不動産トピックス

【今週号の最終面特集】不動産業界DX事情

2022.04.25 13:56

人手不足解消・生産性向上の一手 利用者の満足度向上へ新施策も

 2015年前後から登場した「不動産テック」。今ではDXという言葉が定着。コロナ禍で対面や接触しての通常業務が避けられるようになったことや、以前からの生産性向上や効率化といった課題から、早急に取り組むべきものとなっている。業界内で注目を集めるサービスのポイントは課題に応えられることに加えて、潜在需要を掘り起こす「これまでになかった」を提供できることが重要になっている。

消防設備点検DX「ビルメ」勢いに
 WAVE1(東京都杉並区)は消防設備の保守点検・工事をメーンに展開。直近では消防設備点検業界のDX化と生産性向上に尽力している。2020年2月に展開したリリースした消防設備業界の人材マッチングサービス「ビルメ」が成長を続けている。
 2018年に創業した同社。創業当初より民泊施設をはじめオフィスビルやマンションの消防設備点検・工事を受注し、事業規模を拡大。代表取締役の吉村拓也氏も二級建築士・消防設備士(全種)として、現場をこなしてきた。
 そのなかで消防設備業界の課題も目の当たりにしてきた。それが法律で義務化されている消防設備点検の報告率の低さだ。消防庁が発表している「消防設備点検報告率」では、2020年3月末時点のもので全国平均48・9%。小規模な施設になると、低調な結果となっている。吉村氏は「建物所有者様の認知度や意識の向上はもちろんなのですが、消防設備点検業界の業務効率化や人材確保も重要になっています」と指摘する。このソリューションとして同社が構想したのが、「ビルメ」だった。

研修や保険など充実 大手企業の登録も増加
 「ビルメ」に登録して働くワーカー数や、ワーカーを活用する企業の登録数は大きく伸びている。吉村氏によれば「この1年ほどでワーカーは2倍超、企業数は3倍超に成長しました」と明かす。認知度拡大のほかにも制度の充実を図った。例えば、キャリアが浅い登録ワーカーに向けた消防設備点検の特別研修「ビルメスクール」。3日間の研修を通じて消防設備点検の基本的な知識や実務を学ぶことができる。
 「このような教育プロジェクトをしっかりと整備できたことでワーカーが登録しやすい環境をつくることができました。加えて、企業側にとっても『ビルメ』サービス利用への安心感につながりました。最近では大手企業様のご登録も増えてきました」(吉村氏)  他にも「ビルメ」のサービス拡充を複数実施している。ひとつはワーカーの作業中、ないしは作業後の対人/対物の事故に対する損害賠償保険「ビルメ賠償責任保険」の適用だ。国内のある保険会社と提携することで実現した。業界内にもビルメンテナンス事業者向けの保険はあるものの、ワーカー向けの保険は珍しいものとなっている。
 また「ビルメ」に登録しているワーカーのスキルも詳細に設定可能。消防設備点検に関する熟練度のほかに、消防設備士をはじめとしてビルメンテナンス系の取得資格を詳細に登録できるようになった。吉村氏は「『ビルメ』は業界が抱える慢性的な人材不足解消に向けたソリューションのひとつです。今後より多くのワーカーにご登録いただくとともに、企業様の利用満足度をさらに向上させていけるよう、サービスの質を充実させてまいります」と意欲を示す。
 同社では人材マッチングにとどまらず、業界のDXを進めていくための構想も進めている。これは新しいサービスとして展開されていく予定で、吉村氏は「早ければ今年中に発表できるかもしれません」と話す。今後の動向も注目される。

