不動産トピックス

【今週号の最終面特集】コロナ禍に繰り出す 不動産業界新規事業

2021.03.22 14:37

クラウドキッチン事業に大手不動産企業も参入 初期コスト抑えられ飲食店の出店ニーズは急増

 食事のデリバリーが定着し、そのインフラとなるキッチン施設の供給も進む。不動産業界でもこの分野への進出が勢いづきそうだ。その先陣を切ったのが東急不動産ホールディングスグループの東急リバブル(東京都渋谷区)。2019年に出てきた新規事業提案をブラッシュアップして、先陣を切った。

2019年委事業提案 ブラッシュアップ経て事業化
 東急リバブルでは2012年より新規事業提案制度を整えていて、すでに9年目を数える。「クラウドキッチン」というアイデアが出てきたのは2019年だった。
 提案したのは財務部主計課係長の生井久貴氏。当時、東京都内でもクラウドキッチン施設はまだ事例として少ないものだった。そのなかでアイデアの源泉となったのは大きなリュックを背に、自転車を懸命に漕ぐ「配達員の姿」だった。
 「当時、デリバリープラットフォームの配達員の姿を多く見かけるようになり、日本でも定着してきたのか、という印象を受けました。クラウドキッチンは米国やインドでは定着してきていて、『日本でもこのような事業が可能なのでは』と思い付いたのが提案のきっかけです」
 その後、飲食業界の環境を調べる中で、「やり方次第で需要を得ることは可能」とみた。飲食店舗を出店しようとする場合、物件を賃借するための費用や設備投資などで最低でも1000万円以上かかる。大きなリスクだ。加えて、3年以上営業を継続させられるのは狭き門だ。飲食店舗は3年で7割が閉店する、と言われる世界だ。
 「クラウドキッチンは初期コストの大きな割合を占める設備などは整えられていて、リスクを抑えて挑戦することができます。リーシングという点でも、強みがあると思います」
 同社は生井氏からの提案を高く評価した。そのうえで事業として確立していくためのブラッシュアップを重ねた。昨年後半以降には物件探しにも着手。そして六本木に建つビルの元飲食店フロアを賃借。「CITY KITCHEN」という屋号で、3月下旬に第1号店をオープンすることとなった。

立地や築年に左右されず不動産会社からも反響
 不動産の観点からは「有効活用」の一手段にもなる。
 商業ビルや店舗の価値判断として、たとえば立地だ。駅前はもちろんのこと、たとえば原宿の有名な通りといったような場所は集客力も強いので賃料相場も高い。また物件の築年数も賃料を決める要素となる。
 一方でクラウドキッチンは「そこで集客することを目的としないので、立地や築年数はあまり関係ない」(生井氏)。オーナーにとって大きな魅力となる。
 2月16日から情報を公開してリーシングも始めているため、「まだリーシング活動を続けている最中」だ(3月1日時点)。ただ様々な引き合いや反響を呼んでいる。そのなかには、中長期的に「CITY KITCHEN」を拡大していくチャンスもありそうだ。
 「入居を希望される方はもちろんですが、不動産会社様からも複数問い合わせが来ています。名古屋や関西などの不動産会社様からは、実際に展開していくことに興味があり、『全国で展開しないのか』という問い合わせをいただきました」
 当面は東京都心での展開に注力していくが、中長期的には東京以外のエリアへの進出にも希望を見せる。

他の施設との差別化も図る出店コスト抑制で低リスク
 既存のクラウドキッチン施設との差別化も図った。「CITY KITCHEN」において開業後の固定額は月額賃料(24万4000円~25万9000円)のみとした。たとえば他の施設では月の売上に応じて賃料に上乗せする「売上連動費用」がかかるケースがある。これを設定しないことで、出店者の負担が重くならないようにした。
 今回の「CITY KITCHEN」はこれから念入りに育てていく事業となる。
 生井氏は「年間で5店舗ほどをコンスタントに出店していきたい」と話す。業界内でも先陣を切った意義は大きい。同社で蓄積されていくノウハウが中小ビル活用の一手として活用されていくことが期待される。

