不動産トピックス

ホテル運営会社次の一手を探る

2020.11.09 14:13

アフターコロナのホテル経営 顧客ポートフォリオの分散が重要に
Aカードホテルシステムズ 出張ニーズは回復傾向
 「GoToキャンペーン」の恩恵は、一部の高級ホテルやリゾートホテルに限定され、コロナ禍で大きな打撃を受けた中小ホテルの再建の道筋はまだ見えない。これからの「ウィズコロナ」下で、中小ホテルはどのような対応をしていくべきか。独立系ホテルの全国ネットワークを構築しているAカードホテルシステム(東京都千代田区)の内藤信也社長は、今こそ財務体質の強化が必要だと話す。
都市部の稼働率大幅巌 地方は影響少なく
 同社は、独立系ホテルのキャッシュバック・ポイントカードを運営し、中小規模施設を中心に全国ネットワークを構築。現在加盟ホテルは480店にも及ぶ。
 大資本下ではない独立系が多いため、緊急事態宣言以降、多くの加盟店が厳しい経営を強いられているという。特に都心部に顕著だ。
 「当然、緊急事態宣言での休業によって経営が厳しくなっているホテルも多い。当社の加盟店からも様々なご相談を頂いています。我々としても自治体などの支援措置をご紹介したりするなど、鋭意サポートさせていただいています」。
 一方では、さほど大きな打撃を受けていないホテルも多いという。
 「実は地方では稼働率が80%、60%と依然と変わらない。マイナーな地方エリアでは、ソーシャルワーカーを中心にもともと安定したビジネス需要がある」。
 ここ数年、ホテルはインバウンド獲得に躍起になっていた。「その潮流に乗り遅れた施設が比較的影響が少なかったということです」。
 過去5年間の統計では、日本の総宿泊者数は年間約5億人で推移してきた。インバウンドが増加したとはいえ、結局国内需要を穴埋めしてきたに過ぎず国内客は依然として80%弱を占めている。
 「つまり、まだまだ国内需要の取り込みを重視していかなくては、今回のような事態に陥ってしまうということです」。
 国内の宿泊需要の内訳は、2019年の日本人国内消費額のうち、宿泊旅行の延べ旅行者数は3億1162万人で、そのうち観光55%、出張17・5%、帰省・知人訪問等27・5%。同社は112万人のカード会員を抱えているが、80%が30代から50代の出張ビジネスマンだ。
 8月以降、ある傾向がみられるようになった。同社によれば、コロナ禍での出張宿泊需要は回復に向かってきたという。加盟店の延べ宿泊者数の推移をみると、5月が前年比46%の5万4839人だったが、6月以降は上昇基調に転じ、9月は同69・7%の8万2117人と約70%となった。
 リモートワークの浸透で、一定層の出張ニーズの減少は避けられないものの、今後も安定的な需要が見込めるのはビジネスユースということになる。実際同社では、Aカード新規入会者数も9月には約70%まで回復した。
脆弱な財務体質が感染拡大でトドメ
 今回の新型コロナの感染拡大は、程度の差こそあるものの、過去を振り返ってみると、2002年のSARS、2005年の鳥インフル、2009年の新型インフル、2012年のMERSと4~5年おきに発生している。今回のコロナ禍で大きく異なっているのは、移動の禁止・接触の禁止・集合の禁止だったということ。
 「今後も同様のケースが起きることが考えられます。こうしたリスクは常に考えておくべきでしょう。今回コロナ禍では、もともと財務体質が悪くて、築年が古く、充分な設備投資ができていない宿泊施設を経営する企業や、表面的に勢いがあり新築物件を多く経営する企業でも、高い賃料、もしくは高い建築コストに伴う過大な借入を行っている企業が経営危機を迎えているのです」。
 2020年上半期に倒産したホテル・旅館は、既に前年を上回った。特に負債総額160億円のWBFホテル&リゾーツや、同約37億円のファーストキャビンの倒産は世間にインパクトを与えた。もっとも両社は以前から脆弱な財務体質が指摘されており、コロナ禍が直接の引き金になったに過ぎない。
 内藤社長はこう指摘する。「マクロ経済でみると、ここ数年、景気後退の懸念サインがでていることは明らかでした。国内ホテル市場を見てみると、市場全体では成長していましたが、実は1客室あたりの売上では、過去18年間成長していなない」。
 にもかかわらずホテル新規開発計画は、インバウンド効果でリーマンショック時以降、最高水準で推移してきた。
 一方、不動産の側面からみると、オーナーは利益率を重視し、開発の主流を宿泊特化型ホテルに置いてきた。「ホテル不動産取引価格も非常に割高で、利回りの低さはリーマンショック前の水準を超える低さだったのです。しかし、これまで右肩上りだったRevPARの成長率は、マイナスの段階に突入しました。従って、新型コロナウィルスは、引き金を引いたに過ぎず、収束しても、これからが本格的な景気後退局面ではないでしょうか」。
安心・安全・清潔 重要なキーワード
 ホテル産業は決して楽観視はできないものの、今後のプラス要因を考えるとすると、海外の雑誌の調査では、コロナ禍が収まれば行きたい外国として日本が5位に入っている。その要因として日本は安心・安全・清潔のイメージが高いことが挙げられている。今後はこれらが重要なキーワードになってくる。
 「基本的にホテルの人件費のかけ方が変わってくるでしょう。清掃を丁寧にしようとすれば清掃スタッフを充実させる必要がある。当然人件費が高くなる。従って内製化する必要がある」。
 当然、フロントはコンタクトレスになり、1人~2人で回すようになる。実際、新様式として、多くのホテルでは、自動精算機の導入など、フロント周りの省力化を加速させている。更に、施設自体の作り方も変わってくる。
 「消毒しやすい設計、具体的には客室内に突起物がないことや、手が多く触れる部分をパターン化するなど、ハード部分での変化も起こってくる。もっと言えば、空調の在り方も変わってくる」。
施設毎のターゲット綿密な分析が必要
