不動産トピックス
【1/5号・今週の最終面特集】職×住に特化した最新ランドマーク開発
2026.01.05 10:59
街・建物の歴史を承継し新たなシナジー 利用者が交流できる機能も整備
不動産開発においてソフト面の充実性はトレンドの1つとなりつつある。地域の魅力や歴史を継承し、街の人々に寄り添った開発事例について紹介したい。
全7戸のなりわい賃貸住宅 松竹撮影所の縁残る大船に
松竹(東京都中央区)とブルースタジオ(東京都中央区)は昨年11月、商住一体型の複合施設「kuguru(くぐる)」を竣工した。
大船は江戸時代から東海道の宿場町として栄えた歴史がある由緒正しきエリア。碁盤の目状に整備された北側は多くの工場が並ぶ工業地帯として栄え、南側は戸建てやマンションの開発が進む住宅地にあたる。
「kuguru」が立地するのはJR「大船」駅から徒歩6分の松竹通り沿い。商業地のちょうど中間地点にあたる落ち着いた住宅地だ。大正時代に田園都市構想が計画された際、金融恐慌などの災厄を鎮めるために建てられた「山蒼稲荷神社」(のちに現在の地に移転)の参道がすぐ横にある。
オーナーの松竹と大船エリアの縁は深い。昭和11年に蒲田から映画の撮影所が移転し、「松竹大船撮影所」が誕生。山田洋二監督の「男はつらいよ」や「二十四の瞳」をはじめ、1500本以上の名作映画を撮影。街は大きな発展を遂げた。その後60年以上の歴史を重ねたが、平成12年に多くの人々に惜しまれながら閉所。跡地には鎌倉女子大やイトーヨーカドーが竣工し、かつての趣は少しずつ変化を遂げた。そんな折、松竹が地域に貢献できる開発を目指してかじを切る。
「kuguru」の企画・建築設計監理・リーシングを担ったのは一級建築士事務所のブルースタジオ。コンセプトには「暮らしと商いが共存する‘なりわい暮らし’」を据えている。クリエイティブディレクターの大島芳彦氏は今回、松竹から相談を受けてゼロから企画作りをはじめた。
大島氏は「当社は5年程前から店舗兼用住宅の可能性について模索してきました。ここは完全なる商業地ではなく、第2種住居地域。商店街でもなくショッピングモールでもなく南北は住宅地という暮らしと商いのちょうどいいバランスが取れる場所です。生活者の顔が見える、まさに寅さんの世界で商いを営みながら暮らす人に住んでいただきたい。そんな思いで企画を進めました」と語った。
地域の事業者から反響大 気軽に言葉交わせる施設に
名称の「kuguru」には山蒼稲荷神社の「境内をくぐる」、お店の「暖簾をくぐる」のふたつの意味を込めた。松竹通りの鳥居から山蒼稲荷神社の本殿をつなぐ参道を挟むように位置していることから、外観デザインは鳥居をイメージした木造門型フレームの連なりを表現している。
延床面積379・95㎡、建築面積210・33㎡、敷地面積367・74㎡、木造2階建ての長屋とした。構成は46・91~50・18㎡の店舗2区画、50・48~51・10㎡の店舗兼用住宅5区画。店舗兼用住宅は主に2種類の間取りを用意している。ひとつが1階をすべて土間として2階に居住スペースを設けた「あきない住宅」。古くからある街の個人商店のような「店舗兼用住宅」をイメージし、店舗用のスペースを確保。商いが生活の中心にあるような事業者向けに設計を行った。
対して1階の半分のスペースを土間として、残りの半分と2階のスペースを居住専用としたのが「なりわい住宅」。店舗スペースよりも生活空間をある程度確保し、生活と商いのメリハリを付けたい人に最適の設計となる。
各土間は飲食店舗もできるように給排水設備を設えた。また、玄関にはユニウッド(新潟県村上市)の製造する木製サッシを採用。木製サッシは一般的なアルミサッシと比べて高い気密水密性能を誇り、大開口でも対応できるつくりの柔軟性が特徴だ。こうしたハード面の工夫を含めて、同物件では断熱性能で等級6を実現。住宅の新築において義務化された基準値の等級4を上まわる快適性を備え、環境性能の先進的な施設としての側面も携えている。
テナントにはレストラン、カフェ、理容室、子ども用メガネ店、アナログゲームの販売店、児童発達支援団体、オリーブオイル専門店が成約。一部の店舗は今年の1月下旬にオープンを迎える。「近隣に住んでいたが店舗と居住スペースを十分に確保したい」、「独立して自分の店を出したい」等入居のニーズは様々だが、全事業者に共通するのは「コンセプトに賛同していること」。松竹の執行役員で不動産本部 不動産戦略部門の森口和則氏は、住民同士の顔が見える施設にしたいと意気込む。
