不動産トピックス

【今週号の最終面特集】遊休地の利活用で収益化 あなたはどうする!?

2022.02.07 10:45

運用次第で月10万円超の収益も 防犯・災害対応にも効果を期待
付加価値有するサービス登場 事業者の差別化戦略が加速
 不動産賃貸業の収益の柱となるのは、ビル・マンションといった物件の賃貸借で得られる収入。だがそれだけに終始するのは勿体ない。貸室としては価値を見出しにくいスペースや建物内外のわずかなスペースなど、収益を生み出せる場所は、探せば残されている。

今もなお市場規模拡大レンタル収納スペース
 ビルやマンションなどの空きスペースに設ける屋内型や、遊休地にコンテナを設置する屋外型と、様々な形態が存在するレンタル収納スペース。倉庫業法の規定に基づき設置されるトランクルームも含め、これらのレンタル収納は個人や企業の物品を保管場所としてその数を徐々に増やしている。個人であれば季節ごとに日常生活で使用しない衣類やスキー板などの趣味・レジャー用品などの保管場所としてよく利用される。また、企業の場合では使用しなくなった什器やたまった書類などの保管場所としての利用が多いようだ。いずれの場合も、住居や事務所に置いておけば空間が手狭になってしまうことから、通常は保管しておき必要な時に取り出せる便利さが、利用者にとっての最大のメリットといえるだろう。特に2011年の東日本大震災以降は、個人・企業ともに災害時におけるリスク分散という意味においてもレンタル収納の重要性は高まっており、利用者層の幅も広がりつつある。このビジネスは現在も成長中で、矢野経済研究所(東京都中野区)の調査によれば2020年度の市場規模は前年度の約750億円から2・3%増の約774億円となる見通しである。堅調な市場拡大を続けている一方で、その伸びは近年鈍化傾向となっている。これまで都市部はもちろんのこと、地方や郊外部への出店拡大を積極的に展開してきた事業者が、首都圏や東京都心部への展開に転じる動きがみられるようだ。また、都市部の小規模店舗のトランクルーム出店が増加しており、利用者により近い立地での出店が現在のトレンドとなっている。
 付加価値を持った新たなサービスも登場している。直近では日本郵便(東京都千代田区)と寺田倉庫(東京都品川区)は、両者のコアビジネスを生かした防災支援サービスとして、防災向け宅配型トランクルーム「防災ゆうストレージ」を共同企画。今月1日よりサービスの申し込み受付を開始した。このサービスは、災害に備えて長期の避難生活に必要となる日用品などを専用ボックスで預かり、居住地域とは異なる都道府県の硬質地盤な土地に位置する、寺田倉庫が管理する耐震基準を満たした倉庫で保管するというもの。災害などの際には避難先など希望する場所に日本郵便による「ゆうパック」で届けられる。
 事業性についてはどうか。不動産経営・管理のコンサルティングを行うエイト(東京都品川区)の伊東祥司氏はレンタル収納スペースの特徴について、「事業開始にかかるリスクが少なく、初期費用を抑えられる。そのため出口戦略も立てやすい」と話す。屋外型であれば収納用のコンテナを設置し、屋内型であれば内装工事を実施して空調設備や防犯設備など必要に応じて適宜設備工事を行えば運用は可能。トランクルームの場合は荷物の保管まで義務を負う業態であるため、トランクルーム事業者との賃貸借契約で入居テナントの1社として運用するのが一般的である。自社でレンタル収納スペースを運用する場合には、稼働率を安定させるまでの利用者の囲い込みが重要なポイントとなる。広告看板やホームページの作成など、まずは近隣住民に対しての周知を徹底し稼働率を高めるための努力が必要となる。利用者の囲い込みを円滑に行うためのアイディアとしては、大手事業者とのフランチャイズ契約も一考の価値がある。利回りは15~25%程度が目標ラインで、屋外型であればコインパーキング、屋内型であればコインランドリーと同水準といえる。開設にあたっては主な利用者層となる半径3km圏内の人口動態を入念にリサーチすることが重要だ。