 今後ホテル経営者はどのような部分に注力していくべきか。  「まずは、顧客ポートフォリオの分散を考えるべきでしょう」と内藤社長は指摘する。 インバウンドが増えたといいながらも、結局日本人80%、外国人20%は変わらない。どのように自分のホテルの比率を考えるかが重要になる。  「観光・ビジネスなどの目的別の比率や、個人・団体の人数別の比率、他にも、職業・交通・ライフスタイル・販売経路・その他分散させるべき属性は何か?現状、中国・台湾・香港・韓国の4か国で、外国人の70%超を占めるなか、外国人を100%とした時、その中でどう各国の比率を調整するか? 来てもらいたいゲストより、自分の都合で、容易に集めやすいゲストを集客していなかったか?など自己分析してみる必要があります」。  顧客が本音で泊まってみたい価格、つまりホテルの価値を向上させるために、どんな付加価値を向上させるか。施設、設備、清掃、朝食、インテリア、スタッフの接客態度など、多角的に分析していく必要があるという。  ホテル経営はこれまで、稼働率を上げるためには、価格を下げるなどの措置が一般的だった。しかし今回のコロナ禍では、これまでの危機対応時の販売手法が通用しない。これは利用者の財布の問題ではなく、渡航禁止や外出制限に起因する。ならば価格を下げずに済む方法を考えなくてはならない。  「では、下げない価格に見合うサービスを提供することを考えるべきですが、どうしても価格を下げて、稼働率をあげたい場合は、価格をさげれば、本当に宿泊者が獲得できる市場なのかを考えるなど、値下げロジックを明確化する必要があるでしょう。そのうえで、1部屋あたりの、最低限カバーすべき変動費及び固定費を経営者・支配人・RMマネージャー間で共有する」。 同時に販売手法も変革を迫られている。  「今は会員制プログラムで顧客の囲い込みをするホテルも増えていますが、これはアリとキリギリスの童話と同じで、夏(好況時)に会員の獲得と利用促進をさぼっていては、冬(不況時)は乗り切れない。今は、まさに夏時代の努力の成果が試されている冬のタイミングでしょう。今から会員制プログラムを始めるならば、成果は次回の危機の時に出ると心得て始めるべきです」。
アパホテルが名駅エリアで2棟目 コロナ対応字度チェックイン機導入
 アパホテル(東京都港区)ではこのほど、名古屋市内7棟目となる全191室の「アパホテル〈名古屋駅新幹線口南〉」を開業した。
同ホテルは、JR各線、新幹線、市営地下鉄東山線・桜通線、名古屋臨海高速鉄道あおなみ線、近鉄線、名鉄線などが乗り入れる、中部地方最大のターミナル駅「名古屋」駅徒歩4分に位置。2027年にはリニア中央新幹線「品川」―「名古屋」間の開業が予定され、今後ますます発展が見込まれる名駅エリアで、アパホテル2棟目の進出となる。  
 フロントには自動チェックイン機を導入しており、ビジネスのみならず、国内レジャー、インバウンドなど幅広い宿泊需要を取り込んでいく。
 客室は全室禁煙で、高品質・高機能・環境対応型を理念とする「新都市型ホテル」の標準仕様として、全室50型以上大型液晶テレビを設置。館内案内をテレビ画面上に集約表示した「アパデジタルインフォメーション」では、自身のスマホからYouTubeで好きな動画や写真などを大画面のテレビに映すことができる「ミラーリング機能」や、テレビリモコンでチェックアウト時間の延長手続ができる「セルフ延長機能」などを備えている。
 また、全室に空気中の花粉やカビ菌、ウイルスなどを無効化し、脱臭効果のある「ナノイーX」を搭載し、従来機より人にやさしい風の流れを追求した新型エアコンや客室の明るさにこだわったLEDシーリングライトを導入しており、快適に滞在できるよう品質にこだわっている。
 その他の全室標準仕様として、ベッド下に荷物の収納スペースを設けたオリジナルベッド「Cloud fit SP(クラウドフィット エスピー)」やリュックサック等を掛けるフックを設けた多機能姿見を設置し、空間を立体的に活用している。照明スイッチ類、空調リモコン等をベッドの枕元に集約、携帯・スマホの充電に便利なUSBポート・コンセントを枕元に設置しており、機能性・利便性を追求した客室空間としている。
 最先端のIT開発として、全予約経路対応、8種類のスマホ決済にも対応するチェックイン機に加え、クレジット決済に特化した小型の卓上型チェックイン機を導入。公式サイトのアパアプリにて事前にクレジットカード決済をするアプリチェックインを行うことで、当日のチェックイン手続きが大幅に簡素化される為、非接触型のチェックインとして好評を得ている。その他、ルームカードキーを投函するとリアルタイムでチェックアウト処理が行われるエクスプレスチェックアウトポストを設置し、チェックアウト処理の自動化も行っている。
 「昨年から名古屋駅周辺エリアで建設してきた3棟のうち2棟目の開業となった。需要が高い名古屋では、集中出店となるドミナント戦略を取ってきた。昨年は18ホテルが開業し、来年19ホテルの開業が見込まれるなか、今年は27ホテルが開業する開業件数が一番多い年となった。これまで、日本は海外からのインバウンド需要を受け観光立国化してきたが、今般の新型コロナウイルスの影響を受けて、宿泊業界は厳しい状況に置かれている。しかし、将来性のある観光産業には需要がある。2027年の品川―名古屋間のリニア開業は、観光産業にとっても歓迎すべきイベントになるため、今を乗り切ってさらなる躍進をしていきたい。今後も東京、大阪、福岡など需要の旺盛なエリアを中心に集中的に出店を行っていき、リニア開通が期待される名古屋においても良い立地があればタワーホテルの計画も含め建設を行いたい」(アパグループ代表 元谷外志雄氏)。
 現在同社では、FC、建築・設計中を含め、名古屋市内のアパホテルは8ホテル2286室、愛知県内では10ホテル2448室を展開している。
 名古屋市内は、「名駅エリア」での新規出店に注力しており、同年7月には全288室の「アパホテル〈名古屋駅新幹線口北〉」を開業させたほか、2021年7月には全403室の「アパホテル〈名古屋駅前〉」を開業予定であり、同ホテルを合わせると「名駅エリア」では3棟・882室となる。

