不動産トピックス

【今週号の最終面記事】不動産×SDGs

2022.04.18 11:34

取り組みは中小事業者にも広がり
地元に根付くからこそのシナジーも
 ESGやSDGsは不動産業界でも取り組まれている。これまでは上場する大手デベロッパーなどは先行してきたが、最近では中小の不動産会社なども独自の取り組みを進めている。

きっかけは数十年前から 不動産業の新しい道構築
 ユニバーサル・リアルティ(東京都武蔵野市)は物件の賃貸・売買仲介や管理、また沖縄軍用地投資のコンサルティングなどを展開している。これらの事業と並行して、SDGs活動にも積極的な取り組みを見せている。
 同社は2020年10月に会社設立。代表取締役社長の玉岡一央氏はアパレル業界からキャリアをスタートさせ、大手不動産会社グループの仲介企業に転職。在職18年の間で優秀な業績を収め、最速で営業リーダーへの昇格も遂げた。その後、独立して現在に至っている。
 玉岡氏は独立した当初から「社会へ貢献していきたい」という想いが強かったようだ。そのルーツは少年時代のエピソードにまでさかのぼる。
 「父は戦後に吉祥寺のハモニカ横丁で焼鳥屋を経営していました。焼鳥の種類のなかでレバーは人気の部位のひとつです。当時、レバ刺しを提供していたのですが、生ものなので足が早い。そこで父が行っていたのは、少し日にちが経過するとレバ刺しを焼鳥にして、さらに時間が経過すると煮込みにするというものでした。父としては大事な食材を無駄にしない、という想いがあったのだと思いますが、今から考えてみれば『SDGs』のひとつだったと思います」
 またアパレル時代でもこんなエピソードがある。海外のアパレルブランドの買い付けのため渡米。その時に出会ったメーカーがパタゴニアだ。90年代よりペットボトルから再生したポリエステルを素材にしたフリースやオーガニック・コットンを使用しており、現在ではアパレル業界のサステナビリティ先進企業と言われる。このような企業と出会い、その先進的な事業活動に触れたことも刺激となっている。
 不動産業の将来性に対する不安もあるようだ。日本は人口減少を続けており2050年には1億人を割り込むことが予想されている。新規出生数も伸びず、2021年まで6年連続で過去最少を更新する事態となっている。これに加えてDX化も進む。「これまで通りの仲介業や管理業を続けていくだけでは、中長期的には資本力のある大手や中堅に呑み込まれるのではないか」と危機感を募らせる。
 「不動産業は地域に根付いてビジネスをしていることから、様々な情報のハブとなっていくことができます。このような特性にSDGsを取り入れていくことで、社会貢献になるとともに事業のチャンスにもなっていくのではないか。当社では事業上のメリットもあると見て、SDGsに積極的に取り組んでいくことになりました」(玉岡氏)
 具体的にはどのようなことに取り組んでいるか。そのメニューは非常に幅広い。
 例えばソフトバンクの社内ベンチャー制度から生まれた「HELLO CYCLING」(OpenStreet運営)。シェアサイクルのプラットフォーム事業を展開し、ユーザーは参画する企業のシェアサイクルサービスであればいずれも利用できる仕組み。ステーションとなる用地も登録することが可能だ。事業パートナーとして、狭小地や変形地、不整形地や駅から距離がある土地などで活用ができていない地主に対して、活用の提案を行っている。
 不動産業界で注目されるスタートアップ「COSOJI」とも連携する。マンション・アパート共用部の清掃業務を、近所で働きたい人とマッチングするサービス。短時間の就業ニーズを持つ地域住民や清掃コストを削減したいオーナーにとってメリットが高い。
 ほかにも遊休不動産の所有者とそれを有効活用したい人をつなぐ「家いちば」や、不要になった服を回収しリサイクルされた素材から新たな服をつくる「BRING」なども行っている。また、日本の海洋環境保護に取り組む「SurfRiderFoundation」へ寄付により活動支援を行っている。
 独自の取り組みも行う。4月1日より「吉祥寺」駅公園口を出てすぐの場所に立地する商業ビル内に開設した「まなびLabo」。玉岡氏自身が仲介した居酒屋店舗の営業時間外である日中の時間を利用する。ここを場所として選んだ理由には、万全の感染症対策を実施しているからだ。玉岡氏は「それぞれがテーブル席となっていまして、通路にはエアカーテンが敷かれています。また席ごとに光触媒コーティングがされています。コロナ禍のなかでも安心安全な環境が整っています」と紹介する。
 「まなびLabo」は地域のイベント会場としてやコワーキングスペース、ポップアップストアや交流会など様々な用途で利用することができる。イベントは子どもを中心に誰もが楽しめるイベントを開催していく。直近の4月10日にはキックボクサーとして活躍する小笠原兄弟が駄菓子屋を行う、「駄菓子屋小笠原兄弟」を行った。将来的にはこども食堂やフードロス対策などのイベントや取り組みも行っていく考えだ。

