不動産トピックス

【今週号の最終面特集】浸透する飲食店テナントの新業態 物件に求められる条件とは

2021.10.25 10:56

ゴーストレストランとクラウドキッチン 二等立地・10坪で可能、半径3㎞の人口数がポイントに
 新型コロナウイルス禍によって生じたライフスタイルの変化。外食需要がデリバリーやテイクアウトといった「中食」需要に切り替わっていくなかで、飲食店舗の形も大きく変化している。その変化のひとつの形として表れているのが、デリバリーに特化する「ゴーストレストラン」、あるいは「クラウドキッチン」という形態だ。これらを展開する事業者に動向を取材した。

コロナ禍以後需要増 物件は「居抜き」必須
 コロナ禍以後、都市部においては「Uber Eats」のカバンを背負って自転車に乗った宅配員を見かける機会が格段に増えた。「フードデリバリーサービス」と呼ばれる事業者は「Uber」のような外資系から、「出前館」のような国内資本のものまで複数が稼働する。
 このようなフードデリバリーサービスが隆盛する中で、飲食店舗も対応を急ぐ。テイクアウトや宅配への対応はコロナ禍があって急速に進んだ。そして店舗形態にも変化が見られる。イートインの無い飲食店、「ゴーストレストラン」や「クラウドキッチン」が店舗数を増やしているのだ。
 GRC(東京都千代田区)はゴーストレストラン出店をサポートする1社だ。同社は飲食店向けにゴーストレストランの運営コンサルティング、またビルオーナー向けに誘致や不動産有効活用コンサルティングを展開。加えてゴーストレストラン経営者のための情報発信ウェブサイト「ghost restaurant online」を運営している。現在同社や経営陣が直営店舗として運営を行うゴーストレストラン店舗は6店舗。今年6月には東京・御徒町エリアのビルオーナーからの依頼でコンサルティングを実施し「ゴーストレストラン御徒町」としてオープンしている。
 飲食店からの問い合わせはひっきりなしだ。代表取締役の鈴木雅之氏は「ゴーストレストランという形態は18年頃からあり業界では知られていましたが、一気に拡大したのは昨年のコロナ禍以後です」と話す。拡大の背景にはコロナ禍という社会的変化と、ゴーストレストランが飲食店運営事業者にとってメリットの大きいものであることが認知されたからだ。
 「これまでの開業と異なり、コストを格段に抑えられることが注目されています。これまでスケルトン状態から飲食店を開業するには、物件を借りる費用や造作費で最低でも1500万円以上はかかりました。ゴーストレストランは居抜き物件で、当社がコンサルティングする案件では賃料を20万円ほどに設定しています。オペレーションでは人件費を抑えて、効率よく食事をつくれるかがポイントになります。たとえば、月売上が500万円ほどになると、飲食店側は初期コストを2~3カ月で回収でき、事業を拡大・継続していくことが可能なのです」
 同社ではビルオーナー向けにもコンサルティングを展開する。必要面積は10坪程度、二等立地でも商圏がマッチすれば展開可能だからだ。フードデリバリーサービスが浸透している首都圏であれば、半径3km圏にオフィス街や住宅街など需要があれば、十分に展開することができる。鈴木氏は一例として「実際に東京都杉並区の高井戸では駅から徒歩10分以上かかる物件で展開していますが、開業初日から売上1日10万円を継続、月商300万円を達成しました」と紹介する。早い段階で利益をしっかりと残せる基準値である、売上1日15万円以上、月商500万円の実現を目指しているが、売り上げは順調に伸びており3カ月以内の達成は既に射程圏内に入ってきたようだ。この数字が実現できれば、ビルオーナーにとってもテナントの安定入居につながる。では実際にビルオーナーが取り組んでいくためのポイントはどこか。
 「ゴーストレストランに関心のあるビルオーナーは前テナントの造作を残しておくことをお勧めします。前テナントの造作そのままに開業することができるのが、ゴーストレストランが選ばれるメリットのひとつだからです」(鈴木氏)