「近所の方同士が『最近どう?』と声を気軽に掛け合えるような、身近な存在になればうれしいです。弊社の企画はもちろんのこと、テナントさんが自発的にイベントやマルシェを企画する際にも積極的にサポートしたい」(森口氏)。
賃料はあきない住宅が21万9881~22万1542円。周辺の新築賃貸住宅と比較して2~3割増しの設定としている。契約は定期建物賃貸借で店舗は5年、その他は2年。昨年12月中旬時点で40件以上の反響を集めた。人とのつながりが希薄になりがちな昨今。住民同士の顔が見える良い意味での「距離の近さ」が、今後の地域密着型開発には求められてくるだろう。
新ブランド「&PLACE」始動 元社員寮をフレキシブルオフィスに
LOOPLACE(東京都千代田区)は昨年10月、10名以下の小規模オフィスマーケットのニーズに対応した新しいワークプレイスブランド「&PLACE(アンドプレイス)」を立ち上げ、第一弾として「&PLACE 代々木」を開業した。 同社ではこれまで都内の築古物件1棟をリノベーションする「gran+(グランプラス)」シリーズを通し、セットアップオフィスや共有スペースを提供。スタートアップ向けの1棟貸しニーズに応えてきた。
対して「&PLACE」は小規模スタートアップをターゲットに据えて、部屋を小割のままとしたフレキシブルオフィス仕様となる。少人数・多拠点での柔軟な働き方を志向する企業が増加していること、フレキシブルオフィス市場の拡大が立ち上げの背景にある。
一棟目となる「&PLACE代々木」は地下鉄各線「新宿」駅徒歩5分、JR各線「新宿」駅の繁華街から少し外れた閑静な場所に立地する。延床面積610・81㎡、敷地面積397・57㎡、鉄筋コンクリート造の地上4階建て。同社が2024年末に取得した元社員寮で、昨年4月に着工。10月にフルリノベーションを完了した。
デザインコンセプトは「CO-GROWTH―共に成長する-」。入居者同士、あるいは入居者と来訪者との交流を促す空間設計を図った。共有ラウンジにはウォーターサーバーやドリンク・スナック等の無人販売設備を用意。共用のレコードプレーヤーも設え、フランクな雰囲気でコミュニケーションがとれる空間としている。4名用のミーティングルームにはモニターを完備。打ち合わせからWeb会議まで幅広い用途で利用が可能だ。
また、以前にLOOPLACEの内覧会に参加してリノベーション興味を持ったというパナソニック(大阪府門真市)との協業も今回の見どころ。電気・空調・衛生設備にはパナソニック製品を採用し、設備の設計から実装までを2社の共同で行った。各部屋の空調機には花粉や菌・ウイルス、P㎡・5等の抑制、においの脱臭など7つの効果を持つ「ナノイーX」を導入。快適に暮らし働ける環境を整えている。
什器や水回りは全部屋に 建物の趣残す再生も
賃貸区画は16・64㎡が24室、28・84㎡が1室の計25室。1階には共用設備としてラウンジ、ミーティングルーム、シャワー室を整備している。用途は住宅のまま変更せず、事務所を兼ねて利用が可能。立ち上げ5年以内のスタートアップ企業の入居を見込む。
専有部は入居しやすく退去しやすい「登記できる住宅」を目指した。各部屋にはデスクやチェア、ラックといった什器を全室セットアップしたほか、トイレなどの水回りも整備。デスクは4~6名ほどの就業人員を想定し、可変性の高いものを採用している。4階には冷蔵庫と電子レンジも完備し、執務と居住の両面から利便性を高めた。
外観は工事で大きくリニューアル。鮮やかなグリーンに外壁を塗装し、大きなガラス窓を採用。ラウンジの様子が外からうかがえる開けたつくりとした。解体前の建物の瓦礫をアップサイクルしてタイルを作成、部屋内や共有部に配置する等、かつての趣が感じられる工夫を凝らした。
「賃料は4階が19万2000円。全フロアの平均レンジは坪あたり4~5万円としました。周辺の住宅家賃相場としては高単価ですが、オフィス相場としては安い設定にしています」(不動産ソリューション事業部 真野氏)。
入居契約は定期借家で2年間。11月に稼働を開始し、12月中旬の時点で7社が成約、申込みしている。物件はリーシング後に売却、またはマスターリースで管理をする方針。「&PLACE」では現在2棟目のプロジェクトにも着手しており、都内を中心に展開を進めていく構えだ。