「Agently」高い成長率 東海へサービス拡大ほかのエリアにも
 不動産売買DX企業のTERASS(東京都港区)は不動産エージェントを支援する「Terass Agent」事業を手掛けている。2020年6月より展開している、エージェントと中古住宅購入検討者のマッチングサービス「Agently(エージェントリー)」が今般、名古屋を中心とする東海エリアにもサービス対象エリアを拡大した。
 「エージェントリー」は「いい家探しはいいエージェント探しから」をコンセプトとし、マンションや戸建て・土地の購入や売却について希望条件やリクエストを入力すると、複数の不動産エージェントから提案が届く仕組みとなっている。ユーザーはエージェントのプロフィールややりとりを見ながら、信頼できるエージェントに依頼することができる。これまで首都圏を中心にサービスを展開。累計のユーザー数は9000人となり、前年同期比で約3・6倍の成長を見せた。この成長の要因について、代表取締役の江口亮介氏は「昨今の中古取引数の増大と、Agentlyのコンセプトが受け入れられ、信頼できるエージェントに相談しながら進めていきたいと考える方が増えてきたことの2点が急成長につながったと考えています。また、エージェント側も『個人』として強みを出してくれる方が増えてきて、カスタマーとエージェントのよりよいマッチングが生まれやすくなっていると思います」と受け止めていた。
 今回、東海エリアをサービス対象エリアへと拡大した背景には、中古マンション取引数が増加傾向にあることだ。中部圏不動産流通機構がまとめる「中部圏レインズ 年報市況レポート」によれば、過去5年間で中古マンションの取扱高、件数ともに微増。コロナ禍による在宅時間の拡大などで、「住み替え需要は根強く、中古住宅市場は引き続き堅調に推移すると見込まれる」としている。
 TERASSでは「Agently」のサービスを対応させることで、より安心できる中古住宅の売買環境の整備に努めていく。江口氏は東海エリアでの需要について「1年以内にユーザー数1000人超を見込んでいます。戸建てニーズの強いエリアでもあるので、そういった地域のニーズにあわせた機能改善を行っていきます」と話す。加えて今後のエリア展開についても「また、今後は大阪を中心とした関西、福岡を中心とした九州エリアにも対応していく予定です」としている。

コロナ禍経て需要強まり「業務効率化」の注目続く
 不動産業界でのDXツールは勢いを増している。
 不動産業界プレイヤー向けのサービスは充実してきた。例えばコロナ禍のなかでの非対面に対応した営業ツール。Eltropy Japan(東京都千代田区)が展開するカスタマーエンゲージメントプラットフォーム「Eltropy(エルトロピー)」はメッセージアプリやビデオ会議ツールといった非対面営業ツールが一つのサービスのなかに集約されている。米国発のサービスだが、日本でも保険会社に導入されていて、今後は不動産業界での展開も進めていく。このような非対面営業ツールのほか、「電子契約」関連のサービスにも注目が集まっている。
 投資物件プラットフォームも充実してきた。特に海外投資家を意識したものが増えている。代表的なサービスではGA technologies(東京都港区)グループ企業の神居秒算(東京都港区)のサービスが挙がるが、最近ではサオス(千葉県船橋市)が展開する「HouseFan」が登場。SOZONEXT(東京都台東区)では日本不動産の取引ノウハウ集「RedB」を展開。また直近ではGARDE(東京都港区)が世界各国の投資、売買、仲介情報のプラットフォームサービ「REGS(レジス)」をリリースした。足もとの通貨市場も円安傾向が進んでいて、インバウンド投資を呼び込みやすい環境である。これまでは日本人投資家を対象としたものが多かった。これらの海外投資家にも目を向けたプラットフォームの登場が、どのような変化をもたらしていくか注目される。
 コロナ禍を経て、不動産業界におけるDXの重要性は一段と高まっている。特に業務効率化や、ユーザー体験の向上に関連する取り組みなどは、引き続き業界内外から注目をされていくことになりそうだ。


業界DXへ更なる一手も
WAVE1 代表取締役 吉村拓也氏
 3月1日に消防用設備点検票作成サービス「点検エキスパート」を譲受し、当社が運営を担うことになりました。このことはこれからの業界DXに向けた当社の取り組みとも関係してくるものです。消防設備点検の報告率の低さは業界全体で改善へ動いていかなければならないと感じています。当社としても貢献できるよう、新しいサービスを構築していきたいと考えています。

機能アップデートでニーズ拡大へ
TERASS 代表取締役 江口亮介氏
 1月に家の売却向けの機能をリリースし、売買ともに日々内覧や成約につながったというお声をいただけるようになりました。昨年までは東京都内の成約事例が多かったのですが、最近では神奈川埼玉千葉での割合が増えており、エージェント側も1都3県全体をカバーしていけるように強化します。また、ライトな相談から始められる機能など、住まいにまつわる希望を叶えられるプロフェッショナルに出会えるプラットフォームとして機能面もアップデートを続け、今年は現在の倍以上のユーザー数を目指して成長を続けていきますので、引き続きご期待ください。

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