不動産トピックス

【今週号の最終面記事】オフィスの健康経営最前線

2022.05.23 13:50

ウェルビーイングの時代到来 社員の心身の健康に配慮したオフィス作りに着目

 身体的・精神的に満たされた状態を表すWell―being(ウェルビーイング)が、昨今は社員の健康の維持は仕事のパフォーマンスに直結すると考える経営者も少なくない。今回は最新のオフィスの健康経営事情を追っていく。

健康経営とライブオフィス 社員と顧客の双方に好影響
 経済産業省は「健康長寿社会の実現に向けた取組の1つ」として、従業員の健康の維持に取り組み企業を推進している。中でも健康経営に注力し優秀な取り組みを行っていると認めた企業に対して「健康経営優良法人」の認定も実施。今年は2299の大企業、1万2255の中小企業が認定された。「OKAMURA帯屋町ビル」の賃貸ならびにオフィス空間のトータルコーディネート事業を展開する岡村文具(高知県高知市)は、自社の健康経営は高く評価され、今年含め2019年から複数回にわたり健康経営優良法人に認定されている。
 創業92年の地域密着型企業として愛され続ける同社は、2年前に有名パーソナルトレーニングの主催する法人向け参加型セミナーに参加したことをきっかけに、健康経営への取り組みを継続している。
 代表取締役社長の岡村憲男氏は「トレーナーの方から座学や運動、栄養面のアドバイスなどを通して健康的な体づくりをレクチャーしていただきました。2カ月ほどの取り組みだったのですが、社員のうち3名が10kgほどの減量に成功するなど、それぞれに成果をあげられました」と話す。
 さらに男性社員の子育て支援や誕生月の社員を祝う誕生日会の開催に加え、年に1度の社員旅行の実施など、心の面でも働きやすい環境づくりに注力している。
 「誕生日会はコロナ禍でしばらく自粛しておりましたが、通常時は幹事の社員が取り仕切って行っています。開催費用の半分は会社の経費で負担、もう半分を誕生月以外の社員で出し合う形です。社員旅行では北は北海道から南は沖縄まで、海外では香港・マカオ・上海・ソウル・グアムなどに行ったこともありましたが、昨年はコロナもあったので近場の高知県に1泊2日で行きました。心身両面から社員の健康を考えることで、社内のコミュニケーション活性にもつながっていると感じます」
 加えて今年4月。ビル4階の貸会議室と社長室をリニューアル。社員が自由に使えるカフェ風のフリーアドレススペースを整えた。もとよりコロナ禍が拡大し始めた2020年から高知県内でも先駆けてフリーアドレス制を導入していた同社。半個室型のブースやゆったりと仕事ができるソファなども配置し、昨今のABWの考え方を踏襲した新しいオフィスづくりを進めている。
 「Web会議の利用など、多様な働き方に対応できる環境を整えました。お客様にオフィスレイアウトの提案を行う中で、『まずは自分たちがやってみる』という考えが私たちの根底にあります。ライブオフィスを導入することで、社員の働きやすさの向上とお客様へのより良いオフィス提案に繋がると感じています」(岡村氏)
 ウェルネスな環境の整備が、これからの新しいオフィスを牽引していく。

個室内でナプキン無償提供 「フェムテック」の先駆けに
 昨今、女性の社会進出はかつてよりも進んでいる一方で、まだまだ働く場としての環境整備には課題が残っている。とある企業は、ジェンダー格差の解決を図るべく画期的なサービスを始めた。
 オイテル(東京都港区)は昨年夏より、生理用品の無料提供サービス「OiTr(オイテル)」の企画・販売を進めている。
 2016年に設立されたオイテルが「OiTr」を開発した背景には、昨今問題視されているジェンダー格差があった。仕掛け人の一人である専務取締役 事業本部長 COOの飯崎俊彦氏は「社会問題の解決に寄与する事業を展開したいと考えていました。その中で着目したのが『ジェンダー格差』。色々調べていくと、女性を意味する「female」とテクノロジーを掛け合わせた造語の『フェムテック』という言葉に出会いました。女性の健康課題をテクノロジーで解決を図るフェムテックは、海外ではいち早く進んでいます。一方で日本はまだまだ途上の段階あったため、女性のQOL向上に貢献を目指すべく『OiTr』を開発しました」と話す。  大手服飾販売店の「ユニクロ」ではナプキンのいらない吸収型のサニタリーショーツを販売するなど、女性のQOL向上に寄与する製品・サービスの台頭も日本で注目され始めている。あらゆる角度のフェムテックがある中で、オイテルが「生理用品」に着目したことには理由がある。
 「ある女性の方から『トイレットペーパーのように、生理用品も当たり前に設置してほしい』との声を聞いたことがきっかけです。生理用品の入ったポーチをもってトイレに行くことがはばかられる、という方も少なくありません。そのためトイレットペーパーと同じように、個室内に無料で設置し、必要な時に誰の目も気にせずに使えるサービスが必要であると考えました」(飯崎氏)。
 「OiTr」ではデジタルサイネージの付帯したディスペンサーと呼ばれる躯体を使用する。使い方は単純。個室トイレ内の壁に掲示してあるQRコードを読み取り、無料のOiTrアプリ画面の取り出しボタンをタップ。スマートフォンを個室内のディスペンサーに近づけると、取り出し口からナプキンが一枚出てくるという仕組みだ。
 ディスペンサーに付帯したデジタルサイネージから流れる広告収入が利益源となっている。導入コストはディスペンサー6個を1つのユニットとして最初の1ユニット5万円、次のユニットからは1ユニット3万円。運営コストは主にOiTrの機器にかかる電気代のみで、ナプキンの補充は導入先のオフィスの清掃・管理の担当者が行う形となる。
 SNSなどを通じて女性の施設利用者から大きな反響をよび、提供開始から1年弱の現時点で導入施設は121か所、計1563台設置。公共施設や商業施設、オフィスなど多方面への導入が進んでいる。オフィスの付加価値向上や女性の採用を強化したい企業にとっても期待の側面が大きい。女性の働きやすい環境の整備という観点からも、「OiTr」は今後必要不可欠となっていくことだろう。


女性のライフワークバランスに仮題
オイテル 専務取締役 事業本部長 飯崎俊彦氏
 女性の働く環境にはまだまだ課題があります。女性の正規雇用者は増えていますが、産休育休の取得といったライフワークバランスが整っている企業は未だ少ない。生理休暇を導入している企業でも、実際には2~3割程度の取得率に留まっているというデータもあります。これからの女性社員の健康課題の解決には、積極的にフェムテックを推進していくことが必要だと感じます。「OiTr」もトイレットペーパー同様、「置いてあって当たり前」と認識されるように普及を目指していきます。

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