不動産トピックス

【今週号の最終面特集】脱炭素時代の不動産価値創造

2023.03.27 10:24

EV機運の高まりで右肩上がりのモビリティ関連シェア ビルの治安維持・テナント集客につながった成功事例も
 EV普及に向けた世間の動きが顕著だ。特にモビリティ関連のシェアリング事業は、来客促進や景観の維持など、不動産経営へのシナジーにも期待出来る。

電動バイクのシェアリング ビルの治安維持にも貢献
 2018年に設立したLuup(東京都千代田区)は、電動アシスト自転車と電動キックボードのシェアリングサービス「LUUP」を展開している。
 LUUPの特徴は、街中のポートに備えてある電動アシスト自転車・電動キックボードをちょっとした移動手段として借りられる点。基本料金の50円に加えて1分の利用ごとに15円の課金がつく。手軽に数分だけちょっとした距離を移動しやすいことから、20~30代の若者を中心に支持されている。利用終了の際は、空いている別のポートに返却も可能。電動キックボードについては、事前の運転免許証登録や交通ルールのテスト合格が利用の条件。安全対策も手抜かりがない。
 Luupが電動キックボードを含む電動・小型・一人乗りのモビリティの普及を見据えて、電動アシスト自転車のシェアリングを始めたのが2018年。数々の実証実験を経て、21年に電動キックボードシェアリングの本格展開に至った。
 事業推進部の佐藤太貴氏は「当社は”街じゅうを『駅前化』するインフラをつくる “をミッションに、社会課題の解決につながるサービスを目的として設立しました。当初は個人が個人の元へ出向く移動型の介護サービスを想定していましたが、日本では、利用者とのマッチング段階で効率的な移動手段がないことに気づいて頓挫。徒歩の代替となる移動手段として、電動マイクロモビリティのシェアリングを思いつきました。より利便性を高めるために『電動』、『小型』、『一人乗り』のモビリティを追求していった結果、行きついたのが電動キックボードです」と話す。
 サービス展開で重要になるのが、ポートの設置場所。Luupでは不動産オーナーや店舗オーナーを対象に、ポートの開設先を随時募集している。最小スペースは4台から。オーナー側のコスト負担はなく、モビリティの充電を含む管理業務はすべてLuup側が担う。デッドスペースの収益化や入居率・利用率の向上、違法駐輪の防止など、導入のメリットは多い。
 Luupを導入し、集客につながったこんな具体的な例もある。東京・虎ノ門にあるカフェ兼トライアスロンショップ。平日の11~14時にはキッチンカーによるランチを販売。週末にはカフェスペースでセミナーを開き、多くのスポーツ好きが集まる憩いの場として利用されている。
 そこに昨年3月、Luupのポートを導入した。店舗の従業員の一人がLuupのユーザーだったことが、導入のきっかけ。店舗横の空きスペースに7台のモビリティを設置したところ、Luupユーザーの集客が増加。導入以降、店舗売り上げが毎月10%ずつ伸びていったという。
 事業推進部グループマネジャーの杉山享平氏は「駅から遠かったり、奥まった場所にある建物は客足が遠のきがちです。Luupを導入することで、不便な立地にある建物のデメリットをカバーすることができます。こんな例もあります。恵比寿駅近のとあるビルです。そのビルの裏手側は、人目がつかないことから喫煙者のたまり場となっていました。結果、たばこの吸い殻やごみが常に散乱。オーナー様が高齢だったこともあり、掃除や管理の煩わしさに悩んでいらっしゃいました。そこにポートを導入したところ、喫煙者もごみも激減。人が頻繁に出入りすることから、喫煙しづらいという心理が働いたのだと思います。ビル周辺の景観や治安の維持につながるところも、Luupをご評価いただいている理由の一つです」と話す。
 Luupでは2023年2月末の時点で、東京・大阪・京都・横浜などを中心に2750拠点、延べ8000台のモビリティを展開している。サービス開始からわずか3年の短期間で、目覚ましい成長を遂げている。
電動キックボード業界では大きな変化が待ち構えている。それが今年7月の道路交通法改正。運転免許の不要化、ヘルメット着用の任意化、乗車条件が満16歳以上となるなど、電動キックボードに関わるルールが大幅に変更する。
 Luupの場合は特例措置によって、これまでもヘルメットの着用義務はなかった。この背景から、電動キックボードの利用ガイドブックの配布や自動的な保険適用に至るまで、安全対策には万全を期していた。
 広報責任者の松本実沙音氏は「電動キックボードのルールが整備される前に、簡単に購入できてしまう車両を公道走行不可とは知らずに乗る人が増えていることも問題視されています。当社では累計40回以上の安全講習会の実施を通し、電動キックボードのルール啓発に努めてまいりました。法改正によってユーザーの幅が広がることから、安全対策をより強化していく所存です。会社としては、ポートの設置場所の拡大を目指しています。都内では徒歩1~2分圏内に1か所のポート提供が理想です。現在は電動アシスト自転車や電動キックボードがメインですが、将来的に、高齢者が着座して移動できるような便利なモビリティが登場すれば、積極的に取り入れたいと考えています」とした。
 ますます認知が高まる電動キックボード。徒歩移動には遠い場所、電車やバスでのアクセスができない縦移動などにも便利とされる。ポートの設置は、快適な街をつくるうえで大きな意味を持っていると言えよう。

