不動産トピックス

【今週号の最終面特集】社会課題の解決につながるスペース収益化の新潮流

2023.10.23 10:32

若い企業が提案する新たな収益化モデル 遊休不動産の活用を通じて地域・社会にも貢献
 オフィスビルの竣工ラッシュを迎えた2023年。地域によっては、既存ビルの競争力低下が予測される。少しでも資産価値を上げる手法として、遊休スペースの活用も一考したいところだ。

FC加盟は初期投資500万 投資回収は約2年見込み
 オールド(東京都港区)は、遊休不動産をレンタルスペースとしてリノベーションする「リノスペ」を展開している。
 設立は2018年。代表社員の竹越達哉氏は、2014年から「リノベる」に勤務。そこで培ったリノベーションのノウハウと、自身の経営者としての経験則をもとに、「困りごとの解決」につながる場を提供したいとの思いを込めてオールドを立ち上げた。
 竹越氏は「『リノスペ』は、空き家対策とビジネス創出をかけ合わせた事業です。空き家のリノベーションで最も利益が出るのは、実需マンション。レンタルスペースへの改修は、不特定多数の人が出入りするという管理上の懸念から、応じるオーナーさんは少数でした。しかし老朽化したビルは競争力が弱くなり、客付けに苦労をします。しっかり内装を整えたレンタルスペースを提供することで、競争力の低下に悩むオーナー様の力になれるのではないかと考えました」と話す。
 「リノスペ」には、ほぼすべての拠点にキッチンを整備。SNS等の撮影ニーズから、飲食業界にチャレンジしたい人のテストマーケティング、ゴーストキッチンなど活用の幅も広い。
 現在はFCオーナーを積極的に募集中。加盟金100万円(税抜)、リノベーション費用が一律300万円(税抜)、家電家具などの備品購入費用と代行費用が一律80万円(税抜)と、賃貸契約に関わる費用が掛かる。都内にある「リノスペ」の47拠点のうち、直営は5拠点、ほか42拠点はFC運営。初期投資に約500万円かかるものの、各拠点の売り上げは好調。現在は全拠点で黒字化しており、2年で投資回収が見込める状況だ。

月170万売上の拠点も SNSで広がり反響数増加
 例えば「東新宿」駅徒歩2分の「リノスペ新宿」。スペースは49m2の30人定員で、ビルの3階に位置する。白を基調に、2口コンロや大型スクリーンなどが設えられている。高級感あふれる雰囲気が特徴的で、ひな壇が設けられていることから芸人の撮影やトーク練習、若い女性たちの撮影スペースとして人気が高い。利用金額は1時間につき6000円。この「リノスペ新宿」での1カ月の平均利用時間は200時間。月に120万円を売り上げる計算となる。
 レンタルスペースの月の利用時間の相場は80時間程度。月25万円がレンタルスペース売上のボーダーと言われている中で、好評の秘訣は何か。
 「まず、当社ではお金をかけて内装をしっかり設えています。仲介サイトに登録されている2万5000のレンタルスペースのうち、壁面や床をそのままにしているオーナーは2万件にのぼります。『映える空間で撮影したい』というニーズが増えている中で、そのままの状態で貸し出しても反響数には期待できません。今のトレンドを抑えながらリノベーションを行うことで、他社のスペースとの差別化に成功しています」(竹越氏)。

管理会社の安心に寄りそうきめ細かなサポート
 レンタルスペース運営を行うにあたり、難しいのは管理会社の説得。前記の安全面・衛生面での危惧から、ビルの管理者が首を縦に振らないケースも少なくない。そこで、「リノスペ」では管理者が安心できるサポートも整えている。
 竹越氏は「各スペースに防犯カメラを設置しています。カメラの映像は管理者がリアルタイムで確認できるため、大きなトラブルの防止につながります。利用者様への利用マナーの事前説明など、徹底した支援を行っていますが、それでもまだまだ管理会社様の理解が得ることが難しいのが現状です。今後は、管理会社様向けの勉強会などを開催して、レンタルスペースについて知っていただける場を設けたいと考えています」と話す。
 「リノスペ」では月におおよそ5件ずつ拠点数を増やすなど、順調に拡大を続けている。最近は業界初の朝7時から11時まで「一生無料サービス」をはじめたところ、口コミで広がり会員数は300名に到達。昨年比150%の売上と右肩上がりで成長を続け、神奈川、栃木、大阪、名古屋、沖縄といった地方への出店も決まっているようだ。

ビルの壁面にアート広告 収益化と地域活性に貢献
 不動産活用の中には、アートと連携させた取り組みもある。その一つが壁面アート:ミューラルだ。WALL SHARE(大阪市北区)は、ビルの壁面を活用したミューラル広告制作の企画・提案事業を展開している。
 同社は2020年に設立。代表取締役の川添孝信氏は体育大学を卒業後、外資系自動車のメーカーに勤務。その後IT会社の起業を目指しながら、WALL SHAREを立ち上げた。
 川添氏は「HIPHOPの音楽が好きでよく聴いている中で、HIPHOPのカルチャーとアートが近しい関係にあることに気づきました。調べたところ、アートの市場規模が大きいのは圧倒的に海外。企業との連携を進めることで、日本でも潜在的なアート人口を増やしていけるのではないかと考えました」と話す。
 WALL SHAREではミューラルを施すにあたり、広告主から媒介費を受け取って、「壁主」と呼ばれる壁面のオーナーに賃料を支払う。現在の壁主は約50社。登録壁数は東京・大阪を中心に約200に上る。WALL SHAREが繋がっている国内アーティストは100名以上。委託している個人アーティストが、クライアントのイメージに合ったミューラルを手掛けている。
 賃料は立地や壁面の広さによって変動。1件につき5~20万円程度が相場だ。広告主との契約は最短で1年間。「『壁』を活用して少しでも収入を増やしたい」、「アートを通じて地域を盛り上げたい」というオーナーにうってつけのサービスとなる。サービスの提供から3年の現在、アートを施した壁面は約100に及ぶ。 
 「渋谷や新宿をはじめとした繁華街では、デジタル広告に慣れている人が多く、街頭ビジョンも目に止まりにくい。広告ブロックアプリの普及が進み、企業のWeb広告離れも深刻化している状況です。そんな中、街行く人にインパクトを与えられるミューラル広告は認知度が上がりつつあります。今は大阪・東京の案件が中心ですが、できれば47都道府県、一人でも多くの方にアートを届けることが目標です」(川添氏)。
 今年4月に経済産業省が発表した資料によれば、アートの市場規模は世界で9兆円。日本は2022年時点で1%水準という。数字が示す通り、日本ではアーティストの発表の場や、アートと企業の連携機会の少なさが課題とされている。社会問題の解決を図り、人の心の癒しにつながるアート鑑賞の場の提供は、今後ますます注目されていくに違いない。

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