不動産トピックス

【今週号の最終面記事】地域に根差したバリューアップ事例

2023.04.24 10:27

住居利用のワンフロアをリノベーション
賃料収入増加と街の賑わい創出に貢献
 建物の老朽化は、ビルの競争力を下げる大きな要因に繋がる。たとえ好立地にあっても例外ではないようだ。住宅の空室を活用し、人が集まる機能を作ることで、街の活性や収益生の向上を目指した事例を紹介する。

賃貸住宅の2階を店舗に 地域コミュニティ機能を追加
 不動産仲介・管理を営む尚建(なおけん、東京都文京区)は、東京都豊島区南大塚2丁目に所在する築40年の地上4階建てマンション「MKビル」の2階を店舗区画にコンバージョンした「SPOT新大塚」を開設。入居テナントを募集している。
 尚建は2007年に設立。文京区の不動産賃貸・管理・仲介事業を主軸に展開。昨今はエリアリノベーションにも注力し、2017年に谷中銀座の2階建て店舗を3区画に改修した「Things.YANAKA」、2019年には文京区千駄木の空き店舗をリノベーションした2階建て店舗の「しろいおみせ」を開業させた。いずれもクラウドファンディングによる資金調達を図った、しろいおみせはオーナーの費用負担ゼロのプロジェクトとなる。
 「SPOT新大塚」を開設した「MKビル」の1階には洋菓子店が入居、2~4階は住居区画として使われていた。アクセスは東京メトロ丸の内線「新大塚」駅から至近。豊島区に位置する「大塚」が繁華街の要素が強いのに対し、文京区に位置する「新大塚」は閑静な雰囲気が漂う住宅地。駅前には店舗が少ないものの、大型スーパーが駅から近く利便性は高い。
 一見、リーシングには苦労しなさそうだが、なぜコンバージョンを決めたのか。経緯について、代表取締役の徳山明氏は語る。
 「新大塚は近隣に大きな公園もあり、都立病院も備えながら、比較的若い家族の住まう地域です。一方で『MKビル』に関しては、丸の内線という利便性から、通勤優先の場所として選ばれていました。そうなると稼働は悪くないのですが、長期間の定住にはつながりません。物件本来の良さを生かすべく、ファミリー世帯が気軽に足を運べる場所を作りたいとオーナー様に提案しました」と話す。
 今回のリノベーション費用は大家が負担、尚建がサブリースを担う形。3~4階は引き続き居住区画とし、2階フロア18・9㎡と22㎡の2区画を軽飲食+小売物販の店舗へコンバージョンした。共用スペースを2つ設けて、複数人でちょっとした休憩にも使えるベンチを整えた。双方の区画はフルスケルトン。好きな内装に仕上げられること、水回りや共用設備などが整っていることから、スタートアップが始めやすい環境でもある。
 スタートアップ同士が成長し、来店客はゆっくり2つの店舗を行き来できる。コミュニティを重視したつくりになっていることが、今回のプロジェクトの大きな見どころ。
 「2階のうち1部屋は、漏水が発生しておりユニットバスの床も腐食していました。ですので2部屋全てをスケルトンにしてリノベーションを行いました。共用部の壁面は私のほうで珪藻土を塗っています。もう1部屋は日射が悪く、1階テナントの厨房設備による騒音が懸念材料でした。そこでスタジオ利用もできる軽飲食店舗にコンバージョン。双方の部屋の内装には調質機能、消臭・脱臭効果のある珪藻土を使うことで、居心地の良い空間に仕上げました。HUB&STOCKの循環資源の建材も導入しています」(徳山氏)
 契約は8年間の定期借家。軽飲食の区画は9万円前後、小売店舗は15万円前後の賃料帯でリーシングをかける。
 「新大塚には子ども連れでも気軽に休憩できるようなカフェが少ない。子どもも大人もゆっくりできる共用空間を併設することで、多様な層の呼び込みにつながります。『地域がさらによくなる』というコンセプトに賛同してもらえる事業者の方に入ってもらいたいです」(徳山氏)
 収益性と地域貢献の2つを兼ね備えたコンバージョン事例。展開を見守りたい。

ビル空中階をシェアハウス化 募集後間もなく満室に
 Hidamari(熊本市中央区)は今年2月、福岡市早良区のテナントビルの空中階を活用した「シェアハウスひだまり西新2(以下、西新2)」を開設。運営を進めている。 Hidamariは2012年2月に設立。「陽の当たる場所を作る」というビジョンのもと、コミュニティ重視型のシェアハウスを運営。関東や九州を中心に60棟以上と拡大を続けている。
 「西新2」を開設したのは、不動産売買・賃貸・仲介等を展開するプライムレジデンシャル(福岡市早良区)が、2年前に取得した地上3階建てビルの3階。1階にはステーキレストラン、2階には美容室が入居している。立地は、福岡市地下鉄空港線「西新」駅徒歩4分。
 シェアハウスへのリノベーションを行った経緯について、代表取締役の林田直大氏は「3階は、以前の所有者の方がオーナーズルームとして使っていました。その後プライムレジデンシャル様の取得後、2年ほど空室期間に。物件自体は商店街に面していて駅も近く、アクセス性は良好。この立地を生かして地域の賑わいにつなげたいと、プライムレジデンシャル様からご相談をいただいたことがきっかけです」と話す。
 立地する西新は、天神まで4駅と市街地へのアクセスも抜群。近隣には活気ある商店街や地元有数の名門大学が立地し、ファミリーから学生まで、幅広い層からの居住人気を誇っている。同エリアにたたずむ「西新2」は、ビルを出てすぐに商店街が広がる。まさに好立地に位置する。
 一方、立地が良くてもテナントが入りづらいケースもある。それはビルの老朽化が進んでいる場合。殊に、上層階は下層階と比べて賃料が安い。それが住居仕様のオーナーズルームであった場合、事業用区画へのコンバージョンを行ったとしても、空室期間が長いと改修費用との採算的にも宜しくない。シェアハウスは、そのような課題を解決するにはうってつけという。
 「この広さで4LDKの間取りの場合、賃料の相場は12万円程度になります。シェアハウスであれば複数人から家賃を回収できるため、4LDKの合の2倍程度の収益性が見込めます。特にオーナーズルームだった区画は、オフィス・店舗の用途変更よりリノベーション費用も抑えられます」(林田氏)
 「西新2」ではワンフロア103㎡を、5・5~9畳の計5室に再区画。従前よりも浴室をコンパクトにするため、設計を変更。浴槽を交換した。きれいな状態のキッチンはそのままに、トイレを工事して洗面台を増設。内壁は白を基調に塗り替えた。施工にかかった期間は約1カ月。
 家賃設定は4万6800円~5万2800円。入居者の募集をかけたところ、内覧会2日目で満室となった。
 「HPで紹介をする前に満室になりました。入居者の層は社会人学生、海外出張を控えているワーカー、短期間福岡で仕事をする予定のクリエイターまで様々です。立地の良さや内装のデザイン、当社が運営するシェアハウスのブランド力などをご評価いただきました」。
 同社では今後も、老朽化で借り手がつかないビルの空室を活用した、シェアハウス運営の提案をしていきたいという。

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