不動産トピックス

第20回不動産ソリューションフェア人気セミナー紙上再現

2018.12.17 11:13

賃料アップパネルディスカッション「誰もが実践できる賃料アップ攻略術~経営者座談会~」

聴講者のおよそ半数は値上げ交渉未実施 賃料上昇トレンドもオーナーの悩みが浮き彫りに
契約書の中中途解約条項 場面に応じ使い分けが必要
 賃貸ビルの賃料アップは、オーナーである限り永遠の課題であるといえる。特にオーナーが直接交渉に出る場合には「なぜ賃料を上げるのか」という論拠を、相手に対し分かりやすく明確に提示しなければならない。オーナーの実体験から、賃料アップにつながるアイディアを学んでいきたい。

峰岸 まず、現在の賃貸市場を考慮して賃料を上げて良いのかどうか、竹内さんのご意見をお伺いできますか。
竹内 賃料は不動産価格に比べ、変動に遅効性があります。先行している不動産価格はどうかというと、1990年に不動産のバブルは崩壊。以後下落するのですがJリートがけん引役となって再び価格は上昇し、リーマン・ショックの翌年にあたる2009年をピークに下落に転じました。現状で不動産価格は上昇傾向で、東名阪の中でも東京だけが上がっているというのが、宅地の大まかな流れとなっています。商業地では、東京に限っていえば局地的にバブル期よりも価格が上がっています。では、オフィス賃料はどうか。三幸エステートの「オフィスマーケットデータ28」によるとオフィス賃料には上昇期と下降期があり、賃料水準が高い時には販売価格も高くなっているという時期的なサイクルで動くというのを基本としています。また、不動産取引のグローバル化が進む中で、世界中で割安の不動産を買う流れがあります。JLL調べによると28年の1~3月までの期間では、東京が間もなくピークアウトしそうな状況と分析しており、もうすぐ最高潮というところです。このサイクルは速い都市もあれば遅い都市もあります。そうした市況感を加味した上で、自社の保有ビルの賃料をどう考えるべきかというと、直近の東京はビルの賃料がピークアウトを迎えてこれから下がっていくと認識すべきではないでしょうか。
高橋 聴講者の皆さんが自社で行っている賃貸借契約で、法人が相手の場合6カ月前の退去予告が不要であることを知っていますか。2年なら2年と、法人と賃貸借契約を締結したら契約した期間借りなければならず、契約書の書き方によってはテナントに借り続ける義務を負わせることができます。テナント側から6カ月前に退去予告をしたいと申し出ても、できないという契約をすることが可能なのです。 竹内 解説しますと、賃貸借契約書には途中解約の条項があります。しかしこの条項は特約事項でなくても良いのです。賃料が下降局面にある場合、現在入居しているテナントに留まってもらった方が高い賃料収入が期待でき、途中解約の条項は設けない方が良いでしょう。逆に現在のトレンドとしては賃料が上昇期なので、新規のテナントの方が賃料上昇に繋がる可能性もあります。杓子定規で契約書に途中解約の条項を入れるのではなく、使い分けていくことが重要であると思います。
峰岸 当社は東京・渋谷に賃貸ビルを2棟保有しています。この2棟はいずれも築年数が経過しており、以前の好況時と比べると賃料の下落は認めざるを得ない状況です。振り返ってみると、過去の下落要因はリーマン・ショックと東日本大震災です。リーマン・ショックで賃料がやや低下し、東日本大震災後に1棟のビルで9フロア中4フロアが退去。もう1棟のビルの9フロア中2フロアが入れ替わりました。この時期に両ビルともに一気に賃料が低下し、その後の賃料は横ばいとなっている。懸念しているのが、2棟のビルがどちらも築年数が経過していることから、修繕費等の増加が見込まれるということです。これからの予定として、向こう5年間だけでも1棟あたり2500万円程度は必要と見積もっています。
高橋 修繕費はどのように見積もったのですか。
峰岸 エレベーターなど修繕箇所の見積もりをとると同時に、過去の数字を参考にしています。いまは人件費も上昇しているので、従来の価格で行けるのかは不明です。そして痛手となるのは固定資産税で、今年から1割の増額となりました。これまで何度も東京都に不服審査を申し立てて、却下となっています。固定資産税による負担を賃料でカバーしたいと思っていますが、昨年あたりから風向きが変わったように感じます。保有ビルの1階テナントが10年ぶりに変わったのです。以前はクリーンング屋だったのですが、事業縮小により撤退。その代わりとなるテナントを募集したところ、電子たばこ店が募集賃料よりも大幅に高値で入居することになりました。
