不動産トピックス

第19回不動産ソリューションフェアセミナー・パネルディスカッション再現

2017.10.30 10:52

テーマ:明日から考える次世代型中小ビル建替え実例100選

オーナー自身が建替え後の確固たるビジョン・戦略を持つべし
 不動産の経営理論から後継者育成まで、不動産に関わるあらゆる領域をカバーする組織・不動産オーナー経営学院。代表理事を務める横山氏を筆頭に集った今回の登壇者からは、個別の事情に応じた不動産の有効活用や建替え事例が紹介された。保有する不動産の行く末に悩みを抱えるオーナーは多いはず。パネルディスカッションで紹介された事例を参考に、将来のビジョンを描いて頂きたい。

横山 早いもので、私が「週刊ビル経営」に取材等でお世話になり始めてから9年が経とうとしています。当時はファンドバブルやリーマンショックが業界動向に大きな影響を及ぼし、私自身は8年前から自社で保有するビルの建替えに取り組んできました。そして現在、多くの不動産事業者の方が「業界が活況である」と認識しているのではないでしょうか。私のもとにも不動産の購入を勧める声が舞い込んで来ますし、不動産の購入に関してのアドバイスを求められる場面も増えてきました。「この不動産は儲かりますか?」という質問を受けることもあるのですが、仲介業者や建替えの工事業者は仕事にするため「儲かります」と断言するはずです。しかしオーナーの目線で考えた場合に、5年先・10年先のその不動産が収益を生み出してくれるのかどうか、私が代表理事を務めている不動産オーナー経営学院ではこうしたテーマを突き詰めて考えています。10年後や20年後も同じ利回りで利益を上げることはできません。時間の経過と共にビルは賃料が下落して空室問題が発生し、加えて外部環境の変化によって業界全体が今後どの方向へ向かうのか予測することは容易ではありません。ただそうした状況でも「儲けていく」ことがオーナーとして重要ではないかと考えています。私はビルオーナーとしては3代目にあたります。元々の家業は旅館業で、高度経済成長に伴ってビルを建て、経営を行ってきました。その間には相続問題も起き、私が3代目として社長になった時には築40年のビルが1棟残っているのみでした。建替えのきっかけとなったのは旧ビルの1階、2階に入居していたテナントが退去したことで、その後8年をかけて他のテナントの移転交渉や地権者交渉などを行ってようやく建替えにこぎつけることができました。建替えを通じて感じたことは、ビルを長期的な視点でどのように運営していくかのビジョンが必要であるということです。仲介会社が紹介してきたテナントがビルにとって将来的にプラスの存在になるとは限らず、オーナー自身が将来のビジョンをしっかりと設計してそのビジョンに見合ったテナント構成を検討しなければならないのです。そうして得られた知識や経験をビジネスモデルとして体系化することで、自分で描いたビジョンと戦略を外向きに伝えることができるようになると思います。私の実例をもとにしたビジョンや戦略は、「週刊ビル経営」にて連載コラムとして紹介させて頂いています。不動産オーナー経営学院で学んでいる方々は約4割が不動産オーナー、約6割が不動産のプロで構成されています。オーナーだけではなくプロの目線も交えながら、次の時代のスタンダードとなる経営手法を探っていくことを主な活動としています。
杉山 私からは横浜・関内に建つ築44年のビルの建替えプランについて、具体的にお話しさせて頂きたいと思います。私は大学卒業後、機械商社やベンチャー企業といった不動産とは縁のない業界に身を置いてきました。不動産に携わるようになったのは24年からです。祖父が関内に所有していたビルを相続することになり、遺産分割協議を行う中でビル管理に携わるようになったのが始まりです。その後、父がビルを相続した後に法人化し、空室の解消やコスト削減に従事してきました。26年に横山さんと出会う機会があり、不動産オーナー経営学院に1年半程通わせて頂いています。「杉山ビル」は「関内」駅徒歩3分という駅近の物件ではありますが、築44年ということもあり老朽化が目立つようになっていました。1階には飲食店舗、その他には事務所やエステサロン、キックボクシングジムなどが入居し、坪単価は1階で1万5000円程度、事務所は6000円程度、その他の空中階のテナントは8000円から9000円といったところです。