不動産トピックス

【今週号の最終面特集】発想の転換が客付けに コロナに適応したホテルに迫る

2022.12.19 10:27

プライベート旅館から犬と泊まれるホテルまで
独自の戦略によるコロナ禍での収益化成功例
 2020~21年にかけて厳しい経営を強いられたホテルは多い。生き残り策として、デイユースやワーケーションプランも見受けられた。一方、独自の経営戦略がコロナに適応し、成長を続けている企業もある。

5年間の成長率118% 独自の高付加価値戦略
 1947年に設立した金乃竹(神奈川県足柄下郡)は、箱根で5つの温泉旅館と2つの飲食店舗を経営している。直近5年の成長率は118%。コロナ禍で大きな打撃を受けたホテル業界の中で、大きな成長を遂げている。
 金乃竹の強みは、運営するすべての旅館で非日常を感じられるラグジュアリーな空間を演出している点だ。例えば2013年開業の「金乃竹 塔ノ沢」では、サービス・空間・環境の垣根を排除。広大な自然の中で五感を使って癒される施設づくりを行っている。ほかの4施設も同様、高付加価値の提供を通じて究極の癒しを追及している。

貸し切り露店風呂が好評 稼働率23%から100%に
 街の小さな宿泊所を祖業とする金乃竹。現・代表取締役の窪澤圭氏は2代目。同氏は新卒で入社したエイチ・アイ・エスを退社後、父親が経営する旅館に1996年に入社。法人化を目指し、様々な改革を行った。
 「引き継いだ当時、旅館の稼働率は23%程度でした。多くの方々に来ていただくために、まずは大幅に食事内容を変更。肉を一切使わない懐石料理に切替えて、健康志向の女性客の来館を目指しました。次に温泉。当時、旅館には温泉設備を設けていませんでした。私はDIYが得意だったので、露天風呂を自作しました。6~7年かけて、全客室に男女別の貸切露天風呂を設えています」と振り返る。
 自作の温泉設備の総工費はわずか50万円ほど。食事や貸切露天風呂などの改革を進めたことで収益化に成功。1泊6000円で貸していた部屋は1泊2万3000円と高単価に繋がり、稼働率も飛躍的に伸びたという。
 「秘訣は『貸し切り露天風呂』だと思います。人目に付かず入浴できるため、お忍びの有名人やプライベート感を重視したいお客様から大変好評です」(窪澤氏)。
 この流れを受けて金乃竹では2拠点目の開設に着手。2005年に開業を迎えた「金乃竹 仙石原」が、後にコロナ禍でも事業成長を続けた大きな要因となる。

「非対面の徹底」が追い風に コロナ禍で一人勝ちの運営
 2拠点目の「金乃竹 仙石原」は「竹取物語」をコンセプトに、客室11室にバーラウンジやスパを併設したラグジュアリーなホテルとなる。開業にあたり、これまでのニーズを汲んだある試みを行った。
 「最初の旅館での成功を踏まえて、開業当初から全ての部屋に露天風呂を敷設することにしました。食事も同様に懐石料理を提供し、朝夕ともに部屋の中でとることができます。さらには駐車場のスタッフと連携。ほかの宿泊者と鉢合わせないように、車の出入のオペレーションを行っています。チェックインからチェックアウトまで誰とも顔を合わせず、完全なプライベート空間を守ることができます」。
 「他の宿泊者に一切会わずに泊まれる」仕組みを作った14年後、日本で新型コロナが発生。「非接触」「非対面」がコロナ禍でのニーズも汲み、一度目の緊急事態宣言が明けた2020年の7月には稼働が回復。「一人勝ち」の状態となった。
 さらに今年の8月には、デイユース専門施設の「金乃竹 茶寮」を開業。マイクロツーリズム需要の高まる中、日帰り旅行の回復が大きい昨今での新たな試みとなる。今後はグランピング施設の開業も視野に入れているという。

