不動産トピックス

【今週号の最終面特集】最新!オフィスの未来像

2021.08.10 11:29

コミュニケーションに重点 コロナ後見越し柔軟な設計も
 昨年から続く新型コロナウイルス感染症。そのなかでテナント企業のオフィスに対するニーズが日々変化してきている。「オフィスは必要」と考える企業にとって、求めるものは「コミュニケーション」を促進するオフィス。このようなテナントのニーズは今後のビル経営のあり方にも影響を与えそうだ。

第5波でテレワーク率上昇 出社率に応じたオフィスデザイン
 新型コロナウイルス感染症はライフスタイルやワークスタイルを変化させた。直近では第5波が到来し、ワクチン接種が始まったものの予断を許さない状況となっている。東京都が実施している30人以上の社員を抱える都内企業の「テレワーク実施率調査」では5月に実施率が過去最高水準の64・8%をつけ、6月は63・6%。微減しているものの高い水準を継続している。7月12日からは緊急事態宣言が発令。陽性者数、重症者数ともにこれまでにない伸び方をしていることから、足もとのテレワーク率は更に上昇していることが予想される。
 そのような状況のなかで、企業はウィズコロナ、そしてアフターコロナにむけたオフィスをどのように構築しようとしているのか。オフィスデザインや事務所移転、内装工事レイアウト設計などをワンストップで行うフロンティアコンサルティング(東京都中央区)事業本部設計デザイン部次長兼首都圏設計Grグループ長の小野哲氏は直近、企業が抱えているニーズとして「出社率の変化に合わせて、オフィスを柔軟に運用できる仕組みづくりがあります」と話す。
 第5波が到来している現在、出社率は低下していることが予想される。一方でコロナ後のオフィス運用についてどのように推移していくかは「不透明な部分が多い」のも実情だ。その不透明さへの対応策として「移動しやすい家具や間仕切りなどを導入して、出社率の変動に対応できるような設計を希望されることが多くなっている」ということだ。

オフィスの価値問い直しが進む
 ここから見えてくることがある。それは企業側が「オフィスを残そう」という考え方に傾斜していることだ。コロナ禍初期のような「オフィス不要論」はほとんど聞かれなくなっている。その一方で「オフィスの価値とはどのようなものか」と問い直す動きが出ているのだ。
 小野氏は「企業側が共通してオフィスの価値として認めているものが『コミュニケーション』です」と指摘する。テレワークやリモートワークを経験して、事業活動はそのような形態でも十分に運用していけることは証明された。その一方で、雑談や軽い会話といったような「カジュアルコミュニケーション」が抜け落ちた。加えて、小野氏は企業の方針や理念を社員に浸透させるような「ディープコミュニケーション」についても「テレワークやリモートワークの環境下では醸成しにくかった、という悩みが多く聞かれました」と指摘する。これらのコミュニケーションの濃淡は企業にとって新たな事業アイデアや人間的な信頼関係が構築されていることでの業務効率性など、様々な場面に影響を及ぼす。中長期的には生産性にもつながってくる。
 「コロナ禍が継続する中で、社員の不安を払しょくしながら、どのようにオフィスに来てもらうか。たとえば、オフィスのコンセプトや集まることの意義を言語化して社員と共有して、オフィスがあることの意義を再確認する動きもあります」(小野氏)
 次に直近のオフィス開設事例を見ていきたい。

