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大型ビルから中小ビルまで収益が見込めるデジタルサイネージの利用法

2018.08.06 16:32

 どんなビルにもメディア化されているスペースがある。角や突き当り、エレベーターの待合のエントランス…。いずれも10秒~30秒の滞留が見込まれ、複数の人がアクション街の状態にある場所。一般的にこうした場所で、メディアは価値を生むとしていわれている。そこには、行燈看板やポスター、ボードなどが置かれていることが多い。ここ7~8年はそれらの媒体に加え、「デジタルサイネージ」が登場した。「デジタルサイネージ」とは表示と通信にデジタル技術を活用し、映像や文字を任意に表示する広告媒体。平面ディスプレイやプロジェクターなどがこれに該当する。
 この「デジタルサイネージ」に、大きな可能性を見出しているのがデジタルサイネージ総合研究所(東京都渋谷区)の渡辺剛仁所長だ。
 「デジタルサイネージというメディアは、ビル経営にも非常に大きなメリットがあります。例えばデジタルサイネージをビルオーナーが持ち、テナントはその時間枠をもらうといった使い方をしているところがあります。ビルオーナー側の運営会社が鍵を持ち、サイネージの全体の管理を行います」
 仮にエレベーター前に、一つのデジタルサイネージがあるとする。テナントにもデジタルサイネージの鍵を供与し、一日の9時から11時半までは1階の店舗、11時半から14時までは地下の飲食店、14時から16時半は2階オフィスが活用する。こうしてデジタルサイネージの利用時間を分割し、テナントは各々自由に利用するという方法があるという。さらに地下の飲食店の系列が20店舗あるとすれば、その20店舗にも合い鍵を渡すということも可能。このようにビルを差別化するためにデジタルサイネージという媒体を導入し、テナントに提供して利用料をいただくというビジネスもあるようだ。
 「SNSがこれだけ注目されるように、情報を投稿する時代になりました。テナントは、デジタルサイネージをSNSのような使い方をし、ビルオーナーおよび運営会社はビル全体の情報や地域の避難場所や緊急連絡先などを放映します。そして、緊急時はビル側が安全情報の放映のために使う、というルールの中で運用できます」(渡辺氏)
 時間で分割し、オーナーが利用料を得る。確かにこれは、他のメディアにはできないことだ。またテナントにとってはボタン一つでデジタルサイネージに流す内容を替えてしまうことが可能。人手はもちろん様々な工数もかからないため、コストは劇的に減る。しかもデジタルだから、予約を入れることも可能。中小ビルでこのような収益を得られるなら、大型ビルにおけるデジタルサイネージの可能性はいっそう広がるであろう。
 「大型ビルであればあるほど、集客力も上がります。中小ビルのデジタルサイネージは、オーナーとテナントが告知するだけのメディアでしたが、大型ビルは第三者がつまり一般の企業がビルのデジタルサイネージに、広告を出すことも考えられます。ビル=まちという捉え方になるわけです」(渡辺氏)。
 全ビルの総価値を資産として捉え、いくらの金額を生み出すか。大型ビルはその可能性の中でビルを試算し、広告に使うのだという。価値を知った上で、インフォメーションやサインなどの住み分けを考えることが重要だ。
 さらにビルの最上階の屋外につけたLEDビジョン。これもデジタルサイネージとして、非常に大きな価値を生む。
 「たとえばこの近隣の五差路は信号があり、人や車が止まっている時間も長い。その間最上階のLEDビジョンに、人目が集まるわけです。坂を下っていくと、日本でも最上級ににぎやかな交差点が2つもあります。しかも流れていく道が「渋谷」駅。交通量も多いこうした環境があるのであれば、広告をとってビジネスをしましょう、ということが可能になります」(渡辺氏)
 車の数はもちろん、どんな車が通っているのか。信号があって止まるかどうか。デジタルサイネージがどちらの方向を向いているかなどで、その価値が決まる。
 「場合によっては、渋谷の交差点のようにいくつかの大型LEDビジョン広告をまとめて販売する『セット売り』も可能になります。複数のビルを経営されている方は、セットでパッケージ化するのも一つの方法かもしれません」(渡辺氏)。
 テナントを切らさないこと。それだけが、ビル経営ではない。もう一度多面的に、ビルを見ることが必要なのかもしれない。

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