不動産トピックス

【今週号の最終面特集】新興企業が見据える これからのオフィス戦略

2021.12.20 10:51

社内/社外とのコミュニケーション多様化に対応 元ホテルのデザイン性を生かしオフィスコンバージョンも

 コロナ禍のなかでオフィスのあり方を見つめなおす機会が増える中で、移転する企業も増えている。そのなかには縮小移転もあるのだが、一方で拡大移転を果たすケースも多い。オフィス像を再検討する動きは当初オフィス床減少のリスクとして捉えられていた。しかし、企業がオフィスに求めるニーズが多様化。縮小だけでなく、館内増床や拡張移転を果たす企業も増えている。そのなかで本特集では今年移転した企業2社にきっかけと経緯、そして新しいオフィスで実現したコンセプトを紹介していく。

面積3倍のオフィスに移転 コミュニケーションを重視
 学習プラットフォーム「Monoxer(モノグサ)」の開発・運営を行うモノグサ(東京都千代田区)。学校や学習塾などの教育機関を中心に展開し、学習者はスマートフォン、タブレットを使って記憶度合いに応じて出題される問題を解きながら、記憶を定着させることができる。昨今のDX化は教育業界にも波及していて、教育現場でのタブレット端末の導入が進む。「モノグサ」の導入もそれと並行して、導入数を伸ばしている。
 同社は今年11月に「住友不動産飯田橋駅前ビル」に移転した。7階フロア、288坪のワンフロアを使用。前のオフィスから約3倍の坪数となっている。人員増に対応するための拡張移転となった。
 オフィス内には4つの会議室を設置。また個室ブース「TELECUBE」も2台導入した。商談から、上司と部下が面談する1on1のコミュニケーション、オンライン会議などがスムーズに行えるようにした。加えて、同社の採用選考のフローにも取り入れられて、社員同士の気軽なコミュニケーションの場としても機能するボードゲーム台も設置している。執務エリアには仕切りを設けておらず、コミュニケーションの取りやすい空間となっている。

理念や文化を伝える場に 働き方はハイブリッド
 コロナ禍のなかで、働き方やオフィスのあり方を見直す動きが相次ぐ。同社もオフィスについて熟考する機会となったようだ。
 代表取締役最高技術責任者の畔柳圭佑氏は「20年4月、最初の緊急事態宣言が発令されたときは全社フルリモートに移行していました」と振り返る。現在でもオフィス勤務とリモートワークのハイブリッド型の働き方を導入している。「社員は自分の業務やその日の執務内容によって働く場所を変えています。集中して働きたいときには自宅でもリモートワークを選択される場合もありますし、業務を進めていく上でコミュニケーションが必要な場合には出社するというケースも見られます」。  そのなかでも「オフィスを無くす」という選択はなかったようだ。「コミュニケーション」がその理由だ。「新しく入社される社員の方をはじめとして当社がいまどういうことをやろうとしているのか、会社の理念はどういったところにあるのか、そういったことを浸透させていくにはオフィスというリアルな場所が必要不可欠と考えています」(畔柳氏)。  同社社員は採用選考時からボードゲームでコミュニケーションを行う。このようなカルチャーもオフィスを構えてこそ、伝わるもののひとつかもしれない。

上野の元ホテルをセットアップオフィスに
 クリアル(東京都台東区)は今年3月に「CREAL UENO」に本社移転した。
 「CREAL UENO」はもともとホテルとして運用されていた物件だったが、コロナ禍の影響を受けてホテル運営会社が撤退。同社で「この不動産を最も活かす方法は何か」について検討を重ね、セットアップオフィスへのコンバージョンを決めた。
 投資運用部長の山中雄介氏は「全国的にリモートワークが推進される中、従来型のオフィス環境がオンラインでの打ち合わせや商談の多くなった現在の業務に適していないという状況があります。ウィズコロナ・アフターコロナに適したオフィスが今後必要になってくると考えて、そのニーズや機能を満たしたオフィスへのコンバージョンに至りました」と経緯を話す。
 コンバージョンにあたっては、不動産投資型クラウドファンディング「CREAL」にて「上野オフィスプロジェクト」として投資家からの出資を募集。募集金額4億6500万円に対して、満額で成立。投資家からの期待も高い。
 内装についてはコロナ禍のなかで多様化した働き方に対応するものとなっている。ホテルだった高いデザイン性や1階のカフェスペースを活用して社員間のコミュニケーションを促進している。執務エリアはオンラインミーティングなど柔軟にオフィスを運用できるよう、フリーアドレスに対応するなどしている。実際にオフィスを使用する社員は、「弊社ではハイブリッド型のワークスタイルが定着しておりますので、必ずしも部署ごとにまとまった座席や固定席は必要なく、スペースも十分であると考えています」としている。
 現在は同社が「CREAL UENO」にオフィスを構えているが、将来的には一棟貸しを想定する。想定される賃料や売却価格についても、相場通りに確保することができると見込んでいる。

「場」の重要性再認識 シェアオフィス移転事例も
 オフィスのあり方の多様化は様々なところで指摘されている。移転した、ないしはこれから移転を検討している企業でも「商談やミーティングもオンラインが増えるなかで、その需要に対応できるようなスペースを設けていく必要がある」という声が聞かれる。オフィス内装を手掛ける企業からは「働き方が変わるなかで、どのようにして生産性を高めるオフィスをつくっていくかが課題となっているが、それぞれの企業の文化や、業種業態によって異なってくる」と指摘されている。
 また選ぶ移転先にも多様化が見られる。ビルのオフィスワンフロアに拠点を置くのではなく、シェアオフィスやレンタルオフィス内にある区画を賃借するケースも多い。このような場合には、共用部内で展開されているサービスが受けることができる。それらのサービスを福利厚生の一環とすることで、社員の満足度を高める狙いもありそうだ。
 モノグサ、クリアル双方のコメントから出てきたのは「コミュニケーション」だ。多くの指摘があるように、コロナ禍のなかでリモートワークが進められてきたが、その弊害のひとつとしてコミュニケーションの希薄化が見えてきた。また会社の理念や文化などを浸透させていくことも、オンラインだけでは厳しい。ある会社の広報担当は「2020年の新入社員研修をオンラインで行ったものの、コロナ前のオフィスに集まっての研修と比べると成果をあげられなかった」と振り返る。そのため同社では21年の新入社員研修はオフィスに集まって行うことになったようだ。
 リモートワーク、あるいはハイブリッド型と言われる中でも、「場」を求めるニーズは依然として高い。ビルオーナーは条件面の柔軟性や、共用部の充実化、セットアップオフィスなどの施策を行うことでニーズを獲得していくことは可能だ。


ワンフロア集約がメリットに
モノグサ 代表取締役最高技術責任者 畔柳圭佑氏
 当社では事業成長に合わせて人材採用も強化してきました。2020年末で社員・スタッフは20名ほどでしたが、現在はその3倍近くまで人数が増えました。コロナ禍以前より移転は検討してきました。新しく入居したオフィスのほかにも、レンタルオフィス含めて複数検討を重ねてきましたが、ワンフロアで借りられることや前のオフィスからも近いことなどが決め手となりました。

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