山口県柳井市と協定締結 EV充電インフラ100基導入
 EV充電インフラ「Terra Charge」を提供するTerra Motors(東京都港区、テラモーターズ)は、今月14日、山口県柳井市とSDGsの掲げる持続可能な地域づくりを目指して、「持続可能な地域づくりに向けた包括連携協定」を締結したと発表した。
 「Terra Charge」は、テラモーターズが2022年4月より開始した電気自動車向けの充電インフラ。EVの充電設備だけでなく、充電時間の設定や料金決済を行う専用アプリ、管理クラウド、サービスの提供開始に必要な説明、充電設備の設置工事、ハードおよびソフトの管理運営までを一貫して提供する。分譲マンションや賃貸住宅、ホテル、コインパーキングなどへの導入が決定。物件の付加価値向上にも期待できる。
 柳井市が「Terra Charge」の導入を予定するのは、複合図書館の「翠が丘防災運動公園」をはじめと市内7カ所。協定における連携事項は、「クリーンエネルギー自動車の普及促進に関すること」、「次世代を中心とした環境問題への意識啓発に関すること」、「地域における雇用の創出に関すること」、「地域における起業家教育及び起業支援に関すること」、「その他持続可能な地域づくりに関すること」の5項目となる。
 締結の挨拶で柳井市市長の井原健太郎氏は、「当市では2022年に、2050年の温室効果ガスの排出ゼロを目指して『柳井市ゼロカーボンシティ宣言』を発表。その挑戦への取り組みを開始すると宣言した中で、一般事業者様や市民を巻き込んで何かやっていきたいと模索をしておりました。そこから地元のご縁のある方にご紹介いただいて徳重会長にお会いしてからわずか3週間で、協定の締結を迎えることができました」と話した。
 充電時間の長さや補給頻度の高さなどが、昨今のEV普及を妨げる要因としてあげられる。一方で、普及に対する「充電場所の不足」も叫ばれているのも事実。自治体と連携した普及活動による、街の交通インフラの向上に加えて、環境にやさしい地域づくりにも期待が出来る。
 「世界的な環境機器に対して、SDGsへの取り組みが強まる中、柳井市でもゼロカーボンシティの表明をし、脱炭素化に取り組んでいます。車移動が多い当市において、自動車の脱炭素化は不可欠なものであり、これからEV充電インフラは、市民にとって重要なインフラになっていきます。市民が不安なくEVに乗れるよう、100基という大型導入を決定しました。ゼロカーボンシティ実現に向けて、大きな一歩となると考えています」(井原氏)。
 「ゼロカーボンシティの実現に向けて、EV充電インフラは重要な役割を担っていくこととなります。新たなインフラとして長期的に運用していくものです。弊社の『Terra Charge』は、日本製のEV充電インフラであり、アフターメンテナンスや部品供給における地政学的リスクも少ないという点は、自治体での運用に最適であるとご評価いただきました。今回、数あるEV充電インフラの中から、弊社製品をお選びいただき非常に嬉しく思っています」(取締役会長・徳重徹氏)。

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