不動産トピックス

【今週号の最終面特集】トレンドの主役は地方から 新しいワークスペース最前線

2021.10.04 11:10

地域活性化に貢献する拠点が続々 町の特性に応じ施設のバリエーションが広がる
 シェアオフィスに代表される新しいワークスペースは、都心部だけのものではない。地方都市においても、そのエリアの特性に合わせた新しい施設が続々と誕生し、利用者の需要に対応する。

ワーケーションのニーズに対応 アニメ制作会社など入居
 オフィス向け機器の販売やオフィスレイアウトの企画等を行う岡村文具(高知県高知市)では、本社ビル「OKAMURA帯屋町ビル」の4・5階をシェアオフィス「BASE CAMP IN OBIYAMACHI」として運営を行っている。高知サンライズホテル(高知県高知市)が来年開業するコワーキングスペース「BASE CAMP IN OHASHIDORI」と共に、起業支援サービスを展開するツクリエ(東京都千代田区)が企画を進める「BASE CAMP IN KOCHI」の拠点として位置づけられる。
 「BASE CAMP IN OBIYAMACHI」の4階は、14㎡、18㎡、22㎡の3区画のレンタルオフィスと4名定員の個室型ブース1部屋で構成される。5階は定員40名のセミナールーム。セミナールームは事前予約制で、レンタルオフィス入居者以外の一般利用も可能。
 オフィス区画には2社が既に入居済み。1社はインバウンドツーリズムを通して日本の観光を盛り上げる、やまとごころ(東京都新宿区)。本社を東京・新宿に構える同社が、サテライトオフィスとして活用する。もう1社はアニメ制作会社のエイトカラーズ。高知県は「まんが甲子園」発祥の地。また今年は高知を舞台とした映画「竜とそばかすの姫」が公開されるなど、漫画・アニメ文化の盛んな地域としても知られている。高知県ならではのカラーを、アニメ制作を通じて発信していく。
 代表取締役社長の岡村憲男氏は「普段は東京で働いている事業者様が多いので、パソコンを持ち込めばすぐに働けるように環境を整備しました。具体的には、Wi―Fiやスキャナー、アクリルパネルやオゾン式空気清浄機などの感染対策グッズも設置しています。高知県のテレワークの実施率は10%程度と、都心と比べるとかなり低いといえます。一方で自然豊かな地方だからこそ、ワーケーションのニーズに期待できると感じています。シェアオフィスの運営を通して、若い方々が『高知県で働きたい』と思えるような魅力発信を行い、地域に貢献していきたいです」と話す。

大学至近のサテライトオフィス 企業・学生の共同研究の場に
 秋田県の南西部に位置する由利本荘市で今年4月、市内の「本荘由利産学共同研究センター」の空きスペースを活用したサテライトオフィスがオープン。地元企業や隣接する秋田県立大学本荘キャンパスに通う学生らの利用を見込んでいる。
 この「本荘由利産学共同研究センター」は、産学官金連携による共同研究や地域企業活性化支援、交流活動の拠点として機能しており、今回オープンしたサテライトオフィスは広さ約360㎡に20席のコワーキングスペース、1人用ブース、2人用ブースを設置。複合機などの什器類のほか、専用の光回線で安定したネットワーク環境でのビジネスをサポートする。また、内装デザインや施設のセキュリティは秋田県立大学の教員が担当するなど、いわば「地産地消」のワークスペースとなっている。
 同センターの運営・管理を行う本荘由利産学振興財団(秋田県由利本荘市)のインキュベーションマネージャー成田明彦氏によれば、「由利本荘・にかほ地域は県内でも特に製造業が盛んな地域で、当センターも多くの県内・県外企業にご利用頂いています。このサテライトオフィスは一般企業のご利用だけでなく、かねてより学生の起業支援に注力する秋田県立大学の学生の利用や、企業と学生の共同研究の場としての役割を期待しており、学生の利用料金に割引を設定するなど、幅広いご利用を目指しています」とのこと。当初は学生のほか、東京・大阪・名古屋の大都市圏からのサテライトオフィスとしての利用を見込んでいたものの、昨今のコロナ禍の影響でオープンからの稼働は想定目標には届いていないという。しかしながら、学生の対面授業が再開されるなか、地元企業と学生が共同で学生主体の企業課題解決チームを発足して地域貢献活動を展開させるなど、アフターコロナを見据えた明るい話題も多い。前出の成田氏は「空きスペースの活用は数年前から検討を重ね、その1つの選択肢としてサテライトオフィスとしての活用も多くの施設を見学しながら検討してきました。施設を利用された方の反応は好印象で、今後より多くの方に当施設をご利用頂き、地元への定着に貢献できればと思います」と述べている。

