不動産トピックス

【今週号の最終面特集】不動産付加価値向上へ ワークスペース出店地多様化

2021.09.27 11:21

商業施設やマンションへの導入増 ノウハウ生かした総合的な提案も

 リモートワークが浸透する中で、ニーズが急増しているのがシェアオフィスやコワーキングスペースといったワークスペース需要。これまで都心中心の展開であった大手デベロッパー系のスペースも、より住宅街に近い場所や郊外都市などでの出店を加速。業界内でハウスデベロッパーもこの分野に着手し、業界外でも紳士服量販店大手などが新たな収益事業とにらんで参戦する。業界内で注目したいのが、商業施設やマンションなどでの出店が増えていることだ。

出店先が多様に 郊外店舗増加傾向
 新型コロナウイルス感染症拡大以後、リモートワークやテレワークが広がりを見せた。そのような働き方のなかで必要となっているのが、シェアオフィスやコワーキングスペースといったワークスペースだ。20年の春頃は企業が社員に対して外出を自粛するよう要請していて、在宅での勤務が主流となっていた。コワーキングスペース運営事業者はこの期間については「しばらく利用できなさそうだから、ということで退会する方も多かった」と話す。
 それから1年以上が経過した現在。ワクチン接種も進んでいる。9月27日現在、緊急事態宣言が発令中であるものの、外出自粛のムードは少ない。コワーキングスペースやシェアオフィスも営業している。リモートワークを行う場所は多様化した。これまで通り自宅はもちろん、出社も可能であればオフィス、コワーキングスペース・シェアオフィスなど。ハウスデベロッパーもシェアオフィスブランドの立ち上げが行われている一方で、新築マンションなどでは専有部に書斎やワークスペースなどを設ける動きが活発となっている。
 コワーキングスペースやシェアオフィスの出店先も多様化している。これから紹介するのが商業施設や既存マンションの共用部内の設置といった実例だ。スーパーマーケットを核とした複合商業施設に出店するケースもある。ワークスペース「WorkOn」を展開するロア(東京都渋谷区)は今年3月30日に西友町田店の7階に出店。このような食品や生活雑貨を販売するテナントがメーンとなっている商業施設内への出店も増加傾向にある。また個室型のワークブースを設置するケースもある。新しい出店先として今後大手も参入してくるのかは注目される。

東急不動産株式会社と共同 開業後引き合い多数
 大阪を拠点にサービス付レンタルオフィスやシェアオフィスを運営しているSYNTH(大阪市北区)は、東急不動産(東京都渋谷区)との共同事業として、大阪・梅田の超高層複合ビル「ブリーゼタワー」1・2階に新施設「SYNTH×Business-Airport 西梅田ブリーゼタワー」を今月6日にオープンした。
 SYNTHは「働き方をもっと効率的に、もっと創造的に、もっと刺激的に、そしてスタイリッシュに変えていく」をコンセプトに、これまで関西圏において3施設を展開。オフィスビルでの出店だけではなく、三重県四日市市の「近鉄四日市」駅に直結する百貨店へ出店するなど、多様な出店戦略を見せている。東急不動産は会員制シェアオフィス「Business-Airport」を都内17カ所で運営しており、両社はこれまでも施設間の相互利用を可能とする提携を行ってきたが、共同事業による施設開発は今回が初である。
 「SYNTH×Business-Airport 西梅田ブリーゼタワー」は、JR「大阪」駅や地下鉄「梅田」駅といったターミナルと地下道で直結。同ビルの商業ゾーン「ブリーゼブリーゼ」の路面区画への出店であることから高い視認性を誇り、地元のオフィスワーカーだけでなく大阪を訪れる出張客にも利用しやすい環境である。1階の内装は「ボタニカル」をコンセプトとし、自然を切り取ったような都市のオアシスをイメージ。商業区画特有の天井高と路面に面した大きな開口部は、広々としつつ明るい空間を演出する。また、1階には英国発祥のカフェチェーン「コスタコーヒー」を併設。こちらは施設の会員以外の一般客の利用も可能となっている。2階にはビジネスラウンジと1名から利用できる専用個室が配置されている。同施設開業後の利用客の反応について、SYNTHの担当者は次のように話す。
 「開業して2週間が経ちますが、お問い合わせも多数いただいており反響を実感しております。大型のビジネスラウンジに関しては、会員様だけでなく、提携施設の会員様や新たなプランであるドロップイン(1DAYコワーキング)での利用もご好評いただいております。一方で当施設会員様専用のエリアも設けることで、会員様にもセキュリティ面で安心して利用いただいております。今後もよりよいサービスを提供する施設として、お客様のビジネスへ貢献できるよう努めてまいります」

