不動産トピックス

【今週号の最終面特集】コストで見る木造ビル 中小規模に適した補助金制度

2023.07.10 10:31

湘南地域初の中高層木造複合ビル 竣工は2023年6月末 2×4工法による地上5階建て
 木造ビルへの関心が高まると同時に、不動産オーナーからは建築コストが指摘される。都内の民間建築物かつ事業用不動産に対しては、木材利用促進に繋がる補助金制度がある。今回は建築主から見た建築コストと、東京都農林水産振興財団の補助金制度を紹介する。
1~5階まで全てテナントフロア
 富士リアルティ(神奈川県藤沢市)は、藤沢市辻堂新町にて湘南地域初となる木造5階建ての中高層複合ビル「this is me」プロジェクトを進めている。竣工は2023年6月末、オープンは9月の予定だ。
 同ビルはJR東海道線「辻堂」駅北口から徒歩13分に位置する、1~5階までが木造建築の中層複合ビル。同地のショッピングモール「湘南モールフィル」の並び、かつJRの線路沿いに立地。1~5階まで全てがテナントフロアとなり、カフェや美容エステなどの来客型サービス店舗の需要を見込む。延床面積は590㎡超。国産・地域産木材を活用した純木造ビルとしては、建築規模、商業用途、高さなど様々な要素で初の試みだ。外観デザインは、地元藤沢市出身のデザイナーを起用。木と自然の融合をコンセプトとした、斬新なデザインを採用した。
 また構造には2×4(ツーバイフォー)工法を採用。過去の震災での高い耐震性と、評価の高い耐火性を考慮して採用となった。また使用する木材は、国産・地域産木材を活用。建材の約1割強に丹沢産材を使用する。建材を作るための工程を伐採地に近い場所で行うことで、CO2の発生を抑制。また建築地に近い生育地の木材は、気候・土壌耐性上、シロアリや腐朽などへの耐性が高いことが実証されている。
 現在国内では行政等により、低層及び中層建築物の木造化が徐々に広まっている。一方大規模木造建築物においては、未だ公共建築物や介護施設等に使用が限定されるケースが多い。民間レベルまでの浸透は、もう暫く先と推測される。また通常では国産木材の使用率は極めて少ないとのこと。国内の森林を活性化させるまでには至っていない。同社は前述の背景もあり、国産及び地域産木材の採用を決めた。国産及び地域産木材であれば、輸送時のCO2発生量は抑えられ、建築後の耐久性も高い。またCO2吸収効果の少ない大型の老木を建材として使用でき、吸収効果の多い若木への植え替えを促進させることにもなる。森林全体の活性化にも寄与する。
 代表取締役社長の永松秀行氏は「木造化のメリットとして、まず建築コストの削減が挙げられます。一般的なRC造の場合、施工費における坪単価はおよそ140~170万円と想定されます。しかし、木造であるとおよそ坪110万円前半となり、建築費を抑えることが可能です。またRC造の建築物よりも軽量なことから地盤深くまで杭を打つことはなく、付随して基礎工事も多少安価になります。施工費を抑えての木造ビルの建築でしたら、地上5階建てまでが好ましいと思われます。更に工期は短く、町場の工務店でも対応できることが魅力でしょう。特定免許やノウハウ等を有していれば工務店でも建築できる、地方都市や郊外でも建築しやすいことが挙げられます」と語った。
 一方建築コストを考慮する場合に注意しなければいけない点が「耐火構造」。耐火構造は、壁や床などが一定の耐火性能(通常の火災が終了するまでの間、建築物の倒壊および延焼を防止するために必要な性能)を備えた構造のこと。階数や構造部分の種類で仕様が異なり、壁・柱・床・梁(はり)・屋根・階段等での施工が定められている。耐火構造を構成する場合は、室内側へ耐火ボードを2重張りにする必要がある。しかし、2重張りは地上4階まで。木造建築では、この地上4階建てが規定のライン。地上5階建てになると、一番下の1階部分が3重張りとなる。地上6階建てなら、地上1階と2階が3重張りといった仕組みだ。3重ともなれば、施工の手間や工期、空間の確保などが発生し、当然コストも増すことになる。
 当規定から、木造とRC造・S造の複合化したハイブリッド型の建築が増えている。下層フロアをRC造・S造とし、上層階を木造とする方法などがハイブリッド型に該当する。同社としては、できる限り木材利用の多い建築方法を採用する。カーボンニュートラルや地域・地球全体からみたサスティナビリティ(維持管理性)の高さ、そして不動産オーナーでも取り組みやすいコスト面も考慮した。
 永松氏は「『this is me』はこれら課題を踏まえての、木造建築におけるより最適な中高層複合ビルの建築モデルと思われます。大手企業や学校、集合型商業施設も立地する藤沢エリアに誕生するので、注目度は高いでしょう。木造建築における中高層複合ビルの普及に繋がればと思います」と語った。

