不動産トピックス

不動産ソリューションフェア人気セミナー紙上再現

2015.12.14 14:11

外国人投資家が語る日本市場の魅力そして地方に希望はあるのか

 大盛況となった外国人投資家パネルディスカッション。そこで話された内容は、決して日本の不動産に都合の良いことばかりではなく、今後我々が直面していかなければならない課題についても話し合われた。そしてその内容は日本不動産を真剣に考えていれば琴線に触れる内容であった。2ページにわたり完全再現。

テーマ・さまざまな戦略で日本不動産に投資する外資

日本不動産をどのように見ているか

インバウンドとヘルスケアに期待感
オーエン 今回のパネラーの4人で日本の投資経験は100年を超えております。私のほうから紹介いたしますと、シュミット氏は非常に勢いのある投資家だと思います。ハーシュフェルド・ジュニア氏は日本側も含めて一番最初にヘルスケアへの投資を始めた者だと思います。サルキン氏は一番最初に外資で不動産開発を手掛けた会社のひとつであり、現在話題のホテルでも様々行っております。ウルマ氏はセキュアード・キャピタルの最初の日本の代表でヨーロッパの資金を日本に持ってくる人です。では最初の質問は何故日本に投資をしているのか、ここから始めていきたいと思います。
ウルマ 今、私が抱えている一番大きな投資家はドイツの投資家です。ドイツの非常に大きな、預かり残高が4兆円くらいあるようなファンドの日本での運用を任せられています。彼らが何故日本を投資対象に選んだのかと言いますと、まず彼らは法律が厳格であること、マーケットへの認識、市場の透明性などを重要視します。世界23カ国で運用しておりますが、日本には約13年前に来ました。リーマンショックで非常に大きな痛手を受けたのですが、長期資産ということで保有し続けました。賃料も3万円あったものが2万円まで落ちて、今再び3万円まで戻ってきているところまで持ち続けられる、非常にユニークな投資家です。彼らからすると、ヨーロッパが今、先行き不透明という見方があると思います。ドイツも移民の問題など様々な課題を抱えています。そうすると彼らの運用先はドル、あるいはアジアとなります。そしてアジアのなかでも彼らが念頭に置くのはオーストラリアや日本といったパシフィックアジアになります。また4兆円という規模になると、東京の不動産市況の大きさがどれくらいあるのかということを気にします。東京の不動産市況の規模が非常に大きいというのが彼らが日本に投資する大きな理由になっているのではないかと思います。
シュミット 東京のオフィス市場はおそらくニューヨークの倍。ニューヨークはロンドンの倍なので、これだけ大きい市場で機関投資家の我々が投資を行っている点は無視できないものだと思います。これが第一の理由です。もうひとつは日本における資金力です。銀行の借り入れコストが世界で比べると一番安いのです。非常に低い金利で借り入れを行い、その借り入れをテコにする、我々は「レバレッジ」と呼びますが、テコをかけて不動産を買います。そうすると利回りが倍以上になる可能性があります。そのような大きい、安定した市場のなかで日本の資金力、流動性は高いと思います。3つめは2~3年後の中長期的なことになりますが、日本の年金の資金は世界で群を抜いていると思います。簡保、郵貯だけでも200兆円、GPIFが130兆円、PFAが100兆円以上、そして104行の地銀を合わせると100兆円以上、この資金が眠っている状況に今はいます。これが徐々に運用されていくことは間違いないことだと思います。大きくはその3つの理由です。
ハーシュフェルド・ジュニア 我々は平成13年から日本のヘルスケア施設に対する投資を開始しました。なぜ日本のシニアが良いかと申しますと、グローバルにみても人口に占める65歳以上の割合が世界一となっております。そのなかで団塊の世代より上の方が対象とはなりますが、これらの方々が戦後から貯蓄を含めた資金があるので、不動産的に言えば賃料を確実に払う能力があると言えます。また日本のヘルスケア制度は国際的にみても非常に良いと言えます。平成12年から介護保険の制度ができたのですが、それ以前は病院を代表としたヘルスケア施設などは我々民間の投資家が立ち入れないものでした。介護保険制度開始以降は民間の会社が運営をできるようになり、上場企業を含めて多くの事業者が参入してきております。まだまだ未熟な市場ではありますが、これからそれなりの広がりもあるかと思います。
サルキン 当社は20年以上商業施設を中心に開発を行ってきました。しかし一昨年くらいから、高齢化・少子化の問題を目の当たりにしてきまして、これからは商業施設に対するニーズは無くなるだろう、という判断を下しました。その代わりに、現在一番注目を集めているインバウンドの傾向は逆でございまして、今年は2000万人近く海外から訪日客が来る見込みで、東京・大阪・京都のホテルも稼働率が90%以上となっており、ホテルが不足している状況にあります。去年からホテル開発に参入して、大都市を中心に積極的に新規開発およびコンバージョン、もしくは既存のホテルを購入して大規模な改装を行うなどの事業を中心に行っております。
