不動産トピックス

【今週号の最終面特集】コロナ禍でも追い風 ビル活用の手段

2021.06.15 10:48

スポーツや美容で成功例 オフィスはコストの「見せ方」ポイントに
 昨年4月からの新型コロナウイルスのパンデミックにより、不動産賃貸業でも少なからず影響を受けている。そのなかで、現在のオフィスビル・商業ビルへのニーズにマッチした活用手段が登場してきている。リモートワークの浸透やニューノーマルヘの対応などで、今後の市況回復については不透明感が漂う。実践例からこれからの一手を探る。

羽村市の商業モールでスポーツフィールド開く
 JR青梅線「小作」駅からバスで13分の場所に立地する商業物件の「さくらモール」。食品スーパーやレジャー・カルチャー、自動車・エネルギーなど、多角的に展開する桝屋グループが2018年に開業した商業モールだ。現在、自動車販売店や飲食店などのテナントが入居している。
 同モールの2階に昨年11月、室内野球練習やインドアゴルフなどが行える施設「SAKURA FIELD(サクラフィールド)」がオープンした。仕掛けたのは桝屋グループの企業、オフィス裕(東京都福生市)だ。
 「サクラフィールド」は約760㎡の空間となっていて、野球やゴルフなどのスポーツの練習を行える。元プロ選手やアマチュア有力選手などがスクールを開いていて、現在、野球、ゴルフ、ヨガ、また子ども向けのスポーツ教室が定期的に開催されている。
 施設利用は会員制となっている。朝6時~23時まで営業していて、利用者のライフスタイルに合わせて利用することができる。野球のバッティングやゴルフの練習もボールを使って行っており、屋内でもしっかりとした練習を行うことができる。またコロナ対策についても万全の体制を整えている。会員制であることから利用人数を調整して距離を確保することができるとともに、十分な空調や換気設備を完備、加えて予約・決済や入退出管理はオンライン、非接触、無人営業を採用している。コロナ禍のなかでも利用者が安心して使うことができる。
 代表取締役の加藤裕太郎氏によると、施設がある区画は飲食店テナントを誘致しようしていたエリア。しかしながら「コロナの影響で誘致が難しくなってしまい、新しい活用法として『サクラフィールド』を始めることになりました」と話す。  開設から半年を超えて、利用者数も増加傾向だ。「スクールに通われる生徒さんは周辺にお住いの方が多いですが、遠方に拠点を置くクラブチームなどの利用も増えています」と話す。
 加藤氏は「今後もスポーツキャリアのある人のスクール開講の機会を提供しコンテンツを充実させていくとともに、直営・FCで多店舗展開も図っていきたい」と話す。不動産活用の手段としては珍しいが、今後の展開に期待が持てる。

完全個室美容モール オーナーから引き合い多数
 美容もコロナ禍のなかで需要を保っている業種のひとつ。そのなかでビル業界から注目を集めているのが、完全個室美容モールだ。
 The Salons Japan(東京都世田谷区)が昨年からビルオーナーや不動産事業者向けに展開している完全個室美容モールのFC制度「THE SALONS Buddy Program」への引き合いが増えている。
 同社は2019年5月に「THE SALONS 表参道店」をオープンして以来、これまでに銀座、銀座外堀通り、青山の4店舗を展開している。今後出店予定も拡大傾向にあり、東京・大阪の都市部を中心に、物件交渉中を含めて、さらに13店舗の出店を予定している。
 取締役の窪島剣璽氏は「コロナ禍のなかでも経済活動が継続している中で、美容室の需要は一定水準を保っています」と話す。特に知名度を持ち、一定の顧客を抱えている美容師は売上を落としていないようだ。
 同社では能力のある美容師に対して、店舗や経営面のサポートをすることで独立開業を支援している。各店舗での開業時に出店を希望する美容師のリストは積み増している。開業と同時に高い稼働率で運営できるのも「THE SALONS」の強みだ。
 不動産業界側からの注目度も高く、4店舗展開している現在も「物件の活用ができないか、という問い合わせは多くいただいています」とのこと。大手不動産デベロッパーやJリート運用会社も名を連ねており、なかには「内装施工費を全額負担してでも誘致したい、という声もいただいています」とのこと。
 登録している美容師の希望出店地や、引き合いのある物件の立地を見極めながら、今後店舗の拡大を目指していく。

「入居しやすい」オフィスで景気後退時でも稼働率安定へ
 コロナ禍でテレワークや在宅勤務が広がりを見せた。オフィスのコスト削減も進んだことで、中長期的に不透明感を見せている。そのなかで、サラトガエージェンシー(東京都品川区)では昨年2月より展開している「Z不動産」を通して、オフィス移転に関わる初期コストを抑えた物件を企業側に提案。それと同時にオーナー側には初期コストを抑えることで賃料アップを実現。WIN―WINの関係を築こうとしている。
 同社がこのサービスをスタートしたのには、ベンチャーやスタートアップにとってオフィスを借りることが大きなハードルになっており、ビルオーナーにとっても機会損失につながっていると考えたからだった。全国的にコロナ禍が広がった昨年4月以降は企業のオフィスに対する費用を抑えようとする動きも出ていて、「Z不動産」への需要も増しているようだ。
 「ベンチャーやスタートアップの利用も多いですが、ほかにもテレワークの普及でオフィス在籍率が減少した企業の縮小移転や、地方に本社を構える企業が東京オフィスを構える際など、ニーズが幅広くなっています」(大坪氏)
 企業側の需要を得ていることで、ビルオーナーも決断するケースも増えている。パンデミックで空室率がジワリと上がるなかで、ビルオーナーにとっては稼働率と賃料を安定させるための一策となっているようだ。
 これまで商業やオフィスの新しいトレンドについて触れてきた。
 ワクチン接種が進み、コロナ禍の収束が見えつつある。一方で、抑えつけられてきた様々な需要は収束後、すぐの回復は考えにくい。そのなかで、ビルオーナーはどのような施策がありうるか。実際に着手するかとは別に情報として持っておくことは、いざという時に役立つ。急速な社会変化にも柔軟に対応できるビル経営者が生き乗っていきそうだ。


出店計画着々と進行中
オフィス裕 代表取締役 加藤裕太郎氏
 「サクラフィールド」の中長期的な計画として、3号店目までを直営で運営し、その後FCで展開していくことを考えています。すでに3号店目までは物件を選定していまして、開業の目途が立っている状況です。実際に施設を運営してきた経験から、物件やスペースに合わせた展開が可能であると考えています。また当社には講師となる方とのコネクションもありますので、そのようなネットワークも活用しながら開業支援を行っていきます。

郊外や地方主要都市もターゲットに
The Salon Japan 取締役 窪島剣璽氏
 既存店舗は高稼働で推移しています。コロナ禍の状況下ではありますが、完全個室で美容師とお客様の少人数の空間であることや店舗内での感染症対策を施していることによって、安心感を持ってご利用いただいております。「THE SALONS」の出店エリアとして、今後も都内への出店を計画しておりますが、郊外や地方の主要都市にも積極的に検討していきたいと考えています。

コストを調整して企業の需要を獲得
サラトガエージェンシー 代表取締役 大坪勝氏
 設立間もない企業にとってオフィスに投資できる資金力は多くありません。人材採用やサービス開発への投資の優先度が高いからです。そのなかで企業にとっても、ビルオーナーにとっても負担が少ないものとして展開したのが「Z不動産」です。コロナ禍を通してサービスに対する需要が増しています。中長期的には、このサービスの次に続く、新サービスも開発していきたいと考えています。

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