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東京都 耐震診断、未実施121件公表 賃料減額等を危惧し診断躊躇する所有者も

2017.04.17 17:15

 東京都は3月28日、「東京における緊急輸送道路沿道建築物の耐震化を推進する条例」(以下「耐震化推進条例」)に基づき、正当な理由がなく耐震診断が実施されていない特定緊急輸送道路沿道建築物の名称等をホームページで公表した。その数は121件。
 2012年4月、特定緊急輸送道路沿道建築物(以下、沿道建築物)に耐震診断を義務づけた耐震化推進条例の規定が施行された。耐震化を進め、大地震での建物倒壊による幹線道路の機能不全を防ぐのが狙いである。耐震診断義務付けの対象建築物は約4850棟。耐震診断の費用に対して実質全額補助を受けることができる手厚い助成制度を設けることで、沿道建築物の所有者に対して診断の実施を促してきた。
 前回2015年8月末時点の公表件数は218件。この時点で、その後に耐震診断を実施する意思が確認できた建築物123件については公表を猶予していた。この結果、耐震診断を行っていない物件は計341件であった。東京都都市整備局の耐震化推進担当部長を務める飯泉洋氏は「2015年8月の公表後、2015年度内に75件で耐震診断が行われた。よって、2016年4月1日時点で耐震診断を実施していない建築物は266件となった。これらの建築物に対して、区市町村が中心となり、約1年間かけて耐震診断を働きかけ、145件で診断が行われた」と説明する。2016年12月末時点での沿道建築物のうち、条例対象建築物の耐震診断実施率は96・1%に達しており、1年前と比較すると2・4ポイント上昇している。条例の施行からすでに5年が経過しているが、未だ121件が正当な理由なく耐震診断を実施していない。建物名称等が公表された建築物の用途を見ると、「店舗・事務所」といった事業用ビルが多いという印象だ。飯泉氏によると「沿道建築物のうち分譲マンション(約1200棟)は、その他の用途と比較して耐震診断の実施が進んでおり、既に2015年5月末の時点で96%が診断を実施していた」といい、現時点の分譲マンションの耐震診断実施率は、条例対象建築物全体の耐震診断実施率96・1%よりも高くなっているものと予想される。
 東京都は、耐震診断を実施していない理由を所有者にヒアリングし、把握している。それによると、そもそも耐震診断を行う意思を持っていない所有者もいるようであるが、関係者との調整が進まず診断ができないケースもあるようだ。また、耐震診断を行うことによって耐震性を満たしていないとの結果が明らかになった場合、テナント側から賃料の減額を打診される可能性があることなどを理由として、診断の実施に躊躇している所有者もいるようだ。
 前述したように、東京都はこれまで耐震診断に関して手厚い助成制度を設けていた。しかし、2017年4月1日以降、この助成制度を原則打ち切った(2016年4月1日以降、沿道建築物で耐震診断の義務付け対象であることが判明した場合は助成を受けられる。また、都は原則助成を打ち切ったが、区市町村が独自の助成を継続するケースもある)。
 「1棟でも倒壊すると緊急輸送道路の通行に影響が出るため、所有者は緊急輸送道路の重要性を改めて認識し、耐震診断の実施を皮切りに耐震化に取り組んでもらいたい」(飯泉氏)
 なお、東京都のホームページ上での公表については、2021年3月末まで継続する。公表されている建築物について、今後、耐震診断の実施が確認された場合は、その時点で削除される。

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