不動産トピックス

【今週の最終面特集】ビルオーナーが押さえたい好調なテナントのポイント

2021.06.29 12:07

繫盛店をつくる内装づくりで物件価値向上に 非飲食では盛り返したゴルフ人気に要注目
 コロナ禍のなかで飲食店舗を始めとしたテナントが難しい局面を迎えている。この時代の好調テナントの要件はどういったものだろうか。ひとつは最新のニーズをとらえることができているか。そして、もうひとつはこの状況下でも入店したくなる店舗づくりができているか、だ。

料理人とオーナー双方支援 繁盛店づくりで物件価値向上
 店舗の設計・施工を行う山翠舎(長野県長野市)のグループ会社、山翠舎賃貸(東京都渋谷区)では今年3月より飲食店の出店を支援する賃貸システム「料理人と家主応援システムOASIS」を展開し始めた。
 コロナ以前より飲食店は競争の厳しい環境にあった。この業界は開業から10年を超えて営業を続けられるのが1割だと言われている。そのようななかで山翠舎はこれまで500店舗以上の設計・施工を実施。10年で83・7%の店舗が営業を継続しているという。
 その要因のひとつには特徴的なデザインがあるようだ。それが「古木」だ。山翠舎代表取締役の山上浩明氏は「当社では古民家に使用されている古木を、店舗の施工などの際に生かしています」と話す。近年では業界でも環境やSDGsから「木」が注目されているが、同社ではそこから一歩進んで、ストーリーを語ることができて、記憶に残りやすい「古木」を使用し、店舗の雰囲気づくりに一役買っているようだ。
 そのようななかで今回発表した「OASIS」。賃借人側となる料理人、そして家主双方をマッチングし、店舗づくりや不動産の価値向上などを目指していく。
 「コロナ禍のなかでも独立出店したいという料理人は多くいらっしゃいます。一方で、飲食店の開業には初期費用だけでもかなり高く、ハイリスクです。今回のシステムは当社が作りこんだ物件で開業することができ、また事業計画作成のサポートや2号店目以降の出店サポートも行います。料理人の負担は初期費用50万円と、最大で半額の敷金・保証金、そして毎月の家賃となり、従来の初期費用と比べてコストを圧縮することが可能です」(山上氏)
 不動産オーナー側の視点で見ると、築年数が経過した所有物件の活用などに適していそうだ。
 「今回のOASISでは当社がオーナー様から物件を借り上げることになります。これまで立地や築年数、あるいは外観の印象などからテナントがつかなかった物件に対し、繁盛店を誘致できることで物件価値の向上や収益化につなげることが可能です」
 将来的には各エリアの工務店と提携することで全国展開を目指していく。コロナ禍で料理人、不動産オーナーそれぞれピンチに陥っている。「OASIS」を通じて、その打開を目指す。

元アパレル店を活用しインドアゴルフ練習場に
 ゴルフがコロナ禍でも需要を得ている。経済産業省では公式HP内の「経済解析室ひと言解説集」のなかで、「2回目の緊急事態宣言下でも活況だったゴルフ練習場・ゴルフ場」という記事を公開。同省の統計資料を基に、ゴルフ業界の活性を伝えている。
 そのなかで、不動産管理や運営、仲介を手掛けるエフケイ(東京都港区)の福士岳城社長は今年3月、「新橋駅前ビル一号館」1階にインドアゴルフ練習場「オールデイゴルフ新橋駅前ビル」をオープンした。運営するのは福士氏が代表取締役を務める、ネーロデンキャッスル(東京都港区)。
 この区画はもともとアパレル店が入居。退去した後、立地は良いものの条件面から敬遠され、後継テナントが決まらない状況が続いてきた。「オールデイゴルフ」は福士氏の学生時代の友人が桜新町に1号店をオープン。福士氏も学生時代はゴルフ部に在籍していたため今でもゴルフ好き。なかなか後継テナントが決まらない区画を賃借し、「オールデイゴルフ」をオープンするに至った。
 福士氏はこの場所での開業について「アドバンテージが大きい」と言う。次のようにその理由を続けた。
 「サラリーマンが多い立地であることはもちろんですが、都心エリアの屋外ゴルフ練習場は非常に少なく、インドアゴルフ練習場は利用料金が高い傾向にあります。新橋店では料金コストを抑えるとともに、地下駐車場も都心では安価な利用料金設定となっています。新橋周辺で働かれている方が店舗を見かけて利用して頂いたり、口コミやHPなどから情報を得て来られる方もいらっしゃいます」
 2021年はゴルフ界でも様々なトピックが生まれている。プロゴルファーの松山英樹選手が米マスターズ・トーナメント、笹生優花選手が全米女子オープンで、それぞれ優勝。また全米プロゴルフ選手権ではフィル・ミケルソン選手が50歳での最年長優勝を遂げた。
 ゴルフ熱の高まりとともに、インドアゴルフ練習場への需要も増しそうだ。
 飲食チェーンではコロナ禍に対応した施策をとる企業が多くなっている。
 たとえば、影響を大きく受けている居酒屋チェーンは業態を転換して、テイクアウトを中心とした唐揚げ店などのの店舗展開を図る。たとえばワタミ(東京都大田区)では居酒屋業態の「ミライザカ」や「鳥メロ」の21年4月、5月の出店はゼロだが、その一方「から揚げの天才」は新規出店が7店舗。関東の累計店舗数は87店舗で、同社が展開しているブランド数としては最多となる。
 カフェチェーンの銀座ルノアール(東京都中野区)では貸会議室「マイ・スペース」を改装した個室のワークブース「ビジネスブース」を展開。また公式オンラインストアの「Atelier(アトリエ)」を開設している。
 またデリバリー専門の食事をつくるクラウドキッチンを展開する事業者も増えている。ビジネスモデルの確立はこれからとなるが、デリバリー需要が伸びているだけに「テナント候補」や活用手段としては面白いかもしれない。
 新型コロナ収束後も商業テナントへの需要がコロナ前の水準に回復できるかどうかは不透明で、業態によっても状況が異なる。個別の店舗の特徴なども見極めていきたいところだ。


「古木」生かした空間づくりが得意
山翆舎賃貸 代表取締役 山上浩明氏
 山翠舎の歴史は1930年に建具屋の「山上木工所」から始まりました。住宅の施工を皮切りにして、現在では木材を活用してオフィスや店舗のデザイン事業を展開しています。古民家の移転再生事業にも力を入れていまして、そこから調達された木材を「古木」として活用しています。当社がこれまで施工した店舗の存続率が83・7%という数字であることは、料理人の方の腕前はもちろんのこと、当社の物件選定や「古木」を生かした内装づくりも功を奏していると考えています。新しくスタートした「OASIS」を生かして、コロナ禍で苦しむ料理人、家主双方への支援を行っていきたいと考えています。

ビルオーナーの空室活用手段にも
ネーロデンキャッスル 代表取締役 福士岳城氏
 ビルオーナーにとってインドアゴルフ練習場は空室活用の手段になると思います。コロナ禍のなかで飲食店舗などの退去が発生しているケースが多くあります。初期の設備投資で1000万円から1500万円ほどかかりますが、オーナー直営で行う場合は賃料が発生しないことから柔軟な料金設定が可能です。他施設との競争を優位に進めていくことができます。「オールデイゴルフ」でも近日、四谷店がオープンする予定となっておりまして、将来的にはFC展開なども行っていく予定です。

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