不動産トピックス

ホテル運営会社次の一手を探る

2017.09.04 15:19

 「トランジット」をキーワードに、新しい宿泊方法を提案しているナインアワーズ(東京都港区)の出店が加速している。2009年に京都で第一号を開業して以来、成田空港・仙台に続き、今年に入って北新宿・神田に相次いでオープン、2018年春以降、浅草・竹橋・蒲田・赤坂に出店し、2020年までに都内を中心に全50の店舗展開を計画しているという。電子認証キーの導入や睡眠とシャワーの機能高度化を進め、「カプセルホテルとは全く異なるトランジットサービス」(同社)としての経営の仕組みを構築、宿泊・仮眠・シャワーなど、様々な用途でいつでも使えるモデルを目指していきたいという。

ナインアワーズ ”新カプセルホテル”2020年までに50店舗 新築を中心に東京・大阪で集中展開
初の女性専用施設開業JR東日本Gと共同で
 去る7月27日にオープンした「ナインアワーズウーマン神田」は、ナインアワーズ初の女性専用施設だ。同物件はJR「神田」駅より徒歩約2分に位置、敷地面積103・36㎡、延床面積498・01㎡。客室数は70室。所有はJR東日本都市開発。
 エントランス入り口には女性のピクトグラムを大きく配置することで、女性専用を大きくアピールしている。専用のアプリのダウンロードにより、予約時に届くQRコードを使用してスマートフォンでセルフチェックインやロッカーの開閉が可能だ。
 スリーピングポッドは、FRP(繊維強化プラスチック)ならではの柔らかなフォルムによって工業的な雰囲気を払拭、「安心して眠れる空間を提供しています」(同社)。マットレスは独特の寝心地を追求し、特性が異なる複数の樹脂を積層したオリジナル商品、館内着は外国人利用者も想定して3Lの前幅広いサイズを用意。シャンプー・コンディショナー・ボディソープは「TAMANOHADA」ブランドを採用した。価格は宿泊で4900円から、仮眠は1000円から、シャワーは800円。
 近年では、ビジネスホテルやカプセルホテルの女性利用も増加傾向にあり、都内屈指の交通要衝である神田エリアでも女性の宿泊やデイユースの利用者が見込まれることから、同所での開業になったもの。
 「ナインアワーズウーマン神田」開業に先立つ3月には、ビーロット(東京都港区)を事業主として、都内1号店となる「ナインアワーズ北新宿店」を開業。
 同店はJR「新大久保」駅から徒歩2分の場所に位置し、敷地面積約350㎡、延床面積は全部で約1765㎡、新築案件で初期投資額は約8億円。1階2階部分にテナントが入り、3階から8階が施設になる。男性用102・女性用104の合計206室のスリーピングポッドを備え、24時間利用が可能。
 落ち着いて仕事や勉強に集中できるデスクを備えた「ラウンジ空間」を提供しているのが特徴。フリーWi-Fi環境でプリンターや文房具の貸出も可能と利便性を向上させている。新宿を一望できるラウンジは、予約制ブース5席、コンセント利用可能なカウンター12席、オープンデスク24席を確保している。
 「多様な目的を持つ人々が24時間行き交う世界最大規模の歓楽街である新宿は、ナインアワーズが提案する高機能なトランジットサービスがジャストフィットすると考え、都内1号店として『北新宿』に出店することにいたしました」(同社)という。金額は宿泊が3900円から、仮眠は1000円から。
2009年から始動 京都は外国人に人気
 「ナインアワーズ」は、都心での「機能的」「高品質」なトランジットサービスという独自のカテゴリーを目指し、「部屋」という空間概念を捨て、無駄な装飾を徹底的に排除している。一方、「ナインアワーズ(9h)」の由来となっている1h(汗を洗い流す)+7h(眠る)+1h(身支度する)の3機能に特化している。この最もシンプルな宿泊の概念を基に、ハードからソフトの全てを一貫したデザインを施した。
