不動産トピックス

【今週号の最終面特集】スペースシェアリング最前線

2023.01.23 10:42

スペースシェアでビルに新たな価値 ローコスト・ゼロコストによる収益化を実現
 情報通信総合研究所が発表する「シェアリングエコノミー関連調査」によると、2021年度のシェアエコ市場規模は2兆4198億円。今後は更に市場の拡大が見込まれる。昨今は、若者世代のシェアリングへの理解の深化やオフィスのスモール化を背景に、スペースシェアの新しいサービスが誕生している。

飲食テナントの個性を踏襲 1棟丸ごとシェアスペースに
 プラットフォーム「スペースマーケット」を運営するスペースマーケット(東京都渋谷区)と東京建物(東京都中央区)は先月1日、シェアスペースビル「Scrum六本木(スクラム六本木)」を開業した。
 「Scrum六本木」は、東京建物が保有する地上5階建ての「六本木HPビル」に入居する。アクセスは東京メトロ・都営地下鉄「六本木」駅徒歩1分。従前はフグ料理店を経営する事業者が天ぷら、懐石料理屋、バーといった異業種の店舗を各フロアに構えていたが、コロナ禍で退去。ビルの仕様上事務所用途でのテナント募集が難しく、善後策として試みたのが、今回の1棟丸ごとシェアスペースビルだ。
 東京建物の都市開発事業第二部 事業推進1グループ主任の谷口元祐氏は、「飲食テナントの退去に伴い、オフィスの誘致を検討しました。ですが、飲食店仕様になっていてコンバージョンが難しいこと、フロアごとのエントランスがなくセキュリティ面で不安に思う方が多いことから、別の用途がないかと試行錯誤の結果、以前から業務提携をしていたスペースマーケット様にご相談し、1棟を活用したシェアスペースビルへの転換を実験的に行いました」と話す。  「Scrum六本木」では全フロア、異なるテイストの部屋を設えた。1階は「S-Studio六本木(エススタジオ六本木)」。スタジオ内をさらに白と黒の2室に分け、ロココ調のソファやベッド、高級感あふれる雑貨を配置している。Youtubeなどの撮影、インタビュー収録などにうってつけだ。2階は「Oasis六本木」。巨大スクリーンやカラオケを備え、女子会やスポーツ鑑賞会などのパーティに適した空間を作り上げている。4階の「Omotenashi六本木」は和室仕様、5階の「Bricks Parlor六本木」ではバー風のカウンターでダーツが楽しめる。広さはそれぞれ35~44m2。バラエティに富んだ部屋を設えることができたのは、多様な飲食店が入居していた強みと言える。
 スペースマーケットのプラットフォームグロースグループPRの伊藤亜美奈氏は、「内装のほとんどは、以前のテナントのものを引き継いでいます。例えばキッチン。全フロアに従前のキッチン設備を残したことで、料理パーティの利用ニーズもかなえられました。4階の和室スペースの畳や壁面装飾は、懐石料理店時代のものをそのまま活用しています。エレベーター内には各部屋のPOPを掲示し再来館を促すなど、1棟すべてをシェアスペースとすることで、リピーターの取り込みにも期待できます」と話す。
 コロナ禍で苦境に立たされた飲食店舗は少なくない。その中で新たに見出したシェアスペースビルのニーズ。「Scrum六本木」は従前テナントの内装を活用し、安価にコンバージョンを実現した好事例といえる。商業ビルの今後のリーシングのヒントになりそうだ。

募集期間だけ貸し会議室に コストゼロで空室を収益化
 オフィスの空室期間を活用した、オーナー向けの収益化サービスも台頭する。
 スペースシェアリング事業を営むあどばる(東京都渋谷区)は、2021年10月より、貸し会議室運営サービスの「スキマレンタル」を行っている。
 あどばるは2008年に設立。サブリース事業を主軸に、60拠点以上のレンタルスペースの多様な運営、レンタルスペース検索サイトの「スぺなび」。業界初の会議室のサブスクサービス「Office Ticket」まで、スペースマネジメント事業の企画・運営を展開している。
 スキマレンタルは、コロナ禍でのスペース需要減少における新たな一手としてはじめたサービス。リーシングに悩むビルオーナーなどを対象に、空室期間を一時的に貸し会議室として運営する。あどばるとオーナーは一時使用賃貸借契約を締結。基本的には3カ月ごとの契約だが、オーナーは次のテナントが決まり次第、解約することができる。賃借料や立退料も一切発生しない。会議室に配置するデスクやチェアの調達、集客、運営・管理からインターネット工事もすべてあどばる側が担う。オーナーはコストや運営の負担を負うことなく、空室の収益化を図ることができる。
 スペースマネジメント事業部の中村一隆氏は「スキマレンタルは売上歩合制で、収益の約50%をフィーとして当社側が頂くスキームとなります。当社の培ってきたノウハウをもとに、立地やビルのポテンシャルからどのくらいの収益が見込めるのかシミュレーションを行い、適正な賃料を設定しています。おしなべてみると、大半の拠点で募集賃料の半分程度を回収できています。中には50万円で募集していたテナント区画が、貸し会議室にしてから月70万円の収益化に成功している例もあります」と話す。
 スキマレンタルは首都圏を中心に、100以上まで拠点数を伸ばしている。昨今は名古屋や大阪といった地方都市からの引き合いも目立つという。一時利用賃貸借契約の特性から、建替えや取り壊しの決まっているビルのテナント退去後に、収益化を図ることも可能だ。
 ハイブリッドな働き方が浸透する昨今のオフィスでは、規模縮小やフリーアドレスがトレンド化しつつある。特に中小企業では、縮小に伴い会議スペースをなくすケースも少なくない。こうした時流を背景に、貸し会議室への需要がさらに高まっていくと中村氏は分析する。
 「コロナ禍で、オンライン会議のために貸し会議室を利用するケースが急増しました。現在はコロナ禍が落ち着き、オフラインの需要が戻ってきています。スモールオフィス化が進むと同時に、スペースシェアの概念の浸透も感じています。当社のサブスクサービスとも連動し、今後は数年で500拠点まで増やしていきたいと考えています」(中村氏)。
 時代の変化とともに、シェアリングエコノミーの市場はさらに拡大を続けている。この傾向は、ビル経営にとって大きな転換点となるかもしれない。


Z世代のシェアリング需要が今後の鍵
スペースマーケット プラットフォームグロースグループPR 伊藤亜美奈氏
 「Scrum六本木」は駅から徒歩1分と好立地で、若い世代の方々に使っていただくことを期待しています。現時点では、女子会利用や学生・社会人2~3年目のビジネスマンの方などが利用されている状況です。当社が運営するほかのスペースでも、25~35歳の若者世代が利用者のボリューム層になります。Z世代は、シェアリングに対してあまり抵抗感を持っていないと捉えています。シェアリングエコノミー市場の拡大に伴い、業界のさらなる成長に期待しています。

既存物件の利活用も都市開発の一環
東京建物 都市開発事業第二部 事業推進1グループ 主任 谷口元祐氏
 「Scrum六本木」が開業して1カ月が経ちました。ビルの前を通ると若い人が出入りする様子が見られ、稼働の良好さを感じています。都心では再開発などビルの老朽化への対応が進んでいますが、古い建物も利活用していかないと、いずれ廃墟となってしまう懸念もぬぐえません。これまでは、何十年という長期で入居できる賃貸ビルが主流でした。これからは、新しい様式のビルも求められてくるのではないかと感じています。

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