五反田にクラウドキッチン開設 5年以内に35拠点展開へ始動
 クラウドキッチン施設も件数を増やしている。今年4月設立のWECOOK Japanが五反田エリアに「KITCHEN WAVE(キッチンウェーブ)」第1号拠点を開設した。同社はガイアックス(東京都千代田区)と韓国最大級のクラウドキッチン事業「WECOOK」を運営するシンプルプロジェクトカンパニーの合弁企業。「キッチンウェーブ」には4つのキッチンがあり、全区画が成約済み。本格稼働は11月を予定する。
 今月14日に記者発表を開催した。代表取締役の野澤直人氏はクラウドキッチン事業を始めた経緯について「シェアリングエコノミー領域のビジネスの一種であり、欧米や中国、韓国などの流行に注目していました。昨年秋にシンプルプロジェクトカンパニー様からお声がけを頂いて、共同して事業展開していくことになりました」と説明する。
 展開の背景にはコロナ禍による飲食店経営の環境変化とフードデリバリー市場の拡大だ。外食市場規模は21年も低迷を続けた。6月の市場規模(東名阪3圏域合計)は前年同月比71・8%の1345億円。19年比では40・3%となっている。一方でフードデリバリー市場は18年3600億円台だったが、コロナ禍で需要が増えて23年には6821億円に拡大する、と予測されている。これらのデータも参入を後押しした。
 五反田への出店理由は、商圏の人口総数が多く、需要も期待できることからだ。商圏は店舗の半径3km以内に設定。出店先として比較検討していた渋谷の物件に出店するよりも、五反田の物件は人口総数が20万人ほど多かった。また一人暮らしや共働き世帯が多いことも「フードデリバリー需要が期待できる」(野澤氏)。
 野澤氏は「キッチンウェーブ」独自の強みとして「韓国最大手の知見を生かせることと、ガイアックスがソーシャルメディアを使ったマーケティングを主力事業としていることの強みを生かしたマーケティングデータの活用ができること」を挙げる。
 「キッチンウェーブ」は5年以内に全国主要都市に35拠点の展開を目指す。各拠点のキッチン数は4~6を想定。物件は居抜きを活用していく。事業展開をしていくうえでSDGsや環境負荷低減も重視しており、野澤氏は「居抜きを使った遊休資産の活用はもちろんのこと、環境負荷の少ない容器の積極活用やフードロスの削減などを意識した運営を行っていきたい」と話す。
 国内企業のクラウドキッチン事業参入は多い一方で、「大手」は不在。韓国最大手の知見やノウハウと、ガイアックスが蓄積するマーケティングノウハウを生かすことで、「キッチンウェーブ」がクラウドキッチンの代名詞になれるか、注目が集まる。

ゴーストレストラン成功を支援 1事業者10以上のブランド必要
GRC 代表取締役 鈴木雅之氏
 当社ではゴーストレストランとして出店される飲食店事業者向けに物件の紹介だけでなく、開業後の成功に向けたコンサルティングも行っています。そのなかで重視しているポイントのひとつとして、1事業者あたり10以上のブランド立ち上げです。ゴーストレストランは従来の来街者などをターゲットにしたイートイン型の飲食店ビジネスと大きく異なるからです。まず前提としてフードデリバリーを頼まれる方の意識としては、料理をする時間がないから手軽にしたい、といったニーズが多くあります。また例えば「Uber Eats」のサイトやアプリを開くと、「和食」や「ピザ」、「ヘルシーフード」といったようなカテゴリが並んでいます。より多くの人に注文してもらうためには、様々なカテゴリのブランドを立ち上げて、メニューを用意していることが重要なのです。当社ではこれまでのノウハウを生かしてのブランド開発支援はもちろんのこと、人気のあるブランドと提携して、コンサルティング先にノウハウ提供も行っています。

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