不動産トピックス
【12/15号・今週の最終面特集】サーキュラーエコノミー実装へ 挑戦するカナダ発のスタートアップ

2025.12.15 10:23
使用済みの割り箸を建材にアップサイクル
コクヨや竹中工務店と連携、大手デベも熱視線
使用済みの割り箸を机やベンチ、さらには建材などに。このようなアップサイクルの実現に向けて事業を展開しているのがChopValue Manufacturing Japan(チョップバリュー・マニュファクチャリング・ジャパン、川崎市中原区)だ。カナダ発のスタートアップとして誕生し、現在、世界各地のさまざまな地域で、80以上のマイクロファクトリーが開発段階にあります。日本法人は2024年7月に誕生。設立して間もない企業だが、すでにコクヨや竹中工務店と連携した。
25年春にマイクロファクトリー 環境効果、製品に刻印
ChopValue Manufucturing Japan(以下、チョップバリュー・ジャパン)は2024年7月に法人を設立。25年春には割り箸アップサイクルの第一号拠点となる、最低100坪から操業できるマイクロファクトリーを川崎市に立ち上げた。
使用済みの割り箸のアップサイクル工程とはどういったものだろうか。
川崎市内のマイクロファクトリーを訪れると、入口には大量の使用済みの割り箸が山積みにされている。開設以来、これまでに合計300万本を回収してきたという。割り箸には木材でつくられたものと、竹でつくられたものがあり、それぞれ分別している。
これらの割り箸を分類した後に、水性樹脂でコーティングする。そして、その後、高温・高圧・蒸気で殺菌を行う。殺菌した割り箸の束を整え、専用のプレス機で高温圧縮することで使用済み割り箸を原料とした特製材を製造している。
普段使っている一膳の割り箸は軽いが、特製材を持つと重さを感じる。割り箸を高密度に複合することで、硬度はメープル材以上、強度はオーク材以上、耐久性はオーク材と同等だという。
チョップバリューが展開する特製材は現在、「IMPACT」、「IMPACT+」、「IMPACTハイブリッド」がある。「IMPACT」と「IMPACT+」はCO2などの温室効果ガスの吸収量が排出量を上回る「カーボンネガティブ」な製品だ。「IMPACTハイブリッド」は木質基材または再生材を土台にして表面の原材料が割り橋となっており、温室効果ガス排出量と吸収量が同等のカーボンニュートラルな製品となる。
訪問した時につくっていたのは、この特製材で作ったコースターだ。ジェームス・ソバック社長によると、そのコースター1つにつき約75本の割り箸を使用しているという。こうした方法で、コースターだけでなくベンチやテーブル、壁面パネル、様々な雑貨などを作っている。ユニークなのは、クライアントの要望によってその製品に使われた割り箸の本数と、割り箸を廃棄した時と比べて、どれくらいのCO2排出が抑制されたかを刻印するところ。自分たちが使った割り箸が回収されて、実際にどれくらいの環境負荷低減につながったかを見える化している。回収に協力した人にとっても、そして店舗にとっても身近なところから取り組むことが地球環境に貢献していることがわかりやすい形になっている。
事業は「地域ぐるみ」で 将来は国内100拠点に
同社の事業は「地域ぐるみ」で行うことが、環境・社会へのポジティブなインパクトを最大化できる。先述の通り、現在は川崎市内の60カ所で使用済み割り箸を回収している。大手チェーンの丸亀製麺とはカナダのチョップバリューが提携する縁から日本でも連携している。連携先は「地域の飲食店」に限定している。
こうした「地域ぐるみ」を重視するのには、2つの理由がある。それについて、戦略的パートナーシップディレクターの松尾実里氏は次のように話す。