一の湯 人的生産性向上を強化 安定サービスを目指す
 創業1630年で現在は箱根で温泉宿10施設を運営している一の湯(神奈川県足柄下郡)では、ビジュアルSOPマネジメントプラットフォーム「Teachme Biz」(ティーチミー・ビズ)を提供するスタディスト(東京都千代田区)と協業する。コロナ禍における衛生対策や「Go To トラベルキャンペーン」におけるオペレーション共有等に「Teachme Biz」を活用し、安定したサービス提供に注力する。
 一の湯では2015年頃から分かりやすい業務手順書の整備を進めていたものの、紙の手順書では改訂における即時性や作成の手間などの課題があった。「Teachme Biz」は作成も改訂も容易であることから2018年10月に導入、今回のコロナ禍での対応を通じて更に活用が進んだという。
 今後一の湯では「2045年に200店舗」という目標に向けた人材育成の基盤として同サービスを活用する。  同社では、リーズナブルな価格で利用客の満足度向上を図るために、従業員ひとりあたりが1時間にどのくらいの粗利益をあげたかを示す「人時生産性」を経営における重要指標に位置付けており、マルチスキル化を目指している。そのため分かりやすい業務手順書の整備を進めてきたが、紙の手順書では即時性や作成の手間などの課題があった。
 2018年10月に、手順書の作成・共有を「Teachme Biz」に変更したことで、改訂等が容易になっただけでなく、今回のコロナ禍での衛生対策や「Go To トラベルキャンペーン」など新たな業務が発生した時にも即座に対応し、安定したサービスの提供が可能になったという。
 同社では毎日の清掃のレポートおよび毎月の設備点検のレポートを「Teachme Biz」で共有。設備点検では、劣化した箇所の写真を撮って「Teachme Biz」で共有し、担当者がコメント機能を使って対応状況を報告することで、誰もが即座に状況を把握することが可能になった。
 また同施設は、ウェブサイトに掲載する「よくある質問」のページを「Teachme Biz」で作成。画像ベースの分かりやすい案内を簡単に作成・公開することで、常に最新の情報が掲載されるようになった。
 また、館内の案内についても、以前は紙に印刷したものをファイルに綴じて客室に置いていたが、現在は「Teachme Biz」で案内を作成、客室には案内にアクセスできるQRコードを配布している。これにより、紙やファイルが傷んで使えなくなるといった問題を解決した。