「ニューノーマル」に合わせ積極的にバリューアップを提案
 清水建設グループのシミズ・ビルライフケア(東京都中央区)ではビルやマンションの不動産オーナー向けに、建物の付加価値を向上させるバリューアップ提案を積極的に行っている。
 現在注力している提案は2つある。1つはマンション共用部へのコワーキングスペース設置提案だ。今年5月に江東区の1988年竣工の超高層マンションにて約120㎡のコワーキングスペースの工事を来年着手予定であることを発表した。コミュニティスペースを改装して、約10席の居住者専用の執務空間をつくっていく。
 そしてもう1つは、日産自動車と連携して電気自動車「日産リーフ」に内蔵されているバッテリーを、非常用電源として活用していくプランだ。このバッテリーは車で使用した後も高い残存性能を持っていて、8年・16万km走行した後でも80%程度の容量が確保されている。バッテリーのモジュール構成を変更することで、ビルやマンションでの非常用発電装置として再利用していくことが可能だ。今年より日産自動車と連携して、提案を本格化させている。たとえばマンションであれば被災して停電しても、送電をエレベーターの稼働や各家庭の冷蔵庫、照明、テレビなどに制限すれば3日間以上保たせることが可能だ。さらには非常用発電機と異なって既存物件でも導入しやすく、管理についても比較的手間がかからない。
 これらを推進するリニューアル事業本部副本部長の原章博氏は「コロナ禍で変化したワークスタイルやライフスタイル、またBCP・LCP(居住継続性)重視の傾向が鮮明になってきたことへの当社のソリューションとなります」と話す。テレワークが進み、住まいのなかに執務環境を求める動きがある。また昨今の災害の激甚化はオーナーや管理組合に対策を急がせる。
 物件の長寿命化にも役立ちそうだ。原氏は「コロナ以後、これまで物件の価値を決定づける要因となっていた築年数や立地に加えて、新たにニューノーマルに対応した付加価値の導入が加わっています」と指摘する。時代のニーズに対応した付加価値が物件に備わっていれば「ビンテージ」として資産価値の維持にもつなげることができる。
 実際に提案活動を行う中で、手ごたえもしっかりと感じている。コワーキングスペースに関しては入居者からのニーズが大きい。リモートワークが常態化して、居室のなかにはワークスペースを設ける余裕が少ない。マンションの共用部内にコワーキングスペースを設置するという提案は歓迎されている。電動自動車のバッテリーを再利用した非常用電源装置の設置についてもオーナー側から前向きな回答が出てきている。これからの新しい物件価値を創出していく施策となりそうだ。


新しいニーズへの機敏な対応が必要に
シミズ・ビルライフケア リニューアル事業本部 副本部長 原章博氏
 これまでマンションやビルの価値を決定づけていた立地や築年数がメーンでしたが、そこに付帯設備や新たな施策で創出される付加価値も要因として加わっています。たとえば近年のマンションでは当たり前となっている宅配ボックスの設置。築古のマンションでは設置されていないケースも多々ありますが、その場合、稼働率や賃料などに影響を及ぼしてきます。そのような課題に対応してきたいと考えています。新たなニーズへの対応は今後不動産経営者、また管理会社にとって欠かせないのではないでしょうか。

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