不動産トピックス

今週の一冊

2023.09.04 10:09

知らなかったでは済まされない「最悪の被害想定」

首都防衛
著者:宮地 美陽子
出版:講談社
発行:2023年8月20日
価格:1012円(税込)

 関東地方では、これまで幾度となく大規模な災害に見舞われてきた。江戸時代中期の1703年に発生した元禄地震は最大震度7と推定され、死者は1万人超えたとされる。その後も1707年の宝永地震(推定マグニチュード8・6)や、この地震を起因として起きた富士山の大噴火が発生。火山灰は江戸の町にまで降り注いだ。関東大震災から100年が経過した今、首都直下地震や南海トラフ巨大地震といった大災害の発生が懸念されている。しかし災害の恐怖はそれだけにとどまらない。関東近海での巨大地震の発生は富士山噴火が連動し得るということだ。
 本書は2000年代のある日、東京都心で最大震度7を観測する巨大地震の発生を想定したシナリオから始まる。強い揺れによって木造家屋を中心に多くの建物は倒壊、電機や水道といったライフラインは寸断され、幹線道路は身動きがとれなくなった車両で大渋滞が引き起こされる。スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどでは買いだめ客が殺到し、物流が遮断されたため被災者には物資が行きわたらなくなってしまう。
 東京都は昨年5月に首都直下地震の被害想定を10年ぶりに見直した。最新のデータでは死者数、全壊建物、帰宅困難者はいずれも前回を下回る想定となった。これは都心の再開発が着実に進み安全安心な都市インフラの再構築が進んだものと推測される。一方でこの数値は首都直下地震と、南海トラフ巨大地震や富士山噴火といった災害の連動を想定していない。現代に生きる我々が経験していない首都直下地震とはどれほど恐ろしく、都市にどれほどの被害をもたらすのか。本書は首都直下地震が発生した場合のリアルな被害の状況をシミュレーションするとともに、連動災害の発生の可能性についても言及する。
 災害が頻発する日本では過去の経験を教訓に災害への備えを常にアップデートしてきた。これから起こり得る大災害は想定を超える被害をもたらす可能性があると認識しながら、日々の防災意識へとつなげていきたいところだ。

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