関内では横浜市庁舎の移転に伴って、一時的にオフィス空室率が増加するのではないかと予測されています。また、教育文化センター跡地の活用も地元では話題となっており、この2つが2020年以降の街の様子を変化させるファクターになるのではないかと考えています。「杉山ビル」の建替えに際して考えたビジョンは「訪れた方がワクワクする空間を提供し、地域の発展に貢献する」というものです。現状、「杉山ビル」は様々な属性のテナントが入居していることから賃料を上げることが困難な状況にあります。そのため多額の修繕費用も投資できず老朽化の進行が今も続いています。一方で将来図は投資対効果の良い「最有効使用」の考え方を用いたビルとすることで、高い賃料の獲得を目指していきたいと考えていきます。賃料収入が上がれば修繕計画も立てやすく、コンスタントな修繕を実施することでビルの鮮度を保ち、正のスパイラルが描けるのではないかと考えています。現在と未来の間にある課題として挙げられるのは、やはり建替えです。現時点では貸室が埋まっている状態ですので、5年後や10年後を目標にタイミングを見ながら建替えを実行していく考えです。私は「中小ビルの存在意義は何だろうか」と考えた際、地域貢献など様々な側面がある一方で、ずばり「収益の最大化」に収れんされると考えました。大手企業であればCSRなど収益に左右されないブランディング戦略もあると思いますが、中小ビルにおいては「収益の最大化」を目指すことがビルのブランディング戦略にも作用し、ひいては地域貢献にも寄与するのではないでしょうか。この考え方を「杉山ビル」の建替えに当てはめて具体的にお話ししますと、建替え後の物件には、より高い賃料が見込める大手企業に1棟貸しすることが「最有効使用」に合致する方策なのではないかと考えています。業種については宿泊、コワーキングなどのオフィス、カラオケなどのアミューズメント、この3分野が先にお話しした「ワクワクする空間」というビジョンにも合致するということで着目しています。関内は横浜ベイスターズのホームスタジアムのある街です。そこで私は、アミューズメントの観点から野球ファンに来て頂いてオフシーズンでも楽しめる施設づくり・テナント構成を一案として検討しています。
金谷 私の実家は明治30年から兵庫県神戸市で工務店を経営し、今年で創立120年を迎え、私の代で5代目となります。また、資産管理の一環で不動産運用を行っており、神戸では土地・ビル・マンション運営を手掛けています。一方で家族間では資産に関わる話をこれまであまりしてこなかったことから、私自身も家の資産の状況を昨年までほぼ知らないという状況でした。今回同じ壇上に上がっております杉山さんと昨年結婚したことで、不動産に関して私も知る機会が徐々に増えていきました。両親は健康でこれからも長く元気でいてほしいと願っていますが、もし両親に万が一のことが起きた場合、残された私たちはどうすれば良いのか、結婚を機に深く考えるようになりました。私はこれまでアナウンサー業に携わってきましたので、お金に関わる仕事に携わっていませんでした。危機感を覚えた私は昨年から不動産オーナー経営学院に在籍し、初歩的な部分から不動産を学ぶようになったのです。今回紹介するのは神戸市に保有する「金谷ビル」のリフォームを通じた活用についてです。ビルの空室を活用できないか検討し、リフォームを行った上で「ママ力アップビル」として地域と密着しながらママ力を上げるというプランを考えました。まず行ったのは地域分析です。私自身は近隣に老人ホームや介護施設が多いというイメージがあったものですから、はじめは介護施設として活用するのが良いのではないかと考えました。しかし、国勢調査を調べてみると20代から30代の女性の居住人口が非常に多いことが分かりました。ビルが建つ兵庫区の上沢エリアは阪神・淡路大震災で甚大な被害を受けたエリアの一つです。震災後、上沢エリアに移住する方が増えた一方で、地域のコミュニティが希薄な状況であることも分かりました。そこで、20代・30代の若い女性をターゲットにしたビルの活用を検討するようになりました。また、コミュニティの形成を促すリフォームの実施が、地域にとって受け入れられるのではないかと考えたのです。「ママ力アップビル」は、「食の提供」・「学びの場」・「地域コミュニティの形成」という「三本の矢」を目指しています。これにより、大地震でも崩れることのない強固な絆を作りたいと考えています。