不動産トピックス

【今週号の最終面記事】不動産業界 巻き起こるイノベーション

2023.04.10 10:28

オフィスは「賃貸」に加え「利用」の時代に 3年後に2300億円規模のブルーオーシャン
企画から集客、運営まで提供 仲介・管理会社との連携目指す
 不動産業界では、ベンチャー企業やスタートアップが新しいビジネスモデルの開拓や新アイディアの創出を積極的に行い、業界全体の活性化に貢献している。従来の賃貸や管理手法から効率化・収益化を実現する新しい取り組みは、これからの時代のスタンダードとなる可能性を秘めている。不動産業界でイノベーションを起こそうという企業を紹介したい。

オーナー側の初期費用0円 フレキシブルオフィスで空室解消
 2020年1月に創業したスタートアップ企業・タチヨリ(東京都港区)は、「オフィスの敷居をなくす」というサービス理念のもと、従来の賃貸契約とフレキシブルオフィスの利点を両立した空室活用策を不動産オーナーに対し提案している。
 テレワークの普及拡大によって、一部の企業では余剰となったオフィス床を返却、縮小する動きが続いている。一方、東京都心で大量の新規供給が予定されている「2023年問題」のように、都市部では今後も新築ビルの建設が継続。新築ビルへの移転に伴う二次空室の増加によって、既存ビルでは従来の賃貸契約での空室解消が困難な物件が今後ますます増加するものと予測される。他方、機動的なビジネス活動をサポートするフレキシブルオフィスの存在感は日増しに高まっており、その市場規模は2020年の800億円から2026年には2300億円程度と、約3倍に拡大すると予測されている。タチヨリでは需要が拡大するフレキシブルオフィス市場に着目し、これまでにない新しいスキームでのサービス提案を展開している。
 ビルの空室を活用してフレキシブルオフィスを開設する場合、内装工事費はオーナーが負担するのが一般的である。大きな負担となる初期コストを、タチヨリでは0円でオーナーに対し提案。空間の企画から設計、施工の実施、集客からオペレーション企画まで、ワンストップで同社が手掛ける。従来の賃貸契約からフレキシブルオフィスへ移行することにより、従来以上の収益達成を目指すというのが同社のビジネスモデルだ。甲賀太一社長は「弊社が利用企業様の誘致を行い、稼働の目途がついた段階でオーナー様に投資判断をしていただきます。そのため、稼働初月から安定した収益を実現することが可能で、案件により上下しますが、初期工事費の回収期間は6カ月程度を設定しています」と話す。
 同社サービスの特徴は、契約期間・価格・立地・品質の4点。従来の賃貸契約は24カ月間が一般的だが、同社が提供するフレキシブルオフィスは契約期間が12カ月。成長スピードが早いスタートアップの事業拡大にも柔軟に対応する。また、価格は他社のフレキシブルオフィスに比べ非常に安価で、甲賀氏は「利用企業様側はキャッシュフロー改善と同時に、利用企業側はコスト削減の実現が可能、利用企業様にとってもメリットの大きなサービスです」と述べる。室内は会議室、専有デスク空間、プライベートオフィス空間(3部屋以上)と、各拠点の品質を統一。現在は東京23区内の6エリアで拠点を展開しており、「1年後には50拠点、2年後には200拠点を目指しています」と甲賀氏は話す。同社は今後、不動産仲介会社や不動産管理会社との連携を強化しながら、同社サービスを導入するビルを増やしていく考えだ。
 働き方に多様性が生まれているように、働く場にも多様性が求められている。これまでの「賃貸」という考え方に加えて、オフィスは「利用」という視点でサービス提供する時代へ突入したといえる。

「不動産テック」推進にも悪影響?社内にIT人材「いない」7割
 不動産ビジネスの様々な場面でデジタル技術を活用しようという「不動産テック」の動きは、コロナ禍においてより鮮明となってきた。しかし、この不動産テックの更なる推進には技術者の人材育成が大きな課題といえそうだ。
 全研本社(東京都新宿区)が実施した日本企業の経営者を対象としたアンケート調査によると、IT(情報通信)人材が社内に「いない」と回答した人が7割にのぼった。国内の人材不足や人材育成が難しいことから、多くの企業が十分にIT人材を確保できていない状況が浮き彫りとなった。
 不動産業界ではITの活用で、不動産売買や賃貸、投資に関わる新しい仕組みを生み出したり、生産性を高めたりする「不動産テック」の動きが強まりつつある。しかし、経済産業省によると2030年に国内のIT人材は最大で79万人不足する見通し。少子・高齢化や社会のデジタル化が進むなか、不動産関連企業やビル経営者にとっては有能な人材の獲得が課題となりそうだ。
 調査は全研本社が中小企業の経営者を対象に2月24~26日に実施し、200件の回答を得た。回答した企業の業種は、運輸など物流関連のほか金融・保険、建設業、製造、卸売・小売、不動産、サービス、情報通信、宿泊など。
 アンケートでは「社内にIT人材がいるか」との質問に対して「いない」との回答が70%を占めた。一方で「いる」と答えた人は30%にとどまった。「自社のIT人材が不足していると思うか」との質問に対しては「はい」が37・5%、「どちらともいえない」が23%だった。「いいえ」との回答も39・5%あった。
 「自社のIT人材が不足している」と回答した経営者に理由を聞いたところ、最も多かった回答は「社員をIT人材に育成することが難しいから」で58・7%(複数回答)にのぼった。続いて「IT人材が採用できないから」が46・7%、「国内のIT人材の絶対数が少ないから」が28%に達し、上位を占めた。「IT人材の離職数が多いから」との回答も10・7%あった。
 「IT人材にどんな業務を任せたいか」との質問に対しては「セキュリティ管理」との回答が最も多く、37%に達した(複数回答)。情報システムの停止による損失や顧客情報の漏洩(ろうえい)による企業や組織のブランドイメージの失墜など、情報セキュリティ上のリスクが高まっていることが背景にあるとみられる。

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