不動産トピックス

【今週号の最終面特集】不動産テック最新動向

2021.07.12 10:30

業務効率化を促進するサービスの人気堅調
業界大手だけでなく中堅・中小に広げる動きも
 コロナ禍で進んだ非対面やテクノロジーの活用。不動産テックについても勢いを増す。そのなかで「不動産テックカオスマップ」の最新版が発表。全体のサービス数が伸びる中で、変化の兆しも出てきている。

最新カオスマップ発表 サービス総数は446に
 不動産テック協会(東京都港区)は7月8日、オンラインで「不動産テックカオスマップ 最新版(第7版)発表セミナー」を開催した。
 最新のカオスマップでは全体のサービス数は446となり、2020年6月に発表した第6版から94増となった。カテゴリ別でみると、管理業務支援や仲介業務支援は堅調に増加。第7版で顕著だったのはVRや不動産情報、価格可視化などが急速に成長したことだ。VR・AR分野では前回に比べて155%、不動産情報カテゴリでは160%増となった。
 冒頭、講演した代表理事の赤木正幸氏(リマールエステート代表取締役社長)は今回の結果について「新型コロナウイルスの影響を受けて、非対面サービスやVR・ARなどのリモートサービスが再度増加傾向になってきた。また不動産情報サービスや価格可視化サービスも再増となった。業務支援系は引き続き堅調に増加し、スペースシェアリングも増加、また新しい動向としてはクラウドファンディングやシェアリングなどの基幹システム提供サービスの出現や不動産事業者による不動産テックサービスの増加が見られた」と指摘した。

海外発のサービス参入も 上場企業から高い注目度
 このようにサービスが増える傾向にあるなかで、消滅するサービスもある。その代表格として挙げられるのが「OYO LIFE」だ。OYO Japanは同サービスを6月1日付けで霞が関キャピタル(東京都千代田区)が立ち上げたKC Technologies(東京都千代田区)が事業承継。これまで「OYO LIFE」で築き上げてきた実績をベースにどのようなサービスを展開していくのか、その動向が注目されている。
 このような注目を浴びていた海外からのサービスが撤退した一方で、日本市場への新たな参入もあった。そのひとつは、弊紙6月21日号でも取り上げた、PriceHubble(プライスハブル)。スイスを本拠にした価格可視化のサービスで、サービスを導入する企業は不動産仲介、デベロッパー、管理、PM、買取再販などの不動産業界全般から、不動産を運用する金融や保険など多岐に及ぶ。既に日本においても上場企業を含めた複数の企業が導入するとともに、不動産管理アプリとの提携も行われているようだ。

グローバルでもコロナ「追い風」に
 一方でグローバルな動向はどうなっているのか。セミナーの第二部で講演した協会顧問の川戸温志氏(NTTデータ経営研究所 シニアマネージャー)が詳しく取り上げた。グローバルの動向として、コロナ禍の影響として20年度の資金調達額は、19年度に比べて減少した。一方VC等の投資家は新型コロナによってプロップテックが加速する、と見ていることも紹介。
 このようなコロナの影響は、注目を集める不動産テックの動向にも表れていそうだ。2016年から5年連続で開催されている不動産テックのピッチコンテスト「MIPIM2020 startup competition」で2021年の受賞企業のなかにはディスプレイ付きの宅配ボックスの「mayordomo」や、建物にセンサーなどをつけることでデータを収集し、建物の課題の把握や改善に寄与する事業用不動産の建物管理サービス「enertiv」、また3D都市のデジタルツインサービス「geopipe」が選ばれた。宅配ボックスについて言えば、日本でもライナフ(東京都文京区)の「置き配」、またクックパッド(横浜市西区)では生鮮食品EC「クックパッドマート」で購入した生鮮食品をピックアップできる生鮮宅配ボックス「マートステーション」を店舗や施設等で展開している。

日本市場は今後淘汰も 認知度の拡大は焦点に
 コロナ禍は不動産テックに様々な影響をもたらしている。そのなかで、日本の不動産テック企業はおおむね「追い風」と感じているようだ。代表理事の巻口成憲氏(リーウェイズ代表取締役社長)は「サービスがしやすい土壌が広がっている」と指摘する。サービス数が増えたことも、予想外だったようで、理事の名村晋治氏(サービシンク代表取締役)は「淘汰や統廃合が始まるかと考えていた」と話す。一方でサービス数が増加し続けるなかで課題も感じているようで、「これだけのサービスが出てきているのに不動産業界に伝わり切れていない。サービス名を知らなければインターネットで調べることもできない。今後どのよう認知を拡大していくかは課題ではないか」とした。
 川戸氏は今後の不動産テックについて「オフィスや住宅などで他の業界と交わるところでは大きな変化がみられるのでは」と予想する。不動産テックの進展はこれまでに見られなかったようなサービスも生み出している。新しい価値や体験の創出を目指すサービスの誕生は、今後も続きそうだ。

賃料価格決定や投資判断 脱「属人化」で最適化目指す
 成長したカテゴリのなかには新たに注目を集めるものもある。その一例を紹介する。
 キーウォーカー(東京都港区)はビッグデータの収集や分析などの事業を展開している。同社では「クローリング」という技術を活用して、ウェブ上の文書や画像などを周期的に取得し自動的にデータベース化。また、それらのデータの可視化や分析のソリューションも提供している。多くの業界からニーズがあり、不動産業界でも賃貸・売買仲介会社やホテルオペレーター、デベロッパー、管理会社などが顧客となっている。直近ではAIやルーチン業務の自動処理システムなどにも力を入れている。50名弱の社員のうち、6割がデータサイエンティストとなっている。
 同社はこれまでの実績を生かして不動産テックソリューションとして5月17日に新たにリリースした。名称は「KEY ESTATE」だ。「不動産業界ならではの属人的だった作業をAIで解決する」ことを目的として、外部から収集した不動産価格や賃料、築年数、間取りなどの物件情報に、顧客が保有する実績データ等を融合させることで不動産売買の収益最大化や投資の最大化などの高精度なデータ分析を可能にする。また企業に蓄積された大量のデータを集めて分析し迅速な意思決定を支援するBI(ビジネスインテリジェンス)ツールを活用して、グラフやマップ形式で可視化。データの視覚的、直感的な理解を促進する。
 「KEY ESTATE」が目指すのは目的にもある通り、属人性の改善、そして業務効率化だ。
 取締役CSO・データソリューション営業部長の赤沼準氏は「たとえば物件の売買や賃料の決定の際に、属人的な作業ですとひとりひとりのスキルが異なることから精度がまちまちになっています」と指摘し「当社の『KEY ESTATE』ではウェブなどにあるオープンデータのほかに、各社が個別で持っている独自データを組み合わせることで、各社のニーズに合ったツールを提供することが可能です。不動産業務の様々な判断の最適化や業務の効率化にもつながります」と続けた。
 導入費用は仕様や要望によって変動してくるが、モデルとして初期費用34・5万円に月額の利用料が6万円で提供しているほか、クライアント企業が実現したい内容によっては1000万円ほどかかることもある。より安価なプランについても今後検討を行っていくという。

PAGE TOPへ