気軽なSDGs実践する場所に
 玉岡氏はSDGsを軸にしたコミュニティ形成が「より良い地域づくりが可能になるとともに、そこに根付く不動産事業者にとっての将来のビジネスモデルになる」と考えている。
 「不動産をはじめとした地域の様々な課題を解決したり、人と人をつなげていくコンサルティングができるのではと考えています。たとえば、家族経営を行っている会社で後継者が不在という問題は多くあります。プラットフォームとして機能すれば、こういった課題にも解決の糸口が見つかるでしょう」(玉岡氏)
 SDGs活動は、ボランティア活動同様、参入しづらいところもある。そういった人も気軽に参加できるように、YouTubeコンテンツの拡充や執筆活動なども行っている。
 不動産業界でこのような取り組みを行っている事業者は、中小規模では少ないのが現状だ。玉岡氏は自社での取り組みをさらに深化させていくとともに、関心のある不動産業者にはノウハウを伝えるなどして、横展開のネットワークも広げていこうとしている。

CO2排出が建替えの1/5 躯体活用や家具再利用徹底
 環境面でも注目事例が出ている。
 リアルゲイト(東京都渋谷区)はフレキシブルワークプレイス事業を展開する。環境負荷の低減と自由なワークプレイスを両立する「環境配慮型ビル再生」に力を入れている。
 同社の運営施設のうち1棟ビルはこれまで64棟に上り、そのうち49棟は既存ビルを再生。44棟は築20年以上のものとなっている。先月、2021年4月にオープンした「LAIDOUT SHIBUYA」のリノベーション時のCO2排出量を検証したところ、建替えた場合と比べて8割削減できていたことがわかった。算出では建替えの場合、844tのCO2を排出するのに対して、「LAIDOUT SHIBUYA」は168tと、5分の1以下へ削減した。
 同社のリノベーションでは既存躯体の有効活用や、多くの施設でテナント内装工事に汎用性のある躯体現しを採用するため、原状回復などの解体工事や入居工事時に排出される廃棄物を大幅に削減することができる。
 また工事の仮囲いとして利用されている鋼板などの建材を施設の内外装に利用したり、運営が終了した施設の机や椅子、ソファなどの家具や、ドア、サッシ、照明などを再利用。通常であれば廃棄されるものを再度活用していくことで、廃棄物の排出量も削減している。椅子やソファなどは長く使用できることを念頭に置いて、本革製品を中心に導入。使用するほどに味が出てくる性質を存分に生かす。
 昨今、企業活動のなかでESGやSDGsへの取り組みが必要となっている中で、リアルゲイトの事業が注目されるケースが多くなっている。代表取締役の岩本裕氏は「大手のデベロッパーはもちろんのこと、中小のビルオーナーの間でも環境配慮を意識されてお声がけいただいたケースは増えています」と話す。環境負荷が少ないビルであることがリーシングにも役立っている。「ベンチャーやスタートアップも含めて、このようなビルに入っているということが対外的な広報戦略としてプラスに働くと考えています。立地やスペックが類似するような競合物件があれば、差別化のポイントとなっています」(岩本氏)。
 今後もこのような「環境配慮型ビル再生」の取り組みを強化していく。運営開始後のCO2排出削減にも取り組んでおり、運営施設の電力をクリーン電力の切り替えを進めている。コロナ禍で働き方やオフィスが多様化しフレキシブルワークプレイスへの需要は高まる。施設数増によって環境負荷の低減寄与度も高まっていきそうだ。


業務とのシナジーも
ユニバーサル・リアルティ 代表取締役社長 玉岡一央氏
 SDGsに関わる取り組みは可能な範囲で継続的に取り組んでくことが重要です。当社においても、単にSDGsだけで終わらせるのではなくビジネスにおいても生かせることができるように工夫しています。たとえば当社は賃貸仲介を行っていることから、お客様の住まい探しや店舗探しをお手伝いさせていく場面が多くあります。成約が決まった方には当社が連携している「服から服を作るブランドBRING」の洋服をご家族分プレゼントするなどの活動をしています。このような取り組みがあることを知ってもらうきっかけになるとともに、当社のファンになっていただきたいという想いがあります。このように業務とのシナジーを出していくことも、企業がSDGsに取り組んでいく動機付けとして必要な考え方ではないでしょうか。

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