした街並み、オートロックや防犯カメラなどの最新設備の導入が、高稼働の秘訣となっている。
 ロケ地提供をしているのは、エントランスと最上階の2LDKの部屋。「Yビル三郷ミッドタワー」では竣工前にロケ地の活用を見据えていたため、最上階は居住区画とは異なる設えを施している。約180㎡の室内にはプール付きの中庭やキッチンとリビング、バス・トイレ、ベッドを備えた2つの小部屋を用意。ワンフロアで複数のシーンを撮影できることも強み。
 イービジネスセンター センター長の池田由美子氏は「三郷市ではシティセールス・観光推進の一環として、ロケ対応を積極的に行っています。当マンションもその需要に対応し、テレビドラマや映画、衛星放送などのロケ地として活用されています」と話す。
 「Yビル三郷ミッドタワー」朝9時から夜22時までの一日貸し対応が基本。数カ月の長期間の撮影にも対応する。ピーク時の案件数は、年間10件に上る。コロナ禍で一時稼働は落ちたものの、段々と回復の傾向にあり、今年に入ってからは3~4件程度の撮影に応じてきた。
 仲介を担当する袰岩氏は、「中庭のプールや高級感ある内装が好評で、セレブな登場人物の自宅シーンなどで採用されることが多いです。当物件ではロケの際、事前に入居者様に撮影が入ることを周知し、制作会社にロケ時の注意喚起を行うことで、撮影時のトラブル防止に努めています。おかげさまでこれまで大きなトラブルはありません。ロケ地事業は収益性だけではなく、物件のPRや地域の認知度向上につながることが魅力だと感じます」と話した。

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