オーナーの取り分は売り上げの20~30%程度
 ビル横のデッドスペースなどのわずかな空間の活用策として、自動販売機の設置は最もメジャーな手法である。販売品目はポピュラーな飲料のほか、たばこや軽食など種類は豊富で、一風変わったものでは東京・秋葉原で一世を風靡したおでん缶や、本格的な味が楽しめる和風だしなどもある。飲料の自動販売機の場合、設置にあたっては飲料メーカーや自販機専門業者、いわゆるベンダーと契約することになる。ベンダー側の取り分を除いた額がオーナーの取り分となるが、目安は売上の20~30%程度。さらに日々の電気料金を差し引いた額がオーナー側の収益となる。設置場所によって売上は大きく変わり、例えば人通りが多いポイントでもコンビニエンスストアが隣接していれば商品構成が重複する恐れもあり、売上面で苦戦が予測される。夜間人口が少ないオフィス街などでは、自動販売機の灯りに一定の防犯効果もあるとして、人通りの少ない死角となりえる箇所にあえて設置するケースもある。東日本大震災以降に定着してきたのが災害対応機能を備えた自動販売機で、平時は通常の自動販売機として稼働しながら、災害などで停電が発生した際には手動操作で商品を取り出すことができるというものだ。災害への備えをPRする意味においても、自動販売機は設置する価値の高い収益装置といえる。
 自動販売機の収益力を検討する。1本あたり130円の飲料の自動販売機で、売上の30%をオーナーの取り分とした場合、1本あたりの収入は39円。1日あたり50本、1カ月で1500本販売すれば収入の総額は5万8500円。電気料金は季節により変動するが月5000円程度とすると、手元に残る収益は5万円強となる。品目によって売価が異なるため上記の算出は大雑把なシミュレーションであるが、1本あたりの収入が決まっている以上、自動販売機の設置による収益を伸ばすためには、1日あたりの販売本数をいかに増やすかにかかっている。東京・自由が丘で賃貸ビルを経営する創建(東京都目黒区)の入谷貞夫氏は、商品のラインアップや売価を工夫して以前に比べ月間売上のアップを実現しているという。
 「飲料の自動販売機は様々な商品が並んでいますが、最もよく売れるのがミネラルウォーターです」(入谷氏)
 ミネラルウォーターは世代を問わず手に取りやすく、健康志向の昨今のトレンドも相まって毎月コンスタントな売上を達成するという。また、同氏は「ワンコインで購入可能も利用者にとって買いやすいポイントとなっている」と分析する。ミネラルウォーターに次いで売上が高いのは缶コーヒーであるが、同氏は缶コーヒーの売価を130円から100円に変更。1本あたりの手取り収入は減るものの、値下げ前に比べ月間販売本数は20%弱伸びたという。爆発的な収益源とみるのは難しいものの、自動販売機はスペースを無駄なく活用して不動産経営を支え、災害・防犯といった機能にも期待がもてる装置といえる。


需要は今後も延びると予測
エイト 代表取締役 伊東祥司氏
 ビル・マンションの建替えはコスト面のリスクが大きく、特に昨今は建築費高騰や職人不足などの理由から計画を一時的にストップする例が増えています。建築前の未利用地の有効活用として、マーケティング調査を行ったうえでレンタル収納スペースの設置を提案する場合があります。住宅はコンパクト化が進み収納に裂くスペースが縮小傾向にあることから、荷物を一時保管できるスペースの需要は今後も伸びると予測しています。

固定客による安定稼働を実現
創建 代表取締役 入谷貞夫氏
 飲料の自動販売機は季節限定の商品が一部あるのみで、売れ筋商品はほぼ固定されています。利用者も同じ自動販売機を繰り返し利用する傾向があり、設置場所と価格設定の工夫で安定した収益を生み出すことができます。災害時に活用できる点も、自動販売機設置のメリットです。

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