不動産トピックス

【今週号の最終面特集】先を見据えた改修リノベーション最新事例

2023.09.18 13:29

明るい雰囲気のエントランスへ改修 商売繁盛のイメージ造りで満室稼働
 築年数の経過した物件では、資産価値を再度高める手法に改修・リノベーション等を取り入れることがある。だが昨今は建築費・建材費の高騰で、オーナーは改修等に躊躇するケースが見られる。改修しても確実にリーシングが成功する、既存テナントが退去しない、とは言えないからだ。大阪市天王寺区に事務所を構える「株式会社人と不動産」は、オーナーへ単なる改修ではなく「改善(点)」を気付かせる後押しをしている。

築古物件をDIY レンタルスペースに
 代表取締役の小上馬大作氏は、2015年に同社を設立した。元々小上馬氏の父は地元で土地やマンションを所有し、不動産業を営んでいた。父の業務を手伝う形で地元に戻ってきたが、同時期に地元の長屋再生事業に携わる。同地は戦争で空襲の被害に遭わなかったこともあり、昔ながらの長屋が残っていた。これら長屋を活かしてのまちづくりを展開していた。その頃から、同地でも空き家・空室問題が顕在化。「人が入らなければ不動産は続かない」ことへ改めて気づき、2018年から空室対策の事業へ重きを置いていく。
 小上馬氏は「父の保有物件の中に、車庫と倉庫を兼ねて使用されていた築古物件がありました。当時は父の事務所に席を置かせてもらい会社を経営していましたが、そこから出て、自らオフィスを構えることとしました。そこで注目したのが前述の物件です。2020年のコロナ禍の時に物件のDIYを開始。2階へ上がる階段も無い倉庫の2階部分に事務所を移転。現在はレンタルスペースの路地裏Base『Uemachi Sanc 上町サンク(通称ウエサン)』として、当社の事務所も兼ねて運用しています。セミナー、食事会、料理教室、各種レッスン、ピアノ練習、撮影、スポーツ等に活用されており、妻のそろばん教室もここで開いています。不動産の賃貸はこの20年で多様化しているので、それを事務所空間で実践することで、オーナーさんに理解してもらえれば」と語った。

「ヤブモトビル」改修 需要に当てはめて提案
 完成した「ウエサン」を見学した中に、同スペースから徒歩10分ほど、地下鉄「谷町六丁目」駅からは徒歩3分に位置する「ヤブモトビル」のオーナーがいた。有限会社藪本(大阪市天王寺区)代表取締役の藪本雄一氏で、自社ビル内で英会話教室などの教育事業を行っている。「ヤブモトビル」は1977年竣工の地上5階建て。1フロアは約50坪で、各階20坪と25坪の2区画に分かれている。当時3区画で長期間空室を抱えていたこともあり、小上馬氏に相談。入居中のテナントや周辺需要からの想定テナントに対して外観や共有部に改善箇所を見つけ、これら部分を昨今の需要やニーズに当てはめて提案していった。
 まずビルのエントランスまわり。今までは無機質の素材が強かったため、ガラス1枚ものの建具は外し、木目枠の建具に入れ替えた。外壁には大きな木目枠の案内看板を新たに設置。今まで案内看板がエントランス内にあり、来訪者には外からは分かりにくい状況を改善。更にエントランスの外壁デザインとメールボックス周辺のデザインも統一。エントランスの隅に無造作に置かれていた看板やノボリをしまう倉庫も空間内に設けた。建物全体を明るく綺麗な暖かい雰囲気に仕上がった。入居テナントの来客型の店舗やオーナー運営の塾や教室の子供たちが安心して、安全に訪問できる仕組みを整えた。また一部で残っていた和式トイレを洋式へ改善。その他、各階の共用廊下やエレベーターのドアなども統一されたコンセプトのもとに改善された。この改修工事が完成してから空室は全て解消。現在は満室稼働である。

テナントが自ら改修 内装等がオシャレに
 また、この良い流れがテナントにも波及。テナント自ら内装や入り口周辺をオシャレに改修した。同ビル4階に入居する小溝税理士事務所(大阪市天王寺区)所長税理士の小溝尚孝氏は「元々オフィスは大きな1つの部屋でしたが、秘匿性のある会話や打ち合わせの需要などから、独立した応接室と一般的な執務スペースに分ける形で改修工事を行いました。ビルのエントランスや1階周辺のリニューアルと相まって、来館者は多くなった感じがします。また社員や来館者からの反響も良く、当社の執務スペースとビルの双方を気に入って頂けたと感じました」と語った。
 小上馬氏は「上手く流れに乗って改善した事例と思います。エントランスや内装、設備環境などがテナントから好まれると、定着に繋がります。長くビルに入居を続けていればビル及びテナントも商売繁盛のイメージが付きます。『ここに入居すれば事業が継続する』というようなイメージを造り、ビルのブランドに形成していく。これが今後の不動産成功の秘訣ではないでしょうか」と語った。
 「物件がモテる=人から必要され、長期に安定して賃貸経営できる物件」ためには何をすべきか、オーナーの個性や周辺の需要などを物件に取り入れた提案をすることでオーナーの目線や意識を変える取り組み行った、成果と言える。

動物好きの集まるシェアオフィス開始
 JR東西線「大阪城北詰」駅徒歩3分、大阪メトロ谷町線「天満橋」駅からは徒歩8分に位置する「東文ビル」。ビル3階に7席の月額制シェアオフィスと2区画オフィステナントからなる「綱島サンク」があり、同フロアの企画・プロデュースや運営サポートにも小上馬氏が携わる。
 「東文ビル」は、東京文化(大阪市都島区)が保有する地上6階建ての複合テナントビル。代表取締役は内野美代氏。同氏の父の頃から50年以上もの付き合いのあった印刷会社の要望で、1991年に新築した。ほぼ一棟貸ししていたが2000年頃から徐々に賃貸面積を縮小。最終的に21年4月にコロナ禍の影響で退去した。内野氏は解決策を探していた時に、小上馬氏が携わった「ヤブモトビル」の事例をSNSで知る。小上馬氏と共に思案した結果、3階で「網島サンク」プロジェクトを行うこととなった。
 内野氏は「16年前にシェアオフィスを運営していましたが、時期・タイミング等もあり、上手くはいきませんでした。再度始めるにあたってコンセプトや施設を考える際に、私自身動物が好きなこともあって『動物と過ごせる空間の日常』をコンセプトに、猫を連れてこれる・猫好き(動物好き)の集まるシェアオフィスを造りました。最初は4部屋造り、眺めの良い大きな区画をシェアオフィスにする予定でしたが、現在は区画を3つに。店舗とオフィスの2区画は埋まり、シェアオフィスの会員と共に猫好きの方が入居・利用されています」と話す。
 「なぜペットが飼えるマンションはあるのに、ペットが飼えるオフィスはないのだろうか?」との思いから始まった。シェアオフィスは個別の専用デスクや卓球もできる6名掛けの会議机、キッチン、ラウンジスペースなどを配置。セカンドオフィス、リモートワーク、スタートアップ事業等で利用されている。小上馬氏は改修や企画に携わった中で「次世代へのバトンタッチも見据えながらの改修が、これからは大事となります。人の関係性は次世代にも繋がっていくからこそ、オーナー様の人間性を不動産に落とし込む視点でのアドバイスやサポートを行ってきました。当シェアオフィスにもオーナー様のその様な思いが同様に反映されています」と語った。

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