ビルの1階部分では地域の方々が気軽に入れるよう、ケータリングカフェを設置したいと思います。そして1階の奥側にはガレージマルシェを配置します。近隣にスーパーマーケットはあるのですが、有機野菜など流通しにくい商品を取り扱って既存の店舗と競合しないよう差別化を図る考えです。出店料金は1区画3万円を予定しています。2階には調理可能なスペースを設け、1階で購入した食材を2階で調理して持ち帰ることのできる空間とします。2階はイベントスペースも設ける予定で、このイベントスペースでは化粧品などお母さんたちが知りたい話題の広報宣伝を行う場として活用したり、地元の新聞社や雑誌社などと連携したイベント企画なども行っていきたいと考えています。また、3階ではヨガ教室でお母さんに適度な運動とリフレッシュを提供し、子どもたちには託児所から学習塾へと幅広い年齢層に対応する教育スペースとして活用していきます。
源 私自身はビルオーナーではないのですが、両親が実家のある北海道函館市でビル経営を行っており、将来的にはそのビルを相続する予定であることから、オーナーとしてのビジョンを学ぶために不動産オーナー経営学院に在籍しています。当社はリフォームやリノベーション、シェアハウスや民泊施設の企画・開発など、快適な住環境の整備に向けたサービスを提供しています。当社では住居系の物件を扱う機会が多いのですが、最近ではビルオーナーから「空中階の貸室を民泊やシェアハウスとして活用できないか」といった声を頂く機会が増えてきました。オフィス市場が活況で、これまでリーシングをお願いしていた地元の業者に依頼してもなかなかテナントの成約に至らない一方で、新聞など各メディアで話題となっている民泊・シェアハウスに興味を持たれたオーナーが増えているのだと感じます。今日はビルオーナーの方々にとっての一つのアイディアになれればと思い、参加させて頂きました。私は学生時代に宅建免許を取得し、当時から親が保有しているアパートの空室解消に向け様々な活動を行っていました。その活動を通じて感じたことは、建物はハードだけではなくソフト面も充実させることが重要で、そのソフト面の企画を行って誰にアプローチをすれば良いか、ターゲットの絞り込みまでしっかり行う必要があるということです。具体的な事例を紹介しますと、地上3階建てで2階、3階をオーナーの住まいとして使用している物件の1階部分について、旅館業許可を取得して民泊物件として運営しています。この物件はひと月あたりの売上として70万円以上を記録しています。経費などを差し引くと、オーナーには月40万円程度が収入として残ることになります。家具・家電の購入や室内の造作を含めた建築費用として1200万円程度をかけ、回収スケジュールは36カ月を想定したビジネスモデルとなっています。この物件は地下鉄「千駄木」駅の付近に立地しており、一般的な住居として賃貸した場合の想定される賃料は月15万円から17万円であることから、民泊物件として運用した方がオーナーの収益に貢献することが分かります。次に紹介するのが浅草エリアに所在する地上5階建ての物件の事例です。築年数は40年以上で全館空室となっていたことから、2階、3階で旅館業許可を取得しての民泊を企画しました。ただ、検査済証が存在せず用途変更ができないことから、2フロアのみ宿泊施設を作り、他のフロアはテナント企業に賃貸して「再有効活用」を目指すというプランとなっています。この事例で要した改修工事は約1000万円で、回収期間は25カ月を想定しています。最後に紹介するのが「大森」駅徒歩圏内のペット共生型シェアハウスです。1階のオーナー住居をペット共生型のシェアハウスとし、空中階はペット可の住居として運用しています。屋上は元々、オーナーのご趣味で庭園があったのですが、ペットと一緒に遊べるスペースとしてドッグランを設け付加価値として物件の価値を高める要素として機能しています。
横山 不動産オーナー経営学院は、単に不動産オーナーが不動産経営を学ぶ場として存在するのではなく、不動産の経験や知識を積み重ねてきたプロと一緒に将来を考える場でもあると思います。「儲ける」という結果は副次的効果として付いてくるものと思いますが、本質的な課題として保有する不動産を将来どうしていくかを共に真剣に考えてくれるネットワークづくりが求められているのではないでしょうか。

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