不動産トピックス
【12/1号・今週の最終面特集】進む不動産のZEB化 物件の新たな価値形成に貢献

2025.12.01 10:54
修繕計画の段階で省エネルギー性能を可視化
ZEB化実現につなげる「ZEB Quest」開始
環境不動産が注目されつつある中、その指標となる環境認証も徐々に需要が上がっている。テナントも気にする動きがあり、中には環境認証制度の取得物件を自ら選択する・好む企業が現れている。今後中小ビルオーナーもそのようなニーズを意識し、対策を施す必要がある。
EMドックによる分析調査 結果もとにZEB化提案
東急コミュニティー(東京都世田谷区)は10月から、修繕計画の段階で省エネルギー性能の可視化を図り、環境不動産(ZEB化)実現を促進させる新たなサービス「ZEB Quest」を開始した。
東急不動産ホールディングスグループの東急コミュニティーは、以前から自社の事業・活動において脱炭素社会の推進や循環型社会への貢献に注力してきた。特にここ数年はさまざまな環境関連のサービスを始めている。2023年11月から既存オフィスビルのZEB化・BELS認証取得に向けた提案を推進する「EMドック」を開始。「Enchanted in 1 minute(1分で魅了する)」をコンセプトに構築した独自の支援ツールを活用し、通常の建物・設備点検では行われない分析調査を徹底して行う。1枚のシートに見やすく・分かりやすく調査結果をまとめて、ビル・不動産オーナー等のクライアントへ提示。調査結果を基に、「ZEB」化や「BELS認証」取得への適切な提案・支援をオーナー等へ展開してきた。
省エネ性能ラベル表示の努力義務化に伴い、これまでのEMドックがさらに進化した「EMドック2・0」を提供開始。従来のEMドックと比べ、環境認証支援に重きを置いたサービス。現地調査所要時間を短縮しており、従来は最短で2日だったが、EMドック2・0は半日で可能。精密機器を用いないため、遠方でも対応できる。新たに始めたEMドック2・0も含め、今年10月時点での実施件数は管理物件の内外も含めると44件。オーナーからの評価の高さと、年々高まる環境意識も影響しEMドックが急速に広まっている。
建築物のZEB化件数は年々増加しているが新築と比較し、既存物件での普及スピードは遅い。既存物件でのZEB化の累積実施件数の割合も年々低下。状況改善が早急に求められている。大きく影響している要因は、建築費・資材費の高騰。ZEB化に向けた改修コストが増額しており、コストの把握とともに中長期修繕計画ともすり合わせた効率的・効果的なバリューアップをオーナーは求めている。コスト面も踏まえて、そのような要望に応えることのできる企業は限定的。これら状況を打開するために誕生したのが、同社の新サービス「ZEB Quest」だ。
オフィスビルだけでなく商業や物流にも転用可能
ZEB QuestはEMドックによる分析調査を行った後に、修繕計画×省エネルギー性能の可視化でZEB化実現につなげるサービス。建築物の現状を把握した後に省エネルギー性能、特にBPI(外皮の断熱性能を示す指標)とBEI(設計一次エネルギー消費量を地域や用途ごとに定めた基準一次エネルギー消費量で割った値)の値を算出。修繕計画にどのような改修を加えると、BPI・BEIの数値を下げることができるか可視化する。特徴は対象物件の現状を踏まえて「ZEB」、「Nearly ZEB」、「ZEB Ready」、「ZEB Oriented」の中から最適なZEB化を提案できること。改修コストも一緒に可視化するため、オーナーは行動に移しやすい。
自社で計画している中長期修繕計画に足並みを合わせてバリューアップも可能。空調や換気設備、照明、給排水設備等における修繕計画と、これら設備の対応年数も考慮し提案できる。これは環境サイクルの面でも重要。例えばメーカー推奨では13年利用できる空調設備を10年ほどで更新することは、使用電力におけるCO2削減につながるが、循環型の環境サイクルとして見ると地球にやさしくない。単なるCO2削減だけではなく、さらに広い視野で環境を考える同社ならではの提案ができる。
ビル事業本部 事業統括部 テクニカルソリューションセンター Earth Managementチームの上林皇太氏は「オーナーの中には『ZEB化に興味はあるが何から始めれば良いか分からない』や『コストが高額で断念した』ケースもありました。しかしながら環境意識の高い企業は増えており、ZEB化による自社のブランディングや差別化も見据えて検討する企業は増加傾向にあります。当社は補助金を使用すべきかどうか、申請のサポートも可能です。既存ビルの現状把握とともに、ZEB化を目指す場合は最適なプランでしょう」と述べた。
現在は試行段階であるが、まずは年間目標を最大30件と定めて展開していく方針だ。さらにオフィスビルだけでなく、商業施設やホテル、物流にも転用可能。まずはオフィスビルから始めているが、今後要望次第でその他アセットへの展開も見据える。緩やかに物件の価値へ環境認証制度の取得有無が影響していることから、ZEB Questの需要・利用も伸びていくことが予想される。
星野リゾートのホテル 環境認証Sランク取得
星野リゾート(長野県北佐久郡)は10月22日、国内外で展開するリゾートホテルブランド「リゾナーレ」の8施設目「リゾナーレ下関」にて、「ZEB Ready認証」と「CASBEE建築評価認証」の最高Sランクを国内ホテルで初めて(2025年10月時点、自社調べ)同時取得した。
星野リゾートは1992年から長野県軽井沢で、環境負荷を最小限に抑える独自の環境経営を推進。特にエネルギー効率の向上と再生可能エネルギーの活用に注力してきた。今回の「リゾナーレ下関」は、12月11日に開業予定のホテル。JR「下関」駅から車やバスで約5分に立地。「ZEB Ready認証」においては、複数の省エネ技術を組み合わせることで、基準値に対して53%の一次エネルギー消費量削減を達成。例えば客室入口の照明スイッチと空調・換気システムを連動させ、宿泊客の不在時には換気量を低減。空調設定温度を自動で緩和する仕組みを採用した。これら先進的な制御技術と設備容量の適正化、高効率設備の導入などを組み合わせることで、ホテル単一用途(1万㎡以上/新築)では、日本で初めて「ZEB Ready認証」の取得となった。
客室排水熱や海水を活用 プールは年間約38%削減
「CASBEE建築評価認証」においては、環境負荷を抑えながら高い快適性と環境品質を両立した建物として、最高評価のSランクを取得した。ちなみにホテル業界の脱炭素化を推進するリーディングプロジェクトとして、国土交通省の令和5年度「サステナブル建築物等先導事業(省CO2先導型)」にも採択されている。
双方の評価対象外となる要素においても、地域資源や建物特性を活用した。例えば、通常そのまま捨てられてしまう客室のユニットバスや洗面台から出る雑排水の未利用熱に着目。客室の雑排水を貯留し、未利用エネルギーである客室排水熱を温水プールの水温維持に有効利用。一般的なボイラー方式と比較して、プール昇温に必要なエネルギーを年間で約38%削減できる試算結果となった。
ホテル前の関門海峡の海水を電気分解し、生成した電解次亜水をプール滅菌に利用している。電解次亜水生成装置に食塩を投入する代わりに、海水を利用することで省資源につながる。通常のプールで使用されている次亜塩素酸ナトリウムでの滅菌方法と比較し、電解次亜水で滅菌することで、塩素臭も低減。このように海水を利用することで、省資源と利用者の快適性向上の両立を図っている。



