不動産トピックス
【6/9号・今週の最終面特集】宿泊施設最新トレンド

2025.06.10 14:52
地域の活性化にも貢献できるホテル 宿泊客のニーズに対応した戦略
コロナ禍が収束して以降、国内の宿泊施設に対する需要は右肩上がりで伸び続けている。海外から訪れるインバウンド客はもちろん、国内の旅行客や出張客のニーズも堅調。地域経済の活性化にも貢献する宿泊施設の最新トレンドを追った。
福島県矢吹町でコンテナホテル開業
LIFULLグループのLIFULL Investment(東京都千代田区)が今年1月に取得した福島県矢吹町のコンテナホテル「HOTEL R9 The Yard 矢吹」が、4月24日にオープンした。これはコンテナホテルの開発・運営を手掛けるデベロップ(千葉県市川市)が開発したもので、竣工後にLIFULL Investmentが取得。デベロップとの間にサブリース契約を結び、同社がホテルの運営を行う。
LIFULL Investmentは、寄付型クラウドファンディングサイトの運営を目的に2012年に設立。その後、不動産・住宅情報サイト大手の「LIFULL HOME'S」を運営するLIFULLグループの傘下に入り、不動産事業者に対する融資やクラウドファンディング、主に地方での不動産投資や地方創生ファンドの組成など、金融の視点から不動産の様々な事業を展開している。
今回の矢吹町でのコンテナホテル投資は地方創生事業の一環として行うものであり、代表取締役社長の市川和也氏は「2020年1月に栃木県矢板市で取得した『HOTEL R9 The Yard 矢板』に続いて今回が2例目となります。福島県内では現在も東日本大震災の復興活動が行われている一方で、震災の影響で営業休止や閉鎖したホテルも多く、復興従事者の方々が宿泊できる施設が不足気味になっているというのが現状です。本施設は東北道のインターチェンジ付近の国道に面し、近隣に所在する企業や工場への出張客のほか、震災復興に従事する方々のご利用も想定しています」と話す。
デベロップのコンテナホテル「HOTEL R9 The Yard」は、建築用コンテナを使用したスタイリッシュな外観が特徴的で、鉄骨造の建築物としての堅牢性を確保。客室内の設備は一般のビジネスホテルと比較しても遜色なく、コンテナが1棟ごとに独立して並ぶことから隣の部屋の音が気にならず、静かで快適な空間を提供する。駅前などの都市の中心部ではなく郊外やロードサイドへの出店展開を積極的に行っており、これまでに全国105店舗約4000室を手掛けてきた。
「HOTEL R9 The Yard」は、災害などの有事には「レスキューホテル」としても活躍する点も、大きな特徴といえる。デベロップの広報担当の麻生川佳奈氏は「1つのコンテナにベッドやユニットバス、生活家電等を収めたコンテナホテルは『動くホテル』という特性を持ち、有事の際に避難所や病院などのそばへ移動させ、ライフラインを接続することで被災者や復興従事者の宿泊施設、地域医療の拠点等として活用することができます。当社の『レスキューホテル』は2020年の新型コロナ感染拡大防止を目的に出動した実績があり、現在までに全国173の自治体等と災害時におけるコンテナホテルの提供に関する連携協定を結んでいます。『HOTEL R9 The Yard 矢吹』のオープンに先立ち、今年3月には福島県矢吹町とも災害協定を締結しました。自治体との連携強化を通じて、災害に強いまちづくりに貢献していきたいと考えております」と話す。同社では2030年までに全国1万室の供給を目標に掲げている。
「HOTEL R9 The Yard 矢吹」は46部屋の客室で構成され、近隣にはコンビニエンスストアや飲食店舗等といった宿泊者にとっての利便施設も充実している。駅前立地のビジネスホテルに比べ宿泊料金がリーズナブルであるという点も、利用客にとっては大きなメリット。LIFULL Investmentの市川社長は「コンテナホテルは一般的なホテルと比べて価格競争力があり、事業計画上では建築コストの面においても優位性があります。加えてデベロップ社の手掛ける『レスキューホテル』は災害時にも活用ができるフェーズフリーな仕様となっており、地方創生への貢献という当社の事業方針にも合致したビジネスモデルといえます」と述べている。
民泊運営事業に参入 第1号は千葉県船橋市
AlbaLink(アルバリンク、本社:東京都江東区)は、千葉県船橋市で空き家をリノベーションした民泊物件を4月にオープン。民泊運営事業を開始した。同社は全国に約900万戸あるとされる空き家の有効活用と地域経済の活性化の両立を目指し、民泊による宿泊施設運営に取り組む。
AlbaLinkは「空き家をゼロにする」を企業ミッションに掲げ、買い手がつきにくいいわゆる「訳あり不動産」の買取再販事業を展開。また、訳あり不動産を放置する危険性を伝えるため、「訳あり物件買取ナビ」「空き家買取隊」といったウェブサイトの運営も行っており、空き家の流通促進に注力している。今回の民泊運営事業は、こうした取り組みをさらに発展させ、空き家の新たな価値の創出につなげるというものだ。立地条件などで住宅としての活用が難しい物件でも、宿泊施設として再生・運用を行うことで収益性のある形で活用することが可能となり、宿泊施設は知名度の高い観光エリアでなくとも来街者を呼び込み、地域経済の循環に貢献することができる。
第1号物件は千葉県船橋市の北部に位置する、2階建ての戸建住宅をリノベーションしたもの。近隣には「ふなばしアンデルセン公園」が所在するなど自然豊かな環境が特徴となっている。最大8名までの利用を想定しており、ベッドルームを2室用意。1階には12畳の広々としたリビングがあり、ソファを囲んでくつろぎながら団らんできる空間を設けた。キッチン、冷蔵庫、洗濯機、シャワーなどの基本設備を整えており、短期から長期まで幅広い宿泊ニーズに対応する。新規事業開発室の上総尚吾室長は「4月のオープンから家族連れを中心にお問い合わせを頂いており、成田空港へのアクセスも容易であることから、特にインバウンドの旅行者の予約が目立ちます。周辺はコンビニエンスストアをはじめ利便施設も多く、当施設を旅の拠点として活用されるニーズが高いものと思われます。当社は民泊運営事業を通じて、知名度の高い観光エリアにはない、その地域ならではの魅力をお伝えしていきたいと考えております」と話す。
民泊での施設の営業日数は年間180日以内と定められていることから、民泊としての営業以外でもレンタルスペースやマンスリー賃貸としての活用も検討中とのこと。上総氏は「まずは関東地方で施設数を伸ばし、継続的な施設の開設を目指しています。当社では全国の自治体と空き家活用に関する連携協定を結んでおり、今後は協定先の自治体とも協力しながら施設数の拡大を図っていきたい考えです」と述べている。