不動産トピックス

【今週号の最終面特集】リーシング力アップにシェアオフィスを活用

2022.01.31 12:08

関西で「多機能型フレキシブル賃貸オフィス」の試み 占有部プラスアルファでビルの価値向上へ
 戦略的にビル経営をしていく上で、シェアオフィスを活用していくことが一手になっている。これまでも働き方の多様化からシェアオフィスやコワーキングスペースといった場に需要が増していることは取り上げてきた。大手デベロッパーも取り組みを進めているが、所有ビルのリーシングに生かしていく試みが始まっている。
シェアオフィスをテナントにも ビル内で柔軟な働き方を実現
 関電不動産開発(大阪市北区)が所有する「関電不動産梅田新道ビル」。昨年6月に地下2階にシェアオフィス「WORKING SWITCH ELK(エルク、以下ELK)」をオープン。約半年で個室のプライベートオフィス、コワーキングエリアともに大きな需要を獲得している。1月よりビルの専有オフィスとシェアオフィスを連動させた、新たなリーシングプランをスタートさせた。
 「ELK」の事業者は関電不動産開発、シェアオフィスで実績を持つReqree(大阪市北区)が企画・運営協力を行う。立地は京阪本線、Osaka Metro線「淀屋橋」駅から徒歩4分、御堂筋沿い・北新地エリアの一画に位置する。1フロアで800㎡超の広々とした空間を「コワーキングエリア(約400㎡)」と「プライベートエリア(約400㎡)」の2エリアで構成し、プライベートエリア内には専用デスク10席、1~7名用の個室タイプのオフィスが28室用意されている。これまでベンチャーやスタートアップ、テレワーカーを中心にして企業のサテライトオフィスなど幅広いニーズを獲得してきた。
 関電不動産開発の開発事業本部賃貸二部部長代理の重岡悟氏は「『ELK』は当社にとって初のシェアオフィス事業であり、チャレンジでした」と話す。このチャレンジの進捗は順調だ。多様なワークスペース、こだわりのフリードリンク、緑化をふんだんに取り入れた内装デザインなどの仕掛けづくりに加えて、コンシェルジュによるきめ細やかなサービスも利用者から高評価だ。
 更に1月より「多機能型フレキシブル賃貸オフィス」をスタート。ビルに新たに入居するテナントに対して、「ELK」のコワーキングエリアを開放していく。
 この狙いは「ビルの付加価値向上」だ。重岡氏は今回の施策によるメリットを次のように話す。
 「専有部に加えて、約400㎡100席のコワーキングエリアを自由に使うことが可能です。ワーカーが気分を変えて働くことができるなど、柔軟な使い方が可能になります。また『ELK』内には貸し会議室も用意していますので、専有部には会議室を設けず各テナントのニーズに合わせた作りにしていくことが可能です。またオプションにはなりますが、プライベートエリアを活用すれば規模を拡大したい時にもすぐに対応できます」
 昨年11~12月の2カ月間、試験的に入居中のテナントにも開放し、好評を博した。「多機能型フレキシブル賃貸オフィス」では当面、新規入居のテナントを対象とするが、「ゆくゆくは対象を拡大していくことも検討しています」(重岡氏)とする。

リーシング手法にDX活用 「SDGsへの寄与」もPR
 ELKの企画・運営に協力するReqree代表取締役の高室直樹氏は、今回の取り組みのポイントとして、「DX」と「SDGs」の2つを挙げる。
 「『多機能型フレキシブル賃貸オフィス』ではこれまでのオフィスビル業界にはない貸し方になるため、シェアオフィスの集客だけでなくテナントリーシングにおいても従来の仲介会社のほかにデジタルマーケティングとして様々なウェブ広告を駆使していきます。特に柔軟な働き方を模索されている方はウェブから情報を得ることが多いので、そういった人たちへのアプローチを強化していきます。またシェアオフィスは家具や内装を共有するため、移転時の廃棄なども減らすことが可能です。これはビルオーナー、テナント双方にとってのSDGsになるものと考えています」
 コロナ禍のなかでの新しいリーシング手法。需要が得られれば、将来的には他の所有ビルなどでも取り組むといった横展開の可能性も高まる。今後の動きに注目だ。

「渋谷」駅前のビルを活用 縮小移転ニーズに応える
 空室対策リノベーション事業などを行うグッドルーム(東京都渋谷区)ではシェアオフィス「goodoffice」を展開している。昨年11月30日に、「渋谷」駅徒歩1分に立地する「小林ビル」に12拠点目となる「goodoffice渋谷駅前」を開業した。
 ビルは地上5階地下1階。2階はラウンジスペースとして使用し、他はフロアオフィスとして貸し出す。ラウンジスペースにはフォンブースを6台設置。コロナ禍のなかで増えるオンライン会議等への需要に対応していく。
 フロアオフィスのリーシングは順調に進んでいる。代表取締役の小倉弘之氏は「ベンチャーやスタートアップではなく、これまでのオフィスを縮小しての移転先として検討されているケースが見られました」と話す。同社の拠点は東京都内をはじめ、大阪・本町、福岡・薬院と呉服町などがある。会員になるとこれら施設のオフィスラウンジを相互利用することが可能であることもメリット。リーシングにおいても貢献している。
 小倉氏は「今後も東名阪エリアを中心にして拠点展開をしていきたい」と話す。新しいオフィスニーズをしっかりと掴める活用方法として注目される。

コロナ禍で需要増 郊外へも出店強化
 シェアオフィスへの注目が一段と高まっている背景にはコロナ禍もある。ワークスタイルが多様化し「毎日定時に出社して」というスタイルは「常識」ではなくなっている。業種によってはセキュリティの問題などがハードルとなるが、それでも多くの人たちがシェアオフィスやコワーキングスペースを自身のワークスペースとして利用するケースが増えた。
 このようなワークスペースへの利用者のニーズは郊外でも拡大傾向にある。それを見越して、大手デベロッパーが展開するシェアオフィスブランドでは都心から郊外へと出店エリアを広げてきている。また運営事業者も不動産会社だけでなく、鉄道事業者の参戦なども見られる。このような多様化が今後も続いていくか、あるいは収斂していくかは不透明だが、しばらくは新規参入事例もありそうだ。
 ビルオーナーとしては、この需要をどのように経営に生かしていくかがポイントとなる。関電不動産開発はリーシング戦略の一環として活用する。グッドルームが手掛けた「小林ビル」では「将来を睨み期間限定の中で利活用出来ないか」(小倉氏)というのがオーナーからの依頼の趣旨だった。リーシングや利活用など、ビル経営の課題を解決するソリューションとしても機能していきそうだ。


中小ビルの活用手段に
グッドルーム 代表取締役 小倉弘之氏
 「goodoffice」ではワンフロア100坪以下の中小ビルを対象に出店を広げています。今回の「小林ビル」では将来を睨み期間限定の中で利活用出来ないか、ということでご依頼をいただきました。当社は設計、施工、入居者募集をワンストップで提供する空室対策リノベーションをこれまで創業以来展開してきました。「goodoffice」でもそのノウハウと実績を生かして、期間限定・狭小・築古など通常だと対応しにくい所有不動産のバリューアップに貢献していきます。

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