不動産トピックス

【今週号の最終面記事】地方都市・郊外ならではのビル経営

2022.09.26 11:03

収益確保・負担軽減で魅力形成に
空き区画の転貸、小スペースでの貸し出し
 都心の一等地に立地するビルと違い、地方都市や郊外に建つビルでは、リーシングやビル経営での戦略に違いが出る。より一層、創意工夫が必要となるのだが、実は都心のビルにも通じる付加価値の形成や高稼働への秘策が垣間見える。今回は仙台に焦点を当てて事例を紹介する。

「借りながら貸せる」転貸可能な複合施設
 エコラ(仙台市青葉区)は、既存の分譲住宅やマンション、アパート、テナントビルなどのリノベーション及びリフォーム事業を展開する。ビルの1棟まるごとリノベーションも実施し、様々な施策を打ち出している。
 リノベーション事例にシェア型複合施設「TNER(トナー)」がある。「借りながら貸せる」賃貸がコンセプトのオフィス・アパート・店舗・レンタルスペースの複合施設。地下鉄南北線「北四番町」駅から徒歩3分に位置。1982年3月竣工・地上10階の既存ビルを20年3月にリノベーション。改修後はオフィス6区画、固定ブース13区画、フリーデスク15席、アパートメント25戸の物件へ。テナント区画やオフィスに該当するのは2~4階。2階はミーティングスペースやカフェが構築され、3階にはフリーデスク・固定デスク・オフィス。4階は小割のオフィスとなった。

副業や独立前の利用想定 業務用のキッチン構築
 注目すべき点は賃借人が借りた区画において、使用していない時間を他人に貸し出しできること。空き時間のオフィスを他の人に貸すことで賃借人の収益に繋がる。例えば、契約したオフィスの空き時間を時間単位で外部へ貸し出し。数時間未使用であったオフィスの有効活用となる。また平日利用で契約した固定デスクを、週末だけ利用したい人に提供。こちらも空きデスクの有効活用に繋がる。ちなみにオフィス内にはシャワー、バス、トイレ、バルコニーの付いた部屋もある。どれも転貸を想定して構築。オフィス内に分けて使える空間があるため「週末だけ本業とは異なるビジネスを試す」といった使い方も可能だ。
 また2階にレンタルキッチン、3階にシェアキッチンを用意。レンタルキッチンでは営業許可を得た菓子製造、飲食店営業ができ、テイクアウト・イートイン・販売等が可能だ。副業として、また独立前のスタートアップ利用を想定して構築した。これは先に行った、住居・オフィス複合ビルのトータルリノベーション「THE6」が関連する。「THE6」は1980年竣工・地上6階地下1階のビルを取得し、大規模なリノベーション(コンバージョンも含む)を実施。新たにビジネスの創出や利用者同士の交流が可能なシェアオフィスとコワーキングスペースを構築した。このコワーキング内にシェア用のキッチンを構築したのだが、利用者の中から「業務用のキッチンもあったら利用したい」との声があった。その様なニーズも拾い上げ、「TNER」に生かしている。
 代表取締役の百田好徳氏は「3棟目の事例に『Blank(ブランク)』があります。築46年・地上11階建ての分譲マンションを用途変更し、SOHO&アパートメント、ホテル、ワークスペース、シェアラウンジ、地域に開いたカフェやイベントスペースからなる複合施設へ1棟丸ごとコンバージョンしました。2階はシェアラウンジ・ワークスペース・会議室・シェアキッチン・ランドリー・シャワールームと多様な機能で構成され、様々な需要に応えることが可能です」とのこと。
 双方の事例は、地方都市や郊外にテナントビルを保有するオーナーにも関連する。地方都市や郊外型のビルでは都市部と同等の力強いオフィス需要は難しく、来客型のサービス店舗や小区画のオフィス需要が中心となりやすい。地域によっては商圏エリアも駅から徒歩数分で、入居の問い合わせ件数も限られる。アパートメントといった住居需要も吸い上げながら、テナントビルとしても機能。かつ多様な面でのシェア型で、常に交流や新規ユーザーの確保にも繋がる付加価値づくりがカギと思われる。

1.5~2坪のスペース 店舗区画として貸し出し
 「仙台」駅西口すぐに「ヒューモスファイヴ」を保有する地元ビルオーナーのヒューモス(仙台市青葉区)。地下鉄南北線「泉中央」駅真上の駅ビル「SWING(スウィング)」も同社保有の物件だ。
 「SWING」は駅直結のアクセス性に加え、飲食店・物販店をはじめ、オフィスや貸会議室、レンタルオフィスなどが集積する複合ビル。近隣住民の交流の場として親しまれている泉中央のシンボリックなビルでもある。開業は1992年9月。地上6階建て・延床面積は約1万3300㎡。同地では大型の複合ビルとなるのだが一般的なテナント賃貸業だけでなく、同社では様々な施策や取り組みを行っている。その中の1つが「ステップショップ」だ。
 ステップショップは10年以上も継続している取り組みで、1・5~2坪のスペースを店舗区画として貸し出すサービス(現在は終了)。契約期間は最短3カ月。期間中は自身の店舗を運営しながら商品の販売やサービスの宣伝ができる。そもそも起業となるとハードルは高く(敷金や原状回復の負担もハードルを上げる要因なので、ステップショップは敷金、礼金、原状回復はナシ)、試験的にビジネスを始めたくても簡単に借りることのできる物件・貸室は少ない。ビジネス色を出すのではなく「趣味の範囲で店舗を行いたい」といった人もいる。その様な人を対象にステップショップは広がり、特に口コミ等で効果を発揮。地元に根付く店舗の育成や同地ならではの出店にも繋がっている。
 来館者からも反響が良い。短期出店や定期的に店舗の入れ替わりが行われると、テナントの顔ぶれに「飽き」を感じにくくなる。新たな店舗との出会いにも繋がり、店舗経営者と直接コンタクトできるため親密になりやすい。実際、店舗経営者によっては固定ファンが着くことも。ケースによっては、後に入居へと繋がるテナント育成の場になることも考えられる。

実際にステップアップしテナントでの出店事例も
 ちなみにネーミングは、ステップアップするためのショップという意味。実際にステップアップしてスウィングにテナントとして正式に出店したケースもある。同サービスは終了したが、経験から数坪の小さな貸室のニーズがあることを把握。現在は数坪の店舗やオフィスを展開し、好評を得ている。前述の取り組みもその後拡大する人がいる。区画を小さくすることで間口を広げ、その後業容拡大。と共に増床してもらい、「ゆくゆくは100坪規模のテナントになってもらえれば」との思いもある。
 宮城裕充社長は「駅前広場での『イズミマルシェ』やビル内吹き抜けの空間を活用したイベント等も開催しています。テナントの認知度向上に繋がり、ビルへ多くの人を集めるきっかけにもなります。農業協同組合(JA)と協力しての直販サービスも行っており、来館者・消費者と経営者・生産者を繋ぐ場づくりにも寄与できたと思います」と語った。

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