提携弁護士による無料相談 起業家を全面サポート
 新潟市内で今年7月に開業した「SHARE OFFICE LIFE STYLE(シェアオフィス ライフスタイル)」は、新潟市役所近くの好立地を生かし、シェアオフィスニーズを追い風に徐々に利用者を伸ばしている。
 施設を運営する合同会社ライフスタイルの楠亀祐子氏は、シェアオフィス開設の経緯について次のように述べる。
 「日本全国に出張で数日滞在する中で、ホテルのWi―Fiの遅さ、セキュリティ、商談や会議の打ち合わせ場所に困る場面や、資料を修正した後のプリントなど困ったことが多く不便を感じていました。そんな折、カフェで勉強している学生やフリーランスの方々を見る機会があり、ちょうどテレワークが一般的に広がったタイミングでしたので、こうしたニーズに合った場所を作ろうと考え始めました」
 不特定多数の人の出入りが生じるシェアオフィスでは、利用者同士が快適に利用できるよう規約を設けている。同施設でも利用規約を設定しているものの、大手事業者が設ける厳格なルールづくりは行わず、利用者にニーズに臨機応変に対応するアットホームな運営が大きな特徴となっている。また隣室には提携の弁護士事務所があり、起業家が事業を進めるにあたり専門知識が必要となる場面において、提携の弁護士に無料相談できる点も利用者にとっての大きなメリットといえる。同施設はリモートワークへの対応が比較的容易な営業職のビジネスマンや士業、起業家、学生など、1人で集中できる場を求める様々な利用属性を想定し、地元密着型のシェアオフィスとしてビジネス交流や出会いの場としても利用者を誘致する構えだ。

市内での創業を支援 お試しサテライトオフィス
 栃木県の南西部に位置する佐野市では、2018年2月に市内産業団地が完売して以降、市内の産業団地の分譲率が100%に達し、新たに同市に進出にしようとする市外・県外の企業のニーズに応えられない状況にあった。そうした中、昨年度には創設した市補助金(新しい働き方環境整備費補助金)を活用し、市内に自己所有物件の改修を行ったコワーキングスペースが相次いで開設され、今なお新たな開設に向けて相談が寄せられている。市では東京の一極集中の是正と地方への移住・定住を視野に入れたテレワークの動きが加速すると考え、国の制度を活用し「お試しサテライトオフィス」を開設することとなった。
 この「お試しサテライトオフィス」は、市役所近くの公共施設「まちなか活性化ビル・佐野未来館」の4階に所在。まちなか活性化ビルは市の中心市街地活性化の拠点施設であり、同フロアには市の中心市街地活性化事業を担う「さのまちづくり会社」の事務所も入居している。また3階は、市内で創業を目指す起業家が本格的に創業する前の準備として利用できるチャレンジショップとなっている。
 各自治体が開設した全国のお試しサテライトオフィスには、利用期間を最長1週間とするなど、休暇中に観光地やリゾート地で働く、いわゆるワーケーションでの短期利用を見込んだ施設もみられる。一方で佐野市では利用企業の本格的なサテライトオフィス誘致に繋げたいと考えていることから、利用期間を最長3か月間と比較的長期に設定している。このお試し期間中に、市でのサテライトオフィス開設の可能性を探ってもらうことはもちろん、観光スポット等を通じて市の魅力に触れてもらうとともに、地元企業との交流を深めてもらう機会をもってもらいたい狙いがあるようだ。
 このほか、市はサテライトオフィス開設の準備段階に「新しい働き方環境整備費補助金」により、施設の改修やパーテーションの設置、事務机・椅子の設置など、サテライトオフィスの環境整備にかかる経費を補助。また、地元の不動産業者と連携した物件探しの協力、移住・定住の支援制度の紹介を行う。
 市の産業立市推進課、産業立市推進係の関塚智幸係長は「現在のところ、11月の開設に向けて準備中ですが、市の記者会見や新聞記事で『お試しサテライトオフィス』の情報を知ったということで早速数件の問い合わせを頂いており、期待感をもってもらっていることを実感しています。施設オープンに合わせて総務省の特設サイトに情報掲載するほか、県の協力のもと首都圏の企業に直接アプロ―チをしたり、地元企業を通じて関連企業や取引先企業に情報発信の協力をお願いするなど、プロモーションに力を入れていきたいと考えています」と述べている。

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