不動産トピックス

第19回不動産ソリューションフェアセミナー・パネルディスカッション再現

2017.11.06 17:00

第19回不動産ソリューションフェアセミナー・パネルディスカッション再現
テーマ:「立退料」を減らし、建替えを実現するための実践講座~不動産鑑定士が語る立退料の仕組みと減額ポイント~

意外と知らない、だからこそ立退料は交渉次第で大きく変わる
借家権価格+通常生ずる損失補填額 正確に算出し交渉材料に活用

 最近、建替えに関する相談が非常に増えています。特に、ビルオーナーが建替えを検討したいという相談が増えているのですが、その際にネックとなっているのが「テナントの退去問題」です。私はかつて不動産ファンドで立退きすることを前提に物件を取得して、テナントの立退きを行った上で売却するというビジネスを行っていました。立退料がどの程度になるかどうかが、投資リターンを測る上で大きなポイントとなります。私自身様々な文献をあたりましたが、立退料に関して記載されている書物はほとんどと言って良いほどなかったのです。その後、独立して立退料に関する講演活動などを行うようになり、立退料に関する書籍も発表する中で事例が蓄積されていきました。今回は立退料に関してビルオーナー向けに特化してお話ししたいと思います。実は立退料は、概念すら明確に整理されていません。貸主・借主はもちろん、弁護士や不動産鑑定士、裁判官といった関係者のレベルの差も非常に激しい状況です。一例として、港区のオフィスビルでの事例を紹介します。ビルは竣工当時から一社に一棟貸しをしており、オーナーはテナント側に立退きを求め、立退料として3億円をテナント側に提示しました。当初テナントは喜んで退去しようと考えたそうですが、その企業の顧問の会計士から「3億円という立退料は妥当か」という相談を受けました。そこで私が本件を精査したところ、本来立退料として10億円をテナント側が受け取ってもおかしくはない案件であることが分かりました。もしテナントが事務所移転を行った場合、4億円程度が移転費用として必要であると分かったため、当初の3億円で立退きを了承していれば、テナント側が赤字を被ることになっていたのです。「立退料」という単語は法律用語ではありません。類似する単語はあれど、「立退料」が明記されている法律も存在していません。立退料を大まかに定義すると、土地又は建物の使用ないし権利者に対してその土地又は建物の立退きを求めるにあたって支払われる金銭その他代替物、ということになります。また、立退きを求める際に正当事由を補完するものとして立退料が認知されているということは、異論の余地はないものと思われます。ここでいう正当事由とは、その建物に住みたい、あるいは商売をしたいという理由を指します。立退きの時点において借主はその建物を使用していますので、正当事由が存在していることが大前提と考えられます。一方、貸主は借主に比べて正当事由が少ない、又は全くないというのが多くのケースで当てはまるのではないでしょうか。現実的には貸主側の正当事由が完全であったとしても、早期解決のため又は事態を打開するための方策として立退料が活用されているのです。立退料をさらに細かく見ていくと、借家権価格と通常生ずる損失補償額に分解することができます。ただし、これをすべて立退料として支払わなければならないというわけではなりません。また、実際の立退料は類似するケースでも大きな振れ幅があることから、交渉や根拠となる資料の準備状況により、その成果が大きく変わるのです。借家権とは、借地借家法が適用される建物の賃借権のことで、言い換えれば、賃借人が建物を安定的に使用収益する権利といえます。借家権には一般に市場性がなく、賃貸人との関係において個別的な形をとって具体的に現れるものです。片や、通常生ずる損失補償とは、借家権でカバーされていないが、実際には立退きに伴い賃借人に通常生ずる損失を補償しようとするもので、個別の事情や不動産の種類によって変化しますが、移転費用や営業補償など考えうる項目を計上していきます。借家権価格の算出方法は「差額方式」、「賃料差額還元方式」、「控除方式」、「割合方式」の4つがあります。このうち、「差額方式」は「対象建物と同程度の代替建物等の賃借の際に必要とされる新規の実際支払賃料と、現在の実際支払賃料との差額(A)の一定期間(B)に相当する額に、賃料の前払的性格を有する一時金の額及び預り金的性格を有する一時金の利息相当額等を加えた額(C)」をもって、借家権価格を求める手法です。テナントが長く入居していると、継続賃料がその地域の相場からかい離するという現状はよくあります。この差額は、言い換えれば現在のテナントが享受している「借り得部分」となります。借り得部分が大きければ多いほど、借家権価格は高くなります。目安としては、土地は「土地価格×借地権割合×30%」、建物は「価格×30%」が借家権価格とされることが多く、物件タイプでは店舗、特に飲食業は代替物件の確保の難度や営業補償などの理由から立退料が高い傾向にあります。立退料の軽減には計画的に交渉に臨むことが何より重要で、交渉の順番や交渉の焦点となっている問題を見極め、あらかじめ予定したスケジュールに沿って地道に進めていくことで、建替えへの道筋が見えてくるのです。

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