「割り箸を捨てないでチョップバリューが設置している回収ボックスに入れる、という誰もが取り組めるというのが大きなメリットです。回収した割り箸はお店のベンチやテーブルになって利用できる。そして、そこにはどれくらい環境負荷の低減に役立ったかが見える。店舗にとっても廃棄物を減らすことができる。もちろん当社にとってもその資源から様々なものをつくれるようになる。割り箸から環境について考えるきっかけを得るとともに、その回収に協力することで恩恵を受けられる。それを実現していくには川崎市のような『地域ぐるみ』の取り組みが重要なのです」
もうひとつの理由は、マイクロファクトリーから遠方の場所にまで回収するようなことは、配送にかかわるCO2排出量が増加してしまい、環境に負荷をかけかねないことだ。同社はこうした取り組みを全国展開していくために、「国内のマイクロファクトリーを100カ所体制にしたい」(松尾氏)という。
不動産業界での需要開拓へ 大手ゼネコンと検証進める
チョップバリュー・ジャパンが中長期的な展開として考えているのが、不動産業界での需要を開拓して物件でこの新しい素材を建材として活用していくことだ。そのためには法令などの各種基準をクリアしていくことが求められる。
オフィス家具では25年4月にコクヨと提携し、使用済み割り箸をアップサイクルした板材を用いてオフィス家具の開発や検証を開始した。コクヨではこうした内装材の耐久性について厳しい基準を設けているが、チョップバリューの開発した板材がオフィス家具の部材として使用できるよう、共同開発を進めている。これとは別にコアラマットレスが25年7月に開設した東京・青山のショールーム内のキャビネットを製作して設置。このキャビネットには9万本超の割り箸を利用している。
そして、不動産業界での需要を開拓していくうえで大きな一歩となったのが、竹中工務店と実施する共同研究である。
本共同研究では建築分野における地産地消の資源循環モデルの構築を目指し、建物内での更なるChopValueの技術・製品の適用先拡大のために、技術研究所で防火材料としての検証を行うとともに、様々な建築部材への応用を見据えた新規用途開発の検討を進めている。
不動産デベロッパーとの関係構築も着々と進める。ジェームス・ソバック社長は「2026年1月に竣工予定の東京建物の賃貸マンションのエントランスホールに、当社の資材を活用したアートを設置する予定です」と紹介する。
不動産業界もその動向に注目する。オフィスビルの脱炭素・低炭素化は入居する企業からの要望が強い。外資系企業からは「高いレベルの環境認証を取得していなければ入居しない」という声も出ている。2028年度には建築物LCA制度の運用開始が検討されていて、従来のビル運用中の省エネだけでなく、資材調達から建設時や解体・廃棄時までの「ゆりかごから墓場まで」の脱炭素が求められる。投資家をはじめとしたステークホルダーからの要請にも対応しなければならない。
使用済み割り箸を原料にした建材は企業にとって「サステナビリティのストーリー」として語りやすい。そして「語りやすさ」という名だけでなく、実も兼ね備えている。たとえばLEEDを例にとると「当社の製品は使用済み割り箸のリサイクル原料が100%となっており、リサイクル含有率や素材の再利用、籍になる調達の各観点でポイント各特区に貢献できる。健康被害や環境汚染が懸念されるVOC(揮発性有機化合物)フリーであり、清潔で健康な室内空間づくりにも最適だ」(ジェームス・ソバック社長)。サステナビリティを通じたブランディングと、脱炭素や環境負荷低減を両立することができるというわけだ。
「ごみなんて存在しない。これらは都市資源であり、その活用方法がまだ知られていないだけだ」。チョップバリュー創業者であるフェリックス・ベック氏の言葉だ。チョップバリューの事業から見えてくるのは、使用済み割り箸のアップサイクルを通じて、使い終えたモノが資源として循環するサーキュラーエコノミーの社会実装だ。
ジェームス・ソバック社長もサーキュラーエコノミーを「特別なものではなく、当たり前の取り組みにしていくべきだ」と強調する。「割り箸」という日本人にとって身近すぎるもののから、サーキュラーエコノミー実現をめざす。