飲食店のウィズコロナニーズ応えコスト減も
 「新型コロナウイルスの影響によって外食産業は大きなダメージを受けています。特にビジネス立地、大箱、酒類の提供。この3つが揃っている店舗は壊滅的です」
 このように語るのは店舗流通ネット(東京都港区)施設部次長の麻生研司氏。2020年から続くコロナ禍によって、外出自粛ムードが広がり、サラリーマンの会食自粛が続いた影響は深刻なものとなっている。そのなかで一気に頭角を現したのが、フードデリバリー。人との接触機会を抑えながら、料理人の味が家でも食べられるということで急速に人気が高まった。
 飲食のあり方が変化する中で、出店ニーズも変わってきたようだ。なかでも注目を集めているのがクラウドキッチン。麻生氏は「巣ごもり需要を取り込む以外にも飲食店側にとってメリットがあります」といい、その理由についてこう話す。
 「飲食店は通常、スケルトン状態の区画に出店して、退去するときはスケルトンにしなければなりません。そうすると入居には最低でも1000万円超、なかには数千万円の開業費用がかかります。そして退去時も内装解体費用などで1000万円ほどかかります。さらに解約予告期間として、通常は6カ月前の予告が必要になる。このような環境はコロナ前から飲食店側にとって重い負担となっていました」
 クラウドキッチンはこのような負担を大幅に減らす。「CITY KITCHEN」では退去も清掃などで済み、解約予告期間も2カ月という設定だ。また麻生氏は売歩を設定していないことも「他の施設と比べて大きな特徴」と話す。

飲食ビルの活用に最適 スペックは確認必要
 飲食店の経営環境が厳しいことはビルオーナーにとっても影響が波及する。賃料減額交渉や、テナントの撤退リスクにつながるからだ。後継のテナントを見つけようにも、現在の状況では新規の出店を見合わせる動きも出ている。そのなかでクラウドキッチンとしての活用は、活用手段の一つにあがる。
 実際にクラウドキッチンや飲食店の出店時の内装工事などを行ってきた店舗流通ネットの麻生氏は「飲食店が入居していた区画や飲食ビルのほうが行いやすい」と話す。第一条件となるのがビルの電気や水道、ガス、排気などの基本スペック。これらを満たさない場合、インフラ設備から整えていく必要があり初期の投資費用がかさむ。また耐荷重や防水など、飲食店ならではの条件も満たしていく必要がある。
 厨房区画は通常の飲食店であれば1つで済むが、小分けにした1区画ずつに独立した厨房設備が必要だ。
 クラウドキッチンの立地についてはどうか。接客を行う従来の飲食店とは異なり、デリバリー用の食事を調理することに特化しているため駅前一等地である必要はない。他のクラウドキッチン事業者も物件の賃料を抑えるため、二等立地の空中階などに店舗を構えるケースもある。
 一方、現状、都内では山手線圏内がほとんどだ。これについて麻生氏は「新しいビジネスでもあるので、まずは需要が一定数見込めるエリアで展開しているのでは」と話す。都市部は世帯年収が高い層も多いことから、客単価も期待できる。ただ今後テレワークが一層定着していけば、周辺都市でも出店の妙味は出てくる。
 また直近では、商業ビルの積極的な購入も進めている。築年数が経過したビルを購入し、法的治癒やファザードのリニューアル、コンバージョンなどを通じてバリューアップすることで再生を行っている。このような取り組みを通して、商業ビルのPBMとしての立場を築いていきたい考えだ。
 コロナ禍は飲食店舗やビルオーナーにダメージを与えた。その再建に向けて、多方面からの取り組みを続けていく。

確認しておきたいビルのスペック ビルの電気・ガス容量など条件が合えばオフィスでも
東急リバブル 財務部主計課 係長 生井久貴氏
 「CITY KITCHEN」1号店となる物件はもともと飲食店が利用していた区画でした。そのため給排気環境やガスなどは整備されていました。厨房設備については、リニューアルし複数台設置いたしました。ビルをクラウドキッチンとして活用していくことを考えた場合、ビルのスペックには注意が必要です。またテナントの数によっては、宅配員に配達する食事を渡すためのオペレーションも考慮して、たとえば駐車場があるなどといった物件が好まれる可能性もあります。

新型コロナ収束後も定着
店舗流通ネット 施設部 次長 麻生研司氏
 私自身もフードデリバリーを利用していますが、インターネットで注文出来て料理を持ってきてもらえることには大きな利便性を感じています。日本でのフードデリバリーは2020年のコロナ禍で大きく伸びました。可能な限り人との接触を減らせるなど、サービスがニーズにマッチしたことがポイントのひとつです。収束後を考えますと、外食需要は戻っていくことが確実だと思いますが、フードデリバリーにも一定の需要が継続すると考えています。また日本では高齢者の数が多くなっていき、移動が大きな負担になるケースも考えられます。フードデリバリーはこの需要も掘り起こすことが可能なビジネスであると見ています。

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