不動産トピックス

【今週号の最終面特集】まちの活力呼び起こす 地方の不動産活用

2022.12.12 10:33

都心でのビジネスに「地方」という選択肢 自然を身近に感じながら働く場提供
フレキシブルオフィスの需要増 地方の空き家問題解消の一手に

 東京一極集中が社会課題とされている中、地方ではその土地の魅力や特色を生かしたまちづくりが展開されている。人々の集う場である不動産も街を盛り上げる装置として有効に活用される場面が増えており、観光だけでなくビジネスの視点でも活用の幅が広がってきた。
手軽にワーケーション プラットフォームを運営
 時代の流れを映し出す企業が増えている。AnyWhere(東京都武蔵野市)なども、そんな一社。2020年11月から、ワークプレイスプラットフォーム「TeamPlace」を運営している。その数、現在700カ所超。「ワーケーションエリア」「ワークプレイス」の情報を紹介するプラットフォームの作成・展開が主体。「地域活性化の一翼を担っている」とする。
 背景には、改めるまでもないだろうが「働き方改革」がある。コロナ禍を契機に、従来の企業オフィス以外の「働く空間」が全国的に増えている。
 ザイマックス不動産総合研究所(東京都港区)の「フレキシブルオフィス市場調査2021」(2021年2月発表)では「レンタルオフィス」「シェアオフィス」「サービスオフィス」「サテライトオフィス」「コワーキングオフィス」等が、東京23区内だけでも135カ所増加している。またコワーキングスペース協会の調査では、全国に1400カ所超のコワーキングスペースが存在しているという。6月に閣議決定された「新しい資本主義 グランドデザイン」でもこうした動向が、地方が直面する課題を解決する「鍵」としている。
 AnyWhereではTeamPlaceを介した、緻密なプロモーションに踏み出した。「信州リゾートテレワーク」の特設機能。長野県の企画担当と、活用企業との間で緻密に設営された枠組みは、こんな風に活用できる。
(1)エリア名:上田市・軽井沢町・白馬町など30の市町村から(複数)選択が可能。
(2)施設名で検索できる:例えば「信濃町の会議室」と条件を提示(入力)すれば、該当施設が容易に見つけられる。
(3)目的・設備からの検索が可:「貸し切りスペース」「個室/フォンブース」「ドロップイン可」「防犯カメラ設置」等々の条件の中から、複数の「レ点」入れが可能。
といった具合に第1弾の信州プロモーションで見る限り、いわゆる「ワーケーション」の場が選べる。
 ワーケーションに疑問を抱く指摘が聞かれるのも事実。これまでワーケーションが導入された企業は、いずれも大企業。企業間の「格差社会」が生まれるという懸念があるからだ。AnyWhereの広報担当者にストレートに疑問をぶつけてみた。
 「当社のビジョン『世界中の誰もが、どこでも豊かに働き生きられる社会へ』実現のワンステップと認識しています」とした上で、こう続けた。「信州に続いて目下、4県で調整を進めています。そしてもっと気軽に企業、個人が新しい仕組みを導入しやすいようにTeamPlaceの機能を活用して、就業場所、就業中かどうかを個人が簡単に報告し企業として簡易に管理把握できる仕組みを開発中です」
 同社の展開を見守りたい。

地方での不動産取得 特性生かす再生方法
 東京都および千葉県で不動産事業を展開するLink(東京都墨田区)は、地方都市での収益物件の取得と再生事業に取り組んでいる。千葉市中央区に所有する「Link千葉北口ビル」は、1989年竣工で地上5階建て。「千葉」駅から徒歩圏内と立地は申し分ないが、築年数が経過してきたことに加え、コロナ禍による飲食テナントの撤退により、競争力の低下が課題となっていた。一方でリモートワークの普及で都心への通勤需要が縮小傾向にあり、郊外で「働く」と「暮らす」を両立できる場所へのニーズが高まっていたことから、同社はSOHOへのリノベーションを決断した。リノベーションのテーマは「都市の暮らし」。室内は温かみのある空間をイメージし、内装の自由度を高めた。また、共用部は壁のカラーリングに白を基調としながらワンポイントで寒色を取り入れるなど、シャープな印象を与える空間を演出している。
 「2019年に当社が物件を取得した時点では稼働率は100%でした。しかし、その後のコロナ禍によって飲食を中心にテナントが撤退し、一時は稼働率が50%を割り込む状況となっていました。一方で、周辺では『自宅近くの仕事ができる場所』を求めてコワーキングスペースや時間貸しのサービスオフィスに人気が集まっていました。当物件でも先行して入居した方の意見も参考にしながら、水回り設備の配置や内装デザインを部屋ごとに変化させました」(田代氏)
 今年8月には、千葉県富津市内の築50年超の古民家を取得。田代氏はワーケーションとして利用できる施設へのリノベーションを企画し、設計から工事まで携わってきた。
 「物件はJR『上総湊』駅より車で15分ほどの高台に位置し、2019年に空き家となっていたところ、知人の不動産業者を通じて取得しました。建物の状態は比較的良く、ワーケーションでの利用を想定したWi―Fi環境の整備は部屋割りの変更などを行い、10月より告知を展開しています」(田代氏)
 千葉県富津市は東京湾に面した県南西部に位置し、東京湾アクアラインを利用して都内から1時間余りでアクセスが可能。自然が豊富で、海水浴やハイキングなど、レジャー・観光客に人気のスポットである。一方で市内の少子高齢化は加速しており、現在の人口は約4万人と減少傾向が続いている状況である。田代氏も物件の内見の折に現地を訪れ、海沿いの一部地域では工業が盛んでありながら、10代を中心とする若年層の姿を見る機会が少なく、「近隣の木更津市や君津市へ通学する学生が多く、休日に家族で買い物するにも近隣の街やアクアラインを利用して東京方面に流れている印象」と述べる。
 そこで、子育て世代が子育てをしながら仕事もできる場所を提供することをコンセプトに古民家リノベーションを企画。1階は玄関から居間、執務スペース、寝室など各部屋に通じる廊下のバリアフリー化工事を行い、段差をなくすとともに、敷地内の庭には子どもの成長に合わせて自由に利用できる芝生スペースも用意した。
 「当初はシーズン単位での貸し出しを想定していましたが、長期入居を希望する声が比較的多いことから、2年更新の普通賃貸借契約を採用し、募集開始から2週間で入居者が決定。11月から入居を開始しています」(田代氏)
 同氏によれば、入居したのは都内のIT関連企業に勤める20代の夫婦で、生後1年未満の子どもを持つ家庭とのこと。育児休暇も活用しながらリモートワークで富津での暮らしを満喫しているということだ。都心では得られない価値を提供できる面に、地方の不動産の生き残るヒントが隠されている。

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