竹内 契約書には途中解約の条項は入れていますか。
峰岸 入れています。上場会社が運営する店舗で、契約書も厳しくチェックされました。渋谷ではテナントビルの賃料が上がってきています。ただ、テナントの入れ替えが進んでいません。リーマン・ショック時に底値で入ったテナントが、別のビルに移転先を探そうとしても今の賃料よりも大幅にアップした賃料でないと新しい入居先が見つからない状況だからです。今ビルを移転するテナントは「手狭になった」という成長中の企業で、それ以外は全く動きがありません。その原因が契約更新時に賃料増額したことがないことと、シャイであるがゆえに話法がないことだと思います。素人ながらビルオーナーとして、事前調査と近隣の賃料相場の調査を入念に行い、流れを掴むことが重要だと思いました。入居しているテナント別に、契約更新に関するストーリーを事前に描いておくことも必要です。残ってほしいテナントとそうではないテナント。その区分けによって、妥協すべきか否かの境界線がかわります。価格上昇の「ネタ」が必要です。最近でいうと、AED(自動体外式除細動器)の設置や空調・照明の取り換え、これらで還元することを条件に価格を上昇しています。現在の状況であれば、29年中には東日本大震災前の水準までに賃料を戻せるのではないかと考えています。
高橋 当社の所有ビルが建つ上野エリアはもう少し緩やかです。所有ビルは築4年で、私自身、賃料交渉は素人なので管理会社のPM担当者に「どうするか」と聞かれれば、曖昧な答えになってしまいます。賃料をアップさせようにも、「もしかしたらテナントから怒られてしまうのではないか」と思っている気持ちと、賃料を上げたいという2つの気持ちがあります。交渉は自分に自信がないとテナントから反論されればそれで終わってしまいます。まずは自分自身に「値上げをした方がいい」と言い聞かせるのが一番大事なのではないかと思います。私の場合、一番の不安が賃料のアップを提案するのがはばかられることでした。「いい人でいたい」という気持ちがあったのです。そこで、私は仲介会社に相談をしました。すると、大手の不動産会社は壁紙の張替えやタイルアップで賃料を値上げしているという話を耳にしました。
峰岸 賃料アップのためにどれくらいの工事費を要したのですか。
高橋 大まかにいえば60万円程度です。賃料を坪あたり1000円上げられれば、1年間で回収できる計算です。また、非常階段が雨漏りするということでしたので、こちらも工事をしました。ゼネコンに話を聞くと「20万円で工事が可能」と聞いていましたが、いざ工事になると「危ないから足場を組む」や、「垂れ幕をかける」といった予定外のこともあり結局140万ほどかかってしまいました。実際、入居テナントは坪あたり2000円の値上げに応じてくれ、2年弱で退去しました。
峰岸 今回の聴講者に対するアンケートを簡単にまとめますと、聴講者のオーナーのうち46・7%の方が賃料値上げ交渉を行っていないことが分かりました。これから交渉に臨まれるという方に対しては、所有ビルの周辺にある新規賃料の状況や継続賃料の状況を調べることをおすすめします。数年前の情報と大きく変わってきている可能性もあるだけに、これは定期的に調べた方が良いでしょう。都内は上昇してはいますがピークアウト寸前の状況で、大阪はまだ賃料を上げる余地があります。都内であればすぐにでも上げるべきです。ただ、複数年契約の場合そのタイミングを待っていると、値上げ交渉が来年や再来年になる方もいると思います。半年後に契約満了となるテナントであれば、賃料を上げられるチャンスなのではないでしょうか。オーナー自身が交渉をする場合は、心を強く持ち、理論武装やツールをもって、テナントと交渉していく必要があります。ただ、妥協も必要です。私も交渉していて、坪あたり1万円上げたいと思っても、妥協して5000円や3000円に留めるケースもある。強気に出るべきか否かの判断も含めて、賃料の値上げ交渉には工夫が必要なのです。

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