中小ビルオーナー向き 木の街並み創出事業
 東京都農林水産振興財団(東京都立川市)では、都内の民間建築物かつ事業用不動産を対象とした、木材利用促進に繋がる補助金制度を設けている。
 開始時期は2019年4月1日から。木造木質化建築物の建築促進と、全国各地の木材利用促進、森林整備の好循環へ繋げていくことを目的に開始した。木材利用の補助金制度は3つ。「中・大規模建築物の木造木質化支援事業」。「にぎわい施設で目立つ多摩産材推進事業」。「木の街並み創出事業」。特に不動産事業者へ関連ある制度は、中・大規模建築物の木造木質化支援事業と、木の街並み創出事業の2つ。
 「中・大規模建築物の木造木質化支援事業」は、中・大規模の民間建築物における設計及び工事費用において、新築または改築する者(施主)への支援事業。対象は都内に所在し、都民の目に触れることのできる事業用施設。オフィスビルや商業施設などで、住宅部分は対象外。主要構造部に国産木材を一定以上使用する、実施設計及び工事へ支援となる。補助率は建築物の実施設計(設計委託等)に係る経費の2分の1以内。補助下限額は500万円で、上限額5000万円。また建築物の工事(工事委託等)に係る経費のうち、木造木質化に係る経費の2分の1以内又は建築工事費の15%以内。補助下限額は5000万円、上限額は5億円。
 対象条件としては、以下のいずれかであること。建築物の延床面積が500㎡を超えるもの。階数が4階以上であるもの。耐火建築物または準耐火建築物であり、階数が3階以上であるもの。なおS造・RC造と木造による「混構造」の建築物では、延床面積1000㎡を超えるもの。補助額や対象条件を見るに、中小規模のビルオーナーや不動産事業者よりもデベロッパー向きの大型建築に関連する支援事業と思われる。

補助経費2分の1以内 補助上限3000万円
 中小ビルオーナーや不動産事業者向きが「木の街並み創出事業」。民間の事業用不動産において、木材施工箇所が目に触れて接することができることへの支援事業だ。建築物の外壁や外構に木材利用を進めることで、多摩産材等の普及と需要拡大を図る。補助額は、補助対象経費の2分の1以内。下限額は500万円で、上限額は3000万円。工期が年度をまたぐ事業でも申請でき、「中・大規模建築物の木造木質化支援事業」や「にぎわい施設で目立つ多摩産材推進事業」との併用も可能。既に全体または一部について契約を締結、着工していても補助金交付が認められる場合もある。
 応募条件は以下の全てを満たすこと。
1、外壁・外構(木塀、門扉、パーゴラ、ベンチ、デッキ等)に国産木材を使用していること。うち多摩産材を3割以上使用すること。
2、補助金申請額が500万円以上(補助対象経費が1000万円以上)であること。
3、一般都民の目に触れ、接することができること。
4、施設の利用者に対し、多摩産材をはじめとする国産木材利用の旨を発信すること。
5、多摩産材をはじめとする国産木材は、外壁の場合1㎡あたり0・01㎥以上(補助対象面積の3割以上が木材でおおわれていること)、外構の場合1㎡あたり0・012㎥以上使用すること。
 森の事業課長兼緑化推進室長の石城護氏は「都内にもおよそ5万haに及ぶ森林があり、内3万haはスギやヒノキです。伐ったスギ・ヒノキや間伐材の活用方法として、当制度があります。外壁や外構部分に木材を使用し、その箇所が見えることで注目や認知度を高め、木材の更なる使用に繋がればと思います。2022年度では、中・大規模は0件(2021年度に2件)。にぎわい施設が3件。木の街並みが10件申請されました。不動産事業者にはESGやカーボンニュートラル等の観点からも、積極的に活用することを勧めます」と語った。

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