and factory 体験型ホテル作りをサポート
 and factory(東京都目黒区)は、KADOKAWA(東京都千代田区)が10月1日より開業した、アニメをテーマにしたコンセプトホテル「EJアニメホテル」へのスマートフォンを起点とした新たな体験を生む空間演出を手掛けた。
 「EJアニメホテル」のEJとは『Entertainment Japan』の意味で、「好きな物語に、泊まる」をコンセプトに、アニメはじめゲーム、コミック、映画、特撮、アイドルなど、日本が世界に誇るあらゆるコンテンツの世界観を演出する体験型ホテル。 同ホテルは客室・フロント・ロビー・ホテル専用レストランが「ところざわサクラタウン」最上階の6階に位置し、スイートルームやユニバーサルルーム、和室を含めた全5タイプ・33室の客室はすべてコラボルームとして展開する。
 全室に大型画面プロジェクターと高音質サウンドバー、演出用照明を備え、室内装飾やオリジナルグッズはもちろん、映像、音響、ライティングを駆使し、新感覚の宿泊サービスを提供する。
 今回、KADOKAWAが建設する「EJアニメホテル」の開業にあたり、マンガAPPやスマートホステル「&AND HOSTEL」を展開しているand factoryと様々なコンテンツを生み出し、IPを様々な形で二次展開するKADOKAWAの「EJアニメホテル」が共に、これまでになかった新たな体験を生む空間演出を提供する。
 and factoryが運営するスマートホステル「&AND HOSTEL」では、ハーマンミラージャパン(東京都千代田区)と協業し、増加するリモートワーカーに向けた「ワークスペースでのエルゴノミクスに基づいた働く環境」を、期間限定で提供している。ハーマンミラー社の持つ独自データから作成したアンケートを活用し、自身のリモートワーク環境の状態を把握した上で実際に体感してもらおうというもの。

京王プレリアホテル札幌 空室活用したレンタルスペース事業
 京王グループの京王プレリアホテル札幌(北海道札幌市)では、客室を活用した新たなサービスとして、レンタルスペース事業を開始。その第1弾として個室レンタルオフィス6室をオープンさせた。
 同サービスは、コロナ禍におけるオフィスの移転・縮小など働き方のニーズの変化を受け、客室からベッドやソファを撤去し、専用のオフィス什器・備品を配置することで、個室レンタルオフィスに転用したもの。京王グループホテル初の取り組みとなる。 
 同ホテルならではの立地や設備を活かしたハイクオリティな個室レンタルオフィスを1時間あたり1000円からの価格で提供することで、新たな働き方を求めているビジネスパーソンが気軽に利用できるサービスだ。
   ビジネスパーソンの隙間時間の活用や、出先での商談など、近年の働き方改革やコロナ禍で加速している場所や時間を柔軟に選択できる働き方をサポートする。 新型コロナウイルス拡大後、稼働率は回復基調にはあるものの、インバウンド需要等は引き続き回復の兆しが見えない状況が続いている。同ホテルでは、既存の宿泊需要だけに捉われず、コロナ禍によって加速した社会の変化や利用客のニーズを踏まえた新たなサービスを開発・提供していく。

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