不動産トピックス

【今週号の最終面記事】メタバースが描く未来 不動産ビジネスと融合

2022.07.11 10:16

内覧や店舗体験で活用模索 コロナ禍の交流ツールとしての期待も
 不動産業界でにわかに注目を集めている「メタバース」。これまでゲームをするだけだった仮想空間。今ではゲーム上のアイテムや仮想空間上の土地なども売買される。そこでの収益はリアルマネーに換金することができるようになっている。日本の不動産業界でも内見をオンラインからメタバースに転換したり、商業施設における活用も行われ始めている。ベンチャーは仮想空間の土地売買や、現実とリンクしたバーチャル街づくりなどに参入する。先行事例をつくることができるか注目される。

デベロッパー活用を模索
 世界でメタバースの可能性を探る動きが続く。Facebookの運営企業が社名を「Meta」と変更し、「ソーシャルメタバース企業」としての事業展開をミッションに据える。海外の不動産会社もメタバースでのビジネス活用を探る動きが活発化している。
 国内の大手デベロッパーも活用に向けて動き始めた。
 大和ハウスグループ5社は、5月オープンの「LiveStyle Shopつくば」内にメタバース住宅展示場が体験できる「LiveStyle Dsign(リブスタイルデザイン)ゾーン」を開設した。仮想空間のなかで実際の住宅展示場の室内を見学しているような体験ができ、目線の高さや壁紙・天井の色や素材、インテリアなども理想に合わせて切り替えることができる。「LiveStyle PARTNER」の登録者限定で公開していた仮想空間を、実店舗にて体験できるようにした。
 三井不動産(東京都中央区)は3月にドコモと協業。小売り向けの新たなサービス提供方法の「RaaS(Retail as a Service)」の一環としてリアルとメタバースの両方の空間でブランド体験ができるようにした。具体的には、店舗をメタバース空間で再現し、アバターを自由に動かして商品探しや解説映像の視聴、非現実ならではの演出を楽しみながら商品理解を深められるようにした。三菱地所(東京都千代田区)はメタバース上にオペラハウスを建設するプロジェクトに協賛している。リアルとの融合も図られるようだ。

先行するベンチャー 成功事例創出が鍵
 この分野で先行するのは、フットワークの軽いベンチャー企業だ。メタバース不動産(東京都港区)は「Metarim島」プロジェクトを進めている。仮想の島を開発していき、実際の店舗やオフィスを誘致していく。ここで展開される仮想通貨「RIM」は海外の仮想通貨取引所への上場を予定している。
 仮想空間のオフィスは先行事例もある。バーチャルオフィス「oVice(オヴィス)」は国内で一定の認知度がある。導入企業者数は4月現在で「約2000社」だ。「メタリム島」で展開されようとしている「メタバースオフィス」は働くだけでなく企業のブランディングに資するものとして展開されていく予定だ。
 代表取締役の森俊哉氏は「メタバース空間の課題はイベント時に多くの人が集まるが、通常の日は閑散としていること」と指摘。「メタリム島」では「イベントがない日でも多くの人が歩いている空間となる」仕掛けを考える。
 業界のコミュケーションツールとしてメタバースを活用するのが、ワンウェーブ(神奈川県海老名市)。代表取締役の原匠氏は「オンラインゲームで不動産業界関係者と知り合い、仕事につながったことがきっかけになった」と明かす。コミュニティでは業界関係者や顧客などを集める。同社では仮想空間の土地売買の参入も検討する。
 こういった仮想空間の土地売買事業への不動産会社の参入は少数だが、事業内容に明記しているケースも見受けられる。「不動産業の新たな収益の柱になりうる」と期待する向きもある。
 模索が進む「不動産×メタバース」。ただ、ある業界関係者は「メタバースを活用することで収益をどのように出していくかが課題だ」と指摘する。現在のところ明確な成功事例はなくモデルケースもない。大手にとっては動きにくい状況だ。そのなかでベンチャー企業や異業種がモデルとなる事例をつくっていけるか。今後メタバースが拡大・普及していくポイントとなる。


仮想の島「メタリム島」計画 ECやデリバリーと連動も
メタバース不動産 代表取締役 森俊哉氏
 最初に「メタリム島」を着想したのは2011年頃でした。当時、ビットコインやリップルなどの暗号資産や「セカンドライフ」を知って、「今後、リアルの不動産に近い『バーチャルシティ』の時代が来る」と考えるようになりました。その後、プロジェクトの第一弾として実在するマンションのブロックチェーン化構想を立ち上げました。これは仮想通貨「RIM」を購入して頂いた方がRIMデビットカードでホテルのキーカードのようにマンションのドアを開閉したり、家賃の引き落としをRIMでできるようにするものです。またRIMを6カ月以上保有して寄付RIMを受け取れたり、別会社で展開している室内分散型非常用電源の水発電機を各部屋に設置する、というものでした。当時仮想通貨価格が全体的に下落基調で実現には至っていませんでしたが、引き合いもいただいてきました。そして今年1月に発表した第二弾の構想では「メタリム島」という仮想の島を森林から土地開発していく計画です。そこに商業ビルや施設などを建設し、テナントには現実に営業している路面店を誘致します。ひとつは飲食店です。今後建設する「バーチャルうまい門通り商店街」へ出店して頂き、来訪者はWEBカメラを設置した実在する店舗内を見たり、店員とコミュニケーションができるシステムを整えることでリアル店舗への来店を促します。またECやデリバリーとの連携も進めていきたいと考えています。この「メタリム島」の土地は1区画100坪を10万円から販売し、伐採と宅地造成を行うと建築が可能となります。その後にテナントの誘致していくことが可能となります。また現在すべての事業主にメタバースオフィスを構築し、AIを導入した受付嬢アバターによる自動来客応対サービスを導入していただき、その動画をホームページのトップ画面で見られるようにする営業展開を始めています。

業界コミュニティを8月始動 仮想空間の土地売買事業も視野
サンウェーブ 代表取締役 原匠氏
 当社は神奈川県内で不動産仲介事業を展開しています。メタバースにはコロナ禍を経験する中で注目してきました。ここ2年ほどは感染症予防の観点から非接触・非対面が中心となり、仲介業を展開する立場として先を見据えると、厳しい状況も見据えておりました。その一方で新しい発見もありました。オンラインゲームのプレイヤーと話をするなかで、たまたま不動産業界関係者と出会い、その方とは現実世界でも仕事を一緒にさせていただくなどの成果につながっています。そして、このような業界人同士やお客様を含めたコミュニティをメタバース内でつくっていきたいと考えています。コミュニティを構築する空間は、8月末に公開されるMMORPG(大規模多人数参加型オンラインRPG)『元素騎士オンライン』内となり、将来的には仮想空間内の土地売買の仲介などにも参入していきたいと考えています。

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