ホテル再生でリブランディング 年間売上184億円に
 湯快リゾート(京都市下京区)は地域に根差したホテルづくりに注力。コロナ禍の潮流を踏まえた利用転換により高稼働につなげている。
 同社はカラオケチェーン「ジャンカラ」を経営するTOAIのグループ会社として2003年に設立。北陸エリアの第1号館「山代温泉 彩朝楽」を皮切りに、現在は西日本を中心に30ホテルを展開するチェーンホテルに成長。右肩上がりに成長を続け、2019年時点での年間売上は184億円に上る。
 特徴的なのはビジネスモデル。湯快リゾートでは、バブル崩壊とともに経営破綻をしたホテル・温泉旅館を取得、居ぬきで活用しホテルのリブランディングを行う。この事業スキームにより、内装工事のコストを最低限までカット。初期費用の圧縮を実現した。
 近年で代表的な例は佐賀県嬉野市の老舗旅館「嬉野館」の案件。「嬉野館」は1922年に創業。約80の客室を有する大型宿泊施設として人気を博していた。1991年には売上高が13億円に上り好調であったが、経営難により2014年に廃業。同年に湯快リゾートは「嬉野館」の建物と屋号・従業員の雇用を継承。「湯快リゾート嬉野館」として、再生を果たした。
 セールス&マーケティング部マーケティング課の本庄俊晴氏は「長年親しまれてきた一部の館では、建物だけでなく屋号を引き継いで運営しています。また地域の雇用を守るために、従業員も継続雇用。仕入れ先業者も可能な限り継続活用して、地元の食材やビジネスを守る形で展開しています」と話す。
 湯快リゾートではカジュアルなバイキングタイプから豪華食材のバイキングを用意するプレミアムタイプなど様々なホテルを運営。18拠点あるバイキングタイプのホテルは1泊2食付きで7495円~(宿泊日、ホテル、部屋タイプ、利用人数により料金は変動)。漫画コーナーやカラオケコーナーなど無料のサービスも付帯する。リーズナブルな価格帯と充実したサービスの提供が高稼働に繋がっている。
 「これまで『仲居さん』がやっていたお荷物運びや布団敷、レストランでの配膳などをなくしました。フロントスタッフには人の出入りが少ない時間に大浴場の清掃業務にあたってもらっています。人件コストを削減するためです。またお客様の声をもとに、アメニティも最低限に抑えています。コスト削減をした分はサービスに還元。お客様が長時間くつろげるようにチェックアウトを12時に設定、フリースペースを充実させました。お客様の満足度は高く、リピーター率は4割に上ります」(本庄氏)。

コロナで施設タイプを転換 休館ホテルを収益化
 新しい挑戦も欠かさない。撤退する宿泊事業者が相次いだ2020~21年。湯快リゾートでも稼働が伸び悩み、休館に至る施設もあった。運営の立て直しを図るため、コロナ禍でも成長の大きい業界に着目した。
 コロナ禍で伸びた業界の一つにペット業界がある。在宅時間が増えてペットと過ごせる時間が増えたことから、ペット用品の売上も好調。経済産業省の発表している商業動態統計によると、2020年のペット用品の売上は前年比8・2%増。家計におけるペット関連の支出状況も20年の支出は前年と比べて2割ほど増加。ペットにかけるお金がコロナを機に、増加傾向にあることがわかる。
 この潮流を背景に、休館している一部のホテルを犬と宿泊できるリゾートホテルに転換。2021年3月には「湯快わんわんリゾート片山津」、今年4月には「湯快わんわんリゾート粟津」、8月には「湯快わんわんリゾート矢田屋松濤園」を開業。施設タイプの大幅な転換により稼働率が向上、収益化に成功した。
 「コロナの影響で今年は開業できた施設が少なかったと感じています。今後はさらなる物件取得を視野に入れていきたいと思います」(本庄氏)。
 来年に創業20年を迎える湯快リゾート。今後はさらにブランディングを強化していくという、今年10月には公式サイト、公式YouTubeにてブランドムービーを公開している。

ホテル業界に回復の兆し アフターコロナは如何に
 ホテル業界は今、回復の兆しを見せている。観光庁は今月13日、全国旅行支援の年明け実施を発表。割引率は従来の40%から20%へと減額となるものの、来年1月10日より継続の旨を表した。
 さらに昨今は水際対策の緩和によりインバウンドの往来も増加。帝国データバンクの「『旅館・ホテル業界』動向調査」によれば、4割超のホテル・旅館運営企業において、前年同期に比べて「増収基調」であることが分かったという。業界内では人員不足の課題も残るが、市場全体の風向きは悪くなさそうだ。日本の観光資源を活用し、産業を守れるか。

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