オーエン 個人としてどこだったら投資したくないですか。
サルキン 量販店、特に地方や、郊外型の地方量販店が絶対に立ち行かなくなると予想しておりますので、投資いたしません。 ハーシュフェルド・ジュニア 私どもの場合は、介護施設のオペレーターの質と情報を開示していただけるかが非常に重要だと考えております。
ウルマ 私たちの資金は長期的なものなので、長く投資できるという点で考えます。その考えでいきますと、個人的な意見ですが、今非常に話題になっているロジスティックスですが、それの賃料が向こう20年間で上昇するかというと私は懐疑的です。なぜなら、宅急便屋は倍の業務量になったら倍のスペースではなく、効率性を向上させることで解決していく考えが日本企業にはあります。なので長期的というところではロジスティックスは怖いです。ホテルは長期的にも優良だと思います。
オーエン 皆さん、ホテルは全て優良と判断されてるのでしょうか。
セス・サルキン 既存のホテルは価格次第です。新規開発の場合は、ビジネスホテルは差別化しにくいので、競争の激しい地域には開発したくありません。競争の激しいところには差別化できるホテルを開発するべきだと思います。
オーエン フレッド・シュミット氏が「価格次第」と発言されましたが、東京・名古屋・大阪・福岡・札幌のなかで低価格でも買いたくない街はありますか。
シュミット 買いたくないというよりは、我々は東京中心で人数も少ないので、東京以外で買っても管理がうまくできません。だから東京以外には興味ありません。買うとしても大阪です。ただ繰り返しになりますが、買いたくないのではなくてうまく管理ができないからです。
オーエン それは委託する業者も今の世界の機関投資家のスタンダードでレポーティングができないから、などですか。
シュミット いや、私が行きたくないから、それだけです。
ウルマ そういう意味では名古屋は今後、観光客が伸びるかというと非常に可能性が少ないのではないでしょうか。 サルキン 一番大きなポイントは慣れていないということですね。以前に比べたらだいぶ良くはなりました。ホテルに限って言いますと、外資系ホテル会社が運営しているものと国内ホテル会社が運営しているものとではサービスが大きく違います。
オーエン 日本に投資するとき、これから人口の下落が来ますが、それは全く皆さんの懸念材料にはならないのではないでしょうか。
サルキン いや、それは大きな問題です。だから私どもの会社は商業をやめたのです。首都圏はまだ人口が増加しておりますが、地方は既に減少しております。そういう意味で地方の活性化は非常に大きな課題です。そしてその課題に対応できるのがインバウンドしかないのです。要するに、インバウンドの行かないところは絶望的でして、地方商業は怖くて手出しできません。
ウルマ ちょっと考え方は違うのかもしれないですが、人口が減るからGDPも下がるという考え方もあると思いますが、私たちは親世代が日常生活に使っていた資金の5倍使っていると思います。そういう意味で、人口が減っても消費額が伸びる可能性はあると思います。ただ人口が減少するとき一番怖いのは、国民健康保険、国民年金のところではないでしょうか。受け取る人が増えて、払う人が少なくなっているのですから。
01ハーシュフェルド・ジュニア 今、東京をメーンに開発を進めておりますが、労働人口が減るということは、今でも工事現場で働ける人が少ないのにさらに減るということになります。今の建築費の問題もあるとは思いますが、高齢者住宅ですと本来であればより多くの建物をつくることができます。しかし、人件費の問題がそれを妨げてしまっておりますので、私はここに人口減少のネックを見ております。
オーエン 日本の不動産投資の環境は非常にホットですが、次のダウンはどこで来ると思いますか。またその要因は何だと思いますか。
セス・サルキン 消費税は大きな問題です。去年、5%から8%に引き上げて内需が冷え込んでしまったわけですが、これを10%に上げればまた同じ問題が繰り返されることとなります。
ハーシュフェルド・ジュニア 潜在的なリスクとしては日本国債だと思います。GDPに対して200%となっていると、これがどこまで続くのかと思います。今までは消化が国内でできてきましたけれども、高齢化が進み貯蓄をしなくなると、金利が上がるのではと思います。それがどの時点になるかはわかりませんが、潜在的なリスクになると思います。なので規制改革が重要になってきます。
オーエン 日本人と不動産の話をすると、いつも人口減少や地震、次のダウンの時期はいつかなどを聞かれます。今、皆さんが言われたなかで個人的な意見を入れると、安倍首相が失言をすると中国人が来なくなる、中国人が来なくなると炊飯器が売れなくなる、炊飯器が売れなくなると…、と失言をすることの出来ない国になってしまった。拡大を考える中国にどう対応していくか。また、アメリカの大統領候補のなかにまともな候補がいないなかで、日本は本当にアメリカと組むべきなのか、そこのパートナー選びも考えなければならなくなったが最早運命共同体のような関係にまで来てしまったのか、と。そのなかで日本の不動産は安全・安心で、東京は夜中一人で歩くことも可能です。日本のマーケットは東京がメーンで、人口が増えるなどのアドバンテージがある。それ以外にありますか。
