不動産トピックス

【今週号の最終面記事】物件を輝かせる不動産活性化アイディア

2023.02.27 11:03

オーナー負担軽減しビルに付加価値 入居者の起業や事業成長を後押し
テナントが求める新しいオフィス デザイン性と自由度の高さに人気
 オフィスビルが立地する都市部は建替や再開発で次々と新築のビルが誕生している。既存ビルは賃貸市場の土俵の中で新築ビルと対抗するためには、十分なマーケティングリサーチやオリジナリティの追求などが求められる。新築にも負けない輝きを与える活性化策とは何か。

小規模オフィス向けに新サービスを提供
 全国でオフィスの仲介を展開するオフィスナビ(東京都千代田区)が、「えらべるオフィス」事業を開始した。企業の独立開業や支店開設、サテライトオフィス向けに複数のパターンから内装デザインの選択が可能。対象は1~10人程度が入居できる20坪以下のオフィス。デザインとコストパフォーマンスによって差別化を実現する。貸主側が負担する内装費用は6カ月以内に回収が可能なビジネスモデルとなっており、貸主と借主の両者にとってメリットの大きなサービスとして、オフィスナビでは積極的な展開を行う構えだ。
 「えらべるオフィス」は第1弾として、大阪市西区立売堀に立地する「合田ビル」の7坪の貸室にて募集を開始。この物件では壁と床のカラー変更で4種類のパターンを選択できるようにした。借主側からのデザイン面のカスタマイズの要望にも柔軟に対応する。オフィスナビ大阪本社で「えらべるオフィス」のビジネスモデル構築に携わった渡邉美紗氏は次のように話す。
 「コロナ禍によってオフィスの空室率が全体的に上昇傾向で、中でも1区画20坪以下の小規模オフィスは差別化が難しく苦戦を強いられている物件が多く存在します。一方、借主が初期費用を抑えられるとして人気のセットアップオフィスは、貸主側の初期投資がかさみやすく投資の回収に期間を要することから、中小ビルオーナーにとってはハードルの高い取り組みといえます。特に大阪では東京に比べ費用対効果の問題などからセットアップオフィスの事例がまだ希少な状況です。今回の『えらべるオフィス』は、工事費用を原状回復工事費用と同等、もしくはプラスアルファの金額に設定して貸主側の負担を軽減し、借主側の賃料も抑えます。借主側はデザイン性の高いオフィスに値ごろな賃料で入居することができ、貸主側は6カ月で投資回収が可能です」
 「えらべるオフィス」は第1弾を皮切りに大阪の主要オフィスエリアの小規模オフィスを対象に導入事例を積極的に増やし、ある程度の実績を積んだ上で東京のオフィスエリアでの提案にも生かしていくと渡邉氏は述べている。

築30年ビルをリノベ 職住一体の区間に
 K―デザインオフィス(東京都渋谷区)は、代表の川部慎次郎氏を中心とし、建築や都市プロダクトの設計・デザインを手掛けている。戸建て・集合住宅・オフィスなど様々な建築領域で数多くの作品を残している中で、得意分野の一つとしているのが物件の競争力を引き出すリノベーションやコンバージョンである。
 「不動産経営は収益の流動性が高く、トレンドもその都度変化していきます。そのため、いつまでも同じ経営手法を続けること、あるいはライバル物件と同様の経営手法を取っていては、稼働率の改善は非常に困難であると考えるべきです。安定経営の実現には、マーケットが求めるものを知り、ニーズの変化に素早く対応することのできるオーナー側の姿勢が必要となってきます」(川部氏)
 同氏がプロデュースしたリノベーション物件を紹介する。物件は新宿区の靖国通り沿いに立地する地上9階建てのいわゆる「普通のオフィスビル」。最寄り駅から徒歩5分以内と立地は申し分ないが、築30年で競争力が次第に低下していたことから、同氏はSOHOへのリノベーションをオーナーに提案。リノベーションのテーマは「都心生活」。室内はスケルトンでコンクリートの質感を視覚で感じられるようにするとともに、内装の自由度を高めた。また、共用部は壁のカラーリングに白を基調としながらワンポイントで寒色を取り入れるなど、シャープな印象を与える空間を演出している。
 工事は空きフロアから段階的に実施された。これは入居者への影響を最小限にするだけではなく、段階的に工事を行うことで入居者の反応など、その効果を感じながら次の工事に移ることができる。ある程度コストを要する工事だけに、反響を確かめながら工事内容をカスタマイズできることがメリットとなっているようだ。

コロナ禍で変化するトレンド セットアップオフィスを提案
   これまで東京一極集中の流れが長らく継続してきたが、コロナ禍の中で転出者が転入者を上回る「転出超過」を記録した。サンフロンティア不動産(東京都千代田区)の代表取締役社長・齋藤清一氏は「過去のバブル崩壊やリーマン・ショックといった大きな経済危機は、東京圏への転入超過が増大するきっかけとなりました。今回のコロナ禍においても、東京への転入超過の流れが今後ますます堅調になるでしょう」とする。東京の賃貸オフィス市場は都心5区の空室率1%台から徐々に上昇し、現在も5%を超える水準となっているものの、この1年は空室率が横ばいの状況を示している。これについて齋藤氏は「募集賃料を下げるなど、賃貸条件の緩和に踏み切った物件が増加した結果、空室率の上昇に歯止めがかかった格好。一方で2023年は東京都心で大規模オフィスビルの供給量が例年に比べ増加することから、社員間のコミュニケーションを活発にする場やフレキシブルな働き方に対応する場など、コロナ禍を通じて新たに生まれたオフィスへのニーズに対応することが求められる」と話す。
 同社はこうしたニーズに対して特に注力しているのが、セットアップオフィスの構築によるオフィスのバリューアップである。入居するテナント企業側は内装を検討する手間が省けるだけでなく入居時の初期費用を抑えられ、入居後すぐに業務を開始することができる。ビルの付加価値向上につながることからオーナー側で享受できるメリットも大きい。セットアップオフィスは内装工事費をオーナー負担とするのが一般的であるため、費用面での準備を入念に行う必要があるが、前述したようなオフィスに求められるニーズを踏まえ賃貸市場を勝ち抜くために、セットアップオフィスの導入は十分に検討の余地があるだろう。


育児ルームの設置を検討
K-デザインオフィス 代表 川部慎次郎氏
 新宿の事例は物件が最寄りの都営新宿線「曙橋」駅から徒歩5分ほどで、これまで通信関連や映像関連の企業が入居してきました。近隣ではデザイナーやクリエーター、ベンチャー企業のオフィス需要がありつつも、その受け皿となるオフィスが不足気味であることを考慮し、一部のフロアで個室スペースとシェアオフィスのスペースを設けています。今後は利用者の反応をみながら育児ルームの設置を検討していく考えです。

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