不動産トピックス

【今週号の最終面特集】コロナ禍収束で変化する不動産マーケットとオフィスのあり方

2023.12.04 10:10

都心の大型新築は順調に空室を消化 人手不足で移転スケジュールに遅れも
 2023年も残り1カ月を切り、国内主要都市の主だった大型の新築案件は出揃った形だ。コロナ禍を経験し、企業はオフィスのあり方を今一度見つめ直すこととなった。この流れの中で不動産マーケットはコロナ前の状況に戻るのか、それとも新たな局面へと移行するのか。

東京は緩やかに回復傾向 大阪は来年の大量供給に懸念も
 コリアーズ・インターナショナル・ジャパン(東京都千代田区)は、2023年第3四半期(7―9月期)のオフィスマーケットレポートを発表した。東京主要5区・グレードAオフィスのレポートは11月2日、大阪中心部・グレードAオフィスのレポートは9日に発表した。
 2023年の東京主要5区では合計で20万坪程度の新規供給が見込まれているが、7―9月期はその約半分にあたる約10万坪が供給された。中でも港区内の「虎ノ門ヒルズステーションタワー」と「麻布台ヒルズ森JPタワー」が本年の最大規模の新築物件として供給されている。新規供給物件の中には竣工時点でテナントが内定していない区画が残っていたものの、竣工後も徐々に内定が進んでいる状況。オフィス需要も緩やかに回復傾向にあり、コロナ禍の収束に伴って新たなワークスタイルの定着に合わせたオフィス移転を検討する企業が増加しているようだ。
 一方で、同社リサーチ責任者兼ディレクターの川井康平氏は「人手不足の問題などから新築物件でのオフィス入居工事に時間を要しており、契約から新オフィスでの業務開始まで1年以上を要するケースもあるようです。このため大型の新築物件が供給されたばかりの現段階では二次空室の影響は限定的で、これから顕著に現れてくるでしょう」と述べる。また引き合いはあるものの企業側が希望する賃料帯と現在募集がある物件の賃料に差が生じており、移転を検討しながら市場の動向を静観する企業も多いようだ。エリア別にみると、日本橋・八重洲・京橋エリアの空室率が「東京ミッドタウン八重洲」の開業以後、徐々に上昇する傾向となっている。同時に成約賃料も上昇傾向となっており、同エリアにオフィス移転できる資金力を持った企業が絞られつつあるといえる。
 大阪中心部では2023年の新規供給量が前年と比べて少なく、新築物件の成約も順調に進んでいることから空室は着実に消化されている状況。しかし「梅田」駅周辺では2024年に大量の新規供給が控えており、大量供給に見合う需要の増加は見込まれず、空室率は今後反転上昇する可能性が高い見通しだ。大阪のオフィスマーケットは、東京に本社を置く企業の関西地区あるいは西日本地区における拠点としての需要がその一翼を担っている。これらの企業はワークスタイルの変化やコロナ禍を経験する中で、東京の本社オフィスの移転やオフィススペースの改装に既に着手しており、大阪のオフィスにおいてもオフィススペースを従業員のワークスタイルやライフスタイルに合ったものに作り替えるべく、移転を含めた動きが顕在化していくものと推測される。

銀座1階店舗の空室は激減 オーナー優位の市場へ移行
 新型コロナウイルス感染症の脅威が過ぎ去り、日本国内を訪れる外国人観光客の数は急増。10月の訪日外国人観光客数は250万人を超え、コロナ禍前の2019年同月を超える水準となった。日本一の商業地・銀座でも、コロナ禍前と同様にショッピングを楽しむインバウンド客の姿が目立ってきた。
 銀座の店舗市場もこの流れに合わせ、にわかに活気づいている。長年にわたり銀座のハイブランド店舗のリーシングの最前線で活躍する増田不動産研究所(東京都中央区)の増田富夫所長は「銀座の店舗市場は今年前半までは濃淡入り混じるまだら模様の状況でしたが、下半期に入って一気に物件情報がなくなってきています」と話す。同氏の調査によれば、銀座1~8丁目(対象範囲は昭和通りまで)の1階店舗で空室となっているビルの棟数は今年4月の時点で80棟。この数字が約半年後の11月末時点で49棟にまで激減しているという。増田氏は「このペースでいけば来年のゴールデンウィークを迎える頃には、1階空室店舗は銀座全体で25棟前後と、コロナ前の状況に戻るでしょう」と予測する。コロナ禍の影響は銀座でも大きく、店舗の撤退が相次いだ。一方で出店を計画する企業には出店先の選択肢が豊富にあり、交渉もテナント側優位で進めることができた。コロナ禍の収束に伴ってこの状況に変化が起き、テナント側で入居先を選別できる時代は終わりを告げたといえるだろう。
 特に最近は有名ブランド店舗の出店攻勢が加速しており、銀座エリアで複数店舗を構えるケースは少なくない。中央通り沿いの店舗は立地が良くブランドの広告塔としての役割も大きい。一方で客層はインバウンドが中心。落ち着いた雰囲気での商談を希望する国内富裕層向けには、並木通りなどに構える別の店舗で対応するといった形だ。銀座に1店舗しか出店していない企業は2店舗目、3店舗目の出店に向けて積極的に乗り出している点も、1階店舗の空室の減少に拍車をかけている。
 インバウンド回復の追い風に乗って出店を計画する企業は多いが、前述の通り路面階を中心に入居できる物件の候補が限られているのが現在の状況。では有望な入居先候補を探すにはどうすれば良いか。増田氏は次のように述べる。
 「まずは新築物件の情報を追いかける方法です。新築ビルの顔となる1階だけに、テナントには一定の知名度や信頼度が求められます。また銀座では既存ビルの建替えが各所で進んでいますが、資材調達や人手不足の問題などから工期の遅れが目立ちます。中には建替え前の段階から既にテナントが内定する例もあり、新築物件の工事スケジュールを注視する必要があるでしょう。既存ビルの空室情報も同様で、いち早く空室情報をキャッチするネットワークも求められます」
 このほか、定期借家契約の期間満了の時期を狙って営業するという方法もある。大手デベロッパーが保有・運営する商業ビルがその代表といえるが、過去の経験をもとに自前でリーシングをかける例もあるようだ。いずれにしても、銀座の1階店舗はテナント側にとって絶好の出店条件となる物件はなかなか現れず、賃料も強気な設定に出るオーナーが増え始めているのが直近の状況である。


日本初・新オフィス内に「副業専用エリア」
 レジル(東京都千代田区)は、今年9月に中央電力から社名を変更。11月6日にはJR「東京」駅前の「丸の内トラストタワーN館」にオフィスを拡張移転した。
 新オフィスの最大の特徴は、社員の自己成長を支援する環境としての「副業専用エリア」を設置している点である。代表取締役社長の丹治保積氏は「一般的に、副業は就業時間外の朝や夜に行うもの。そのような生活習慣では体調に支障をきたす恐れもあり、本業のパフォーマンスにも影響を及ぼしかねません。当社では2020年よりスーパーフレックス制を採用しており、社員は好きなときに本業の執務スペースから副業専用エリアに移動し、気兼ねなく副業に専念する環境を整備しました」と話す。
 副業専用エリアは電源・専用インターネット・フォンブースを完備しており、副業の業務や外部との打ち合わせで利用することが終日可能である。副業に専念できるスペースを設けることで経験や成果を出せる幅も広がり、本業の成果にもつながる良い循環を生み出す狙いがあるようだ。

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