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<業界の革命児>ユニパック

2017.06.12 17:31

空調設備の現場作業員不足問題に寄与するフィルタの誕生
 昨今、インターネット通販の定着によって宅配業界では深刻な人手不足と過重労働が問題となっている。これは決して他人事ではなく、「ビルメンテナンス業界も今後、人手不足が大きな問題となる」と述べるのは、ユニパック(埼玉県川口市)の松江昭彦社長である。
 バブル絶頂期の90年代前半、都心部では超高層のインテリジェントオフィスビルが次々と建てられた。それに伴い、ビル設備の保守・メンテナンスに関わる業務は高度化が進んだ一方、当時の就職率は非常に高く、就職を希望する若者はいわゆる3K(きつい・きたない・きけん)と呼ばれたビルメンテナンス業から一斉に離れてしまった。このためビルメンテナンス各社は人材の確保と作業品質の維持に相当な苦労を要したという過去がある。
 松江氏がユニパックを設立したのは、ビルメンテナンス業界が「空前の人手不足」という危機に陥っていた1990年のことだ。大手ビル管理会社と提携し、空調設備の保守整備業務を開始した。ビル管理法では、延床面積3000㎡以上のビルの空調設備に中性能フィルタの設置を義務付けている。この中性能フィルタは大きなゴミを取るプレフィルタと細かなゴミを取るメーンフィルタの2種類のフィルタを組み合わせたもので、このうちプレフィルタは2~3カ月に1度の手洗いが一般的とされている。ビルが巨大化するほどフィルタの設置枚数も当然ながら増える。だが当時のビルメンテナンス会社にはフィルタの手洗いという過酷な業務に充てられるほどの人材が少なくなったのだ。松江氏はこうした経験から、より効率的な運用を可能とするフィルタの開発に乗り出すことになる。その契機となったのが、東京・六本木の再開発プロジェクト「東京ミッドタウン」である。
 「東京ミッドタウン」の計画段階で、導入される空調機は660台、プレフィルタとメーンフィルタの総数は4000セット以上にのぼることが試算された。前述のように2~3カ月に1度の周期でプレフィルタの手洗いを行うとなると、清掃枚数が膨大となり作業人員の確保が課題となっていた。この課題を解決すべく、松江氏が開発したのがプレフィルタとメーンフィルタを一体化した中性能フィルタ「薫風(くんぷう)」である。
 この「薫風」はフィルタをアコーディオンの蛇腹のようにプリーツ状に加工することで、従来のフィルタの20倍もの表面積を確保。これまでプレフィルタは3カ月に1度の洗浄、メーンフィルタは年1回の交換が必要であったが、「薫風」は新品使用後年1回の洗浄で最大3回まで繰り返し使用することが可能になった。つまり4年間は新たにフィルタを購入する必要がないのだ。松江氏は「従来のフィルタの交換サイクルと比較すると、『薫風』は4割のコスト削減に貢献する」と話す。また洗浄作業の頻度が減少することでビルメンテナンス業務の作業負担の軽減につながるほか、従来のフィルタに比べ空気抵抗が少ないことから空調機器本体への負担も軽減し省エネ効果も期待できる(その後、従来型とのシュミレーションにより削減額は1300万にも及んでいたことが判明した)。
 松江氏は「東京ミッドタウン」での事例を皮切りに、その後も次々と新たな製品の開発を手掛けている。プレフィルタ・メーンフィルタの兼用型として開発された「涼風(りょうふう)」は、「薫風」よりも更に空気抵抗を少なくした設計で、大幅な節電効果を生み出すアイテムだ。このほか、ビルマルチエアコン用の「清風(せいふう)」は、天井カセット式の吹き出し口にそのまま取り付けることが可能。直近では、火山灰の侵入を防ぐフィルタ「南風(なんぷう)」を開発し、高度なBCP対策が要求される国家的重要施設での導入の検討がはじめられているという。松江氏は「涼風」を「ビルメンテナンス業界の人手不足問題を解消する救世主」と述べている。作業負担の軽減だけではなく省エネ・コスト削減に寄与するユニパックの考えがビル空調業界におけるスタンダードとなる日は近い。

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