事業始動でオフィス開設 集まって意思決定の場に
 BREW(東京都港区)はサービス開発やクリエイティブ・マーケティングでのサポートを行いつつ、CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)機能も持ち、自社独自での事業展開も模索している稀有な会社。シードからアーリー期のスタートアップに出資するとともに、それらの企業が事業を展開していくうえでのサポートも行う。Smartphone APP事業やIoT事業を展開するand factory(東京都目黒区)の創業者である小原崇幹氏が代表を務める。起業から上場までの成長を担ったメンバーがBREWに携わっている。
 BREWは21年4月より事業を本格始動させた。ライフスタイルに密接にかかわるスタートアップを中心に8社へ出資。投資するだけでなく、出資先企業の課題解決や事業の拡大に向けて、人的支援を含めて積極的に関与する。
 そんな同社は新オフィスを7月中旬に開設した。もとは30㎡ほどの区画に拠点を置いていたが、現在は120㎡ほどの区画へ移転した。取締役の熊本薫氏は「コロナ禍でも『オフィスをなくす』という考え方は当社にはありませんでした」と話す。その想いはこうだ。
 「一般論から言えば、私たちが行う事業は完全リモートワークでも事業活動は可能かもしれません。それでも私たちがオフィスを持つことに思い入れがあるのには理由があります。ひとつは代表の小原の考え方やand factoryで築かれていた文化です。それはオフィスに集まることでスピーディーな意思決定が可能になるという考え方であり、そうであれば『みんなが来たくなるオフィス』をつくっていこうという土壌がありました。またCVC事業を展開し、様々な企業に出資しているからこそ、実際のプロダクトに触れることができて、使用できる環境は重要です。使ってみることで『ここはこうしたらいいのでは』という、利用者の目線にも立ったアドバイスを送ることが可能だからです」

出資先のプロダクトを活用 見て・触れて・食べて支援
 実際、社内には出資先のプロダクトがふんだんに取り入れられている。
 オフィスの一画を占めるリラックススペースは社員ひとりひとりが自由に過ごせる空間。気分をリフレッシュして仕事をしたり、ランチ、雑談など様々だ。マンガも用意されていて、自由に読むことができる。またドリンクサーバーやハンドドリップのスペシャルティコーヒー、生ビール、冷蔵庫内にはスムージーなどもある。このうちのいくつかは出資先企業のプロダクトだ。
 熊本氏は「実際に、見て、触れて、そして食べることでフィードバックができることもありますが、自分たちの出資先により愛着を持って接することができるようになります」とも話す。
 このような出資先企業のプロダクトはオフィス内の会議室にも設置されている。「リラックススペースと同様に、私たちが接することができる、ということのほかに、当社を訪問されたお客様が目に触れられることでのPRもできていると感じています」(熊本氏)。
 BREWは「来たい」と思えるオフィスづくりを事業と絡めながら実現したケースではないだろうか。コロナ禍のなかで在宅も併用するが、「集まれる場」があるからこそ、スピーディーな意思決定や新しいアイデアの想起に役立っている。
 多様な「コミュニケーション」ができることをオフィスに求める動きは今後も続きそうだ。これはビル経営に生かせるのではないか。例えば共用部にコミュニケーションやリラックスできるスペースを設けることもできる。経営の糧にしたい。

ニーズの深堀が必要に
フロンティアコンサルティング 事業本部設計デザイン部次長 兼 首都圏設計Grグループ長 小野 哲氏
 コロナ禍のなかでオフィスに対する考え方は多様になっています。そのなかで私たちの業務においては個別のニーズをしっかりと聞き出して、その企業のオフィスに対する考え方の深意を汲み取る必要があります。当社では実際に企業からオフィスについてのご相談をいただいてから、オフィスデザイン・レイアウト設計するまでにワークショップや経営者へのヒアリングを重ねていきます。オフィスのあり方が多様化しているからこそ、オフィスづくりにおいてはそのようなニーズを深く聞き取っていくことが必要だと考えています。

福利厚生には「カロリー補助」も
BREW 取締役 熊本薫氏
 当社には福利厚生として「カロリー補助」という制度があります。リラックススペースに設置されている各種飲料や食事はもちろんのこと、ランチ代も会社側が金銭補助をするものです。業務が立て込んでいるときはしばしば昼休みもなく働きがちですが、そうすると体力的にも消耗し、健康面でも悪影響が出がちです。「カロリー補助」はそのようなことを防いでいると感じます。

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