シュミット 東京は日本のアート、エンターテイメント、政府、機関、金融、全ての中心です。これは何百年もかけてできるものです。米国のニューヨーク、フランスのパリなどと同じだと思います。
オーエン 僕はニューヨークいらないと思います。ロサンゼルス、西海岸ですからね。
シュミット あとトランプが大統領になったらアメリカを捨てる人はいっぱいいると思います。
ウルマ 日本、東京の強みは全て品質が高く、料理がおいしい、しかしまだデフレを脱却していないことです。経営者からすれば、給料をあげたら下げることができないと考える。給料はいくらでもあげる、でも経常利益が下がったら今の半分、と考えるのがアメリカの発想です。それくらい乱暴なアメリカと、社会的に非常に保守的な日本が一緒にやっていくなかで混乱も出てきます。
サルキン すごく単純ですが、日本の地方都市には観光以外、成長要因は全くないと思います。5年前まで大阪のオフィス市況は非常に悪かったのですが、これはどの地方都市でも同様です。残念ながら日本の場合は全てが東京に集中していますので、繰り返しになりますけれども、インバウンド以外、地方の成長要因は何もありません。
ハーシュフェルド・ジュニア 少し違った意見を持っておりまして、確かに不動産に関して東京以外は慎重にならなければなりません。しかしヘルスケアに関して高齢化は1つのチャンスだと思っております。これはグローバルな問題です。たとえばアルツハイマーの解決にはまだまだ遠い道のりがありまして、そのための住宅などの整備が必要とされております。たまたまですが、日本はこれに直面しているわけです。日本は非常に素晴らしい医療技術などを持っておりますので、それを世界に輸出していくことができるのではないかと思います。なので、何もチャンスがないわけではないと思います。
オーエン 私の考えを言えば、地方は将来明るいと思っています。ただ、そのためにはブレーンが必要です。東京集中は直すべきだし、少しの勇気で直せます。シリコンバレーなども素晴らしいですが、全てはマサチューセッツ工科大学(MIT)から始まったのです。ただ残念ながらこれからの投資は東京に集中せざるをえない、と言うのも東京以外に投資するものがない。たとえば、福岡は良い街で成長性もあると思うのですが、今買えるものがあると思いますか。
ウルマ それはオーナーが売らないから買えないのです。銀行が返せと言わない、賃料も上がっている状況だから、売らない状況が続いている。先ほどの地方の話をすれば、日本の野菜は間違いなく世界一おいしい。そうであれば、過疎化している農家にワーキングホリデービザのようなものを作って諸外国の農業をしたい人に来させる、そしてグリーンハウスをつくる。グリーンハウスリートを始めれば凄いことになるのではないでしょうか。今は日本人はインバウンドに頼る、でもこの数が3000万人になったとき日本を踏み荒らされるか。その裏のリスクに直面するときが来る。東京一極集中になっているけれども、もう少し場所があってもいいのではないでしょうか。
オーエン 皆さん、では最後に日本の不動産マーケットについてのコメントで締めたいと思います。
シュミット 東京は特にオフィス供給が多すぎる。それを慎重に、日本の大手デベロッパーは考えないといけない。つくりすぎるとテナントが集まらない。テナントが集まらないと収益が下がり、株価が下がる。そこが一番心配です。
ハーシュフェルド・ジュニア 25年前にバブルが弾けて、それを日本の投資家が覚えていて日本の不動産がなかなか投資しなかった。しかし、最近その状況は変わってきて、リートが始まって不動産を土地で見るのではなく利回りで見るようになりました。それでだいぶマーケットもわかりやすくなりました。人口が減るなかでどこにフォーカスを当てるかを戦略的に考えていければまだチャンスはあると思います。
サルキン 私の将来の見方は非常にネガティブだと周りから言われております。しかし観光関連産業は、10年~20年のスパンで非常に成長するのではないかと期待しております。
ウルマ 東京に限ったことではないと思いますが、日本人の応用能力はすごいと思います。昔と比べて、様々なところで規制が緩和され、それに伴って付加価値がついてきました。そのような日本であれば、まだまだ成長できる見込みがあるのではと思います。 オーエン 私が皆さんに期待するのは日本の応用能力の高さ、そして外国発のアイディアをむやみに信奉するのは非常に危ないということに気づかれることです。日本の文化から発するものの素晴らしさに気付くべきだということです。日本から発する新しい経営リーダーが生まれることを私は期待していきたいと思います。

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