不動産トピックス

【今週号の最終面特集】二転三転のコロナ対応 ビルオーナーの収益アップ策

2022.01.24 10:28

稼働率10%台からの復活を実現
ビルの顔・路面階にシェアオフィス 半年後に稼働率60%、2年での投資回収目指す
 新型コロナ感染症の第6波が、全国で猛威を振るっている。ここへきて多くの都道府県で1日あたりの感染者数が過去最多を更新。今月21日には、まん延防止等重点措置の適用が1都12県まで拡大した。企業は緩和傾向にあったオフィスへの出社を再び制限する方向へと舵を切っている。この2年、新型コロナ感染症をめぐる動向は一進一退を繰り返してきた。貸ビル経営の現場では、二転三転するコロナ対応についてどのように感じ、対策を実行しているのか。話を聞いた。

1階飲食店が退去 その後の募集も難航
 東京・日本橋人形町で賃貸ビルの経営や事務所・店舗の賃貸仲介などを行う和田商事(東京都中央区)の代表取締役・和田雄彦氏は、国内の新型コロナ感染拡大が始まった2020年から現在までの約2年間を次のように振り返る。
 「所有する『人形町和田ビル』では入居テナント6社のうち、この2年で5社が入れ替わりました。中でも1階の飲食店が2020年8月に退去。次のテナントが入居開始するまで約9カ月かかりました。また、入居企業の従業員で新型コロナ陽性が確認されたため、テナントの専有部だけでなくエレベーターやエントランスホールなども消毒作業に追われました」  エリア全体をみても、地域経済の一翼を担っていた外国人観光客の訪日が途絶え、宿泊施設から周辺の飲食店舗へと影響が波及。2020年秋ごろから空室の供給が需要を上回る状況が現在も続いているという。「人形町和田ビル」では1階の飲食店が撤退後、2021年3月末までに3社が撤退した。従来通りの賃料で募集をかけても条件に合う入居企業は現れない。その要因は新型コロナ感染拡大に絡む移転需要の縮小だけではなく、借り手がつかずにシャッターが下ろされたままの路面階がビル全体の印象を下げていたのだ。和田氏は稼働率の低下に歯止めをかけるため1階のテナント募集を本格化させる。
 「共通の知人を通じて『人形町和田ビル』をご紹介頂き、2021年3月から経営コンサルティング業務を請け負っています。建物は視認性も良く、飲食以外の業態でも運用が十分に可能だと感じました。昨年から在宅勤務やリモートワークが推奨されるようになり、オフィス以外で働く場を探すようになりました。人形町はオフィス・商業の集積地ですが人口も多く、地元のタワーマンションに住む層をターゲットにシェアオフィスとしての運用をオーナー側に提案しました」
 こう話すのは、不動産の経営コンサルティングを行うワンスカンパニー(東京都渋谷区)の白井康一氏である。同氏は税務会計事務所の代表社員を務める会計士でもあり、不動産の経営から税務サポートまで、不動産オーナーの支援業務を幅広く手掛けている。オフィスや自宅以外の、第三の働く場に対するニーズは非常に高い。一方でシェアオフィスは室内の座席を利用者であれば自由に利用できるというのが一般的。利用後の座席の除菌作業など、直近の情勢を反映した利用者側のニーズにも応えなければならない。和田氏は白井氏とシェアオフィスを開設する場合の内装デザインや工事費用、開業後の運営スタッフの確保、感染予防対策について検討を重ね、受付業務は基本的に無人としつつも清掃・除菌作業を行う専門スタッフを常駐させ感染予防対策を施設のアピールポイントとすることに決まった。
 和田氏は「管理会社を通じて地元の工務店を紹介してもらい、昨年6月下旬から7月中旬にかけての内装工事を行いました。感染予防対策として施設内のレイアウトや間隔を空けた座席配置、スマートロックや無人受付機の設置、非接触タイプのディスペンサーの設置によって、できる限り人と人との接触を回避する空間を目指しました」と話す。一方で懸念事項となったのが、施設内の利用者数を絞り込むことで採算面での不安が生じる点、接触の機会を少なくすることでシェアオフィスの利点でもある利用者同士のシナジーを奪う可能性がある点である。前者については投資回収のスケジュールを通常18カ月程度に設定するところ、24カ月に設定。後者については近隣の飲食店舗と協力しケータリングサービスを提供して施設内での情報交換会を定期的に実施。直近では大人数での会合を行うことが難しい状況となっているが、今年春ごろからは施設内での交流会を再開する考えだという。
 白井氏は「周辺のシェアオフィスの相場を参考しながら料金設定を検討していますが、競合施設との料金の差が大きく開いてしまうと客足が遠のいてしまいます。そこで、会員以外のビジター料金は相場より少し高めの設定とし、会員向けには『人形町』駅の通勤定期券を持つ方を対象に割引料金を設けています。坪あたりの座席数は一般的な飲食店に比べそん色なく、平均60%の稼働で収入は飲食店入居時の賃料を超える計算です」と話す。告知活動はSNSを中心に展開しており、今月11日にプレオープンを迎え、2月1日には正式オープンとなる。施設名は「TP CAFE」で、「TP」は「Third Place(第三の場所)」の略称。自宅でもオフィスでもない、第三の場所をビジネスの活躍の場として求める需要に応える構えだ。和田氏によれば、開業から半年後の7月末時点で平均稼働率60%以上を目指すという。


飲食向けの設備も活用
ワンスカンパニー 代表取締役 白井康一氏
 「人形町和田ビル」のテナント募集や企画を担当しています。ビルは築20年弱で立地は申し分なく、通常であればあまり苦労せずとも借り手が見つかる物件だと感じました。しかし直近の市況感がこれまでになく低調であったこと、1階に空きが発生してしまってビルの印象を下げてしまったことが、入居を希望する企業の足を遠ざけてしまった原因だと分析しました。1階はシェアオフィスとしてオープンしますが、飲食対応の設備は残っていますので、将来的には調理可能なレンタルスペースとしての運用も視野に入れ、今後のオペレーションを検討しています。

利用者に安心を提供
和田商事 代表取締役 和田雄彦氏
 シェアオフィスは収入が不安定になる懸念があり、自社での運営にはこれまで慎重な考えを持っていました。しかし入居希望の企業とは交渉段階で条件が折り合わず、なかなか成約まで至らない現状を鑑みると、新しい取り組みにチャレンジすることも必要だと感じ、シェアオフィスの運営経験もあるワンスカンパニーにコンサルティングを依頼しました。従来であれば1人あたり1・5~2㎡程度の空間を確保できるように座席を配置しますが、今回の計画では1人あたり3㎡は確保できるレイアウトを採用することで、利用者に対し安心して仕事に専念できるを提供できると考えています。

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