 ハード面でいえば、カプセルの大きさは従来とそれほど変わらないが、「スリーピングハブ」というコンセプトの元に快適な睡眠ができるような工夫を凝らしている。例えば、LED照明を利用して起床時間に合わせて徐々にライトが点灯し、目覚めを良くする工夫を施した。またシャンプーやボディソープなどは、メーカーとの共同開発によるアメニティを取り揃えるなどオリジナル性を追求している。
 第1号店は、2009年12月に京都で開業した。同施設は土地柄、外国人はじめ観光客が多く、日本に出張してきたエグゼクティブが1日休みを取って宿泊し、京都観光するケースもあるという。開業当初から英語によるHPや、ルイ・ヴィトン製作の観光ガイドで紹介されるなど、海外の雑誌に掲載されて大きな話題となった。
 同施設は、建物の建て替えによるもので、同社が約20%の建設協力金を負担したうえ、20年間の定借を用いて運営している。
 次いで開業した「成田空港」はオフィスのコンバージョン案件で延べ床面積783㎡、客室数129室、初期投資額は約2億5000万円。「仙台」もコンバージョンで140室、いずれも85%以上の稼働を維持している。
 ナインアワーズは2013年8月に法人設立。主要な駅や空港、あるいは街の中心部から3分以内の場所にあり、周辺にある宿泊施設の中で365日最安値を維持する。ゲストの年齢層は10~80歳、ゲストの国籍は60カ国以上、開業以来の通算ゲスト数は70万人以上だという。来館者の90%は予約動線からきており、従来のカプセルホテルとは異なる顧客を集客している。
 代表取締役でありファウンダーでもある油井啓祐社長は、もともと野村證券グループのベンチャーキャピタルに在籍していたが、実家が秋葉原で経営していたカプセルホテルを引き継いたところから事業をスタートさせた。油井社長が引き継いだ当初は、経営も厳しいもので、いかにして再生させたらいいかということを常に考えていたという。そこで考えたのが「トランジット」をコンセプトとした運営方法だった。
 ビジネスでホテルに宿泊する場合、滞在時間は約9時間から10時間といわれている。油井社長はホテルの滞在はよりシンプルにすごす時間であって欲しいと考えた。一方、カプセルホテルと言うと終電を逃したビジネスマンが利用するというイメージが強かった。これを「ホテルは街を楽しむための道具として活用してもらうもの」と考えた。これが現在の「ナインアワーズ」の基本コンセプトに繋がっている。
 建物は原則として新築、土地の間口は6㎡以上、敷地面積100㎡以上、延床面積は660㎡から1900㎡程度。10年以上の運営受託が基本だ。
 同社では今後、全50の店舗展開を計画しているという。
 「東京と大阪に集中出店していきたいと考えています。また既存のカプセルホテルのリブランドを都内で2か所手掛けていきます。これは『ナインアワーズ』とは別のブランドで展開していきます」(油井社長)。

昭和リースを協業しファイナンス支援
 同社はこのほど、昭和リース(東京都文京区)と業務提携を締結した。今後はナインアワーズの運営する宿泊施設の新規出店に対するファイナンス支援を行っていく。
 ナインアワーズが出店する施設向けに設立する合同会社に対して、昭和リースは匿名組合出資によるファイナンス支援を行うもの。同スキームでは、合同会社の投資対象は不動産を含めた施設だが、不動産については所有権のほか、借地権も対象になっているのが特徴だ。
 このため安定的な資金の確保のほか、幅広い資産の事業化が可能になり、ナインアワーズとしても出店の加速できることになる。
 また、ナインアワーズではこのスキームを利用して、当面10件程度、総投資金額100億円程度の出店を目標人している。アセットマネジメント業務は不動産仲介大手三幸エステートの100子会社である三幸オフィスマネジメント(東京都中央区)が担う予定。
 昭和リースは2016年度からスタートした3か年の中期経営計画で「新分野・成長産業ビジネス」を成長戦略の一つとしており、その一環として増加するインバウンド需要、ニュービジネス育成